創志学園・西はWHIPが0.44から1.33に急上昇 2回戦最後の4試合が行われた大会11日目。初戦との比較を行いながら、データで各試合を分析してみましょう。◇下関国際 5-4 創志学園○攻撃指標OPS 出塁率+長打率wOBA 1打席あたり…

創志学園・西はWHIPが0.44から1.33に急上昇

 2回戦最後の4試合が行われた大会11日目。初戦との比較を行いながら、データで各試合を分析してみましょう。

◇下関国際 5-4 創志学園

○攻撃指標
OPS 出塁率+長打率
wOBA 1打席あたりにどれだけチームの得点に貢献したかを表す指標
P/PA 1打席あたりの被投球数
O-swing% ボールゾーンのスイング率
Z-swing% ストライクゾーンのスイング率
Z-contact% ストライクゾーンのコンタクト率

【下関国際】
打率.111 OPS .472 wOBA 0.283 P/PA 4.71
O-swing% 13.0%(前試合 25.4%)
Z-swing% 46.0%(前試合 53.1%)
Z-contact% 92.5%(前試合 86.0%)

【創志学園】
打率.273 OPS .654 wOBA .300 P/PA 3.15
O-swing% 16.7%(前試合 18.5%)
Z-swing% 72.2%(前試合 67.9%)
Z-contact% 88.5%(前試合 87.7%)

○下関学園・鶴田克樹投手の各指標
P/IP 1イニングあたりの投球数
WHIP 1イニングあたりで安打、四球でどれだけ走者を出したかの指標
GO/AO ゴロアウトの総数をフライアウトの総数で割って算出

打者40 投球数126 WHIP 1.44
ストレート平均球速139.1キロ 最高145キロ
▼配給割合
高め 33.3%
中 23.0%
低め 43.7%

2試合通算 WHIP 1.15 GO/AO 1.73

○創志学園・西純矢投手の各指標
打者38 投球数179 WHIP 1.33(前試合0.44)
ストレート平均球速140.5キロ 最高148キロ
▼配給割合
高め 52.4%
中 11.0%
低め 36.6%

2試合通算 WHIP 0.89 GO/AO 1.09

 3安打の下関国際が9安打の創志学園を5-4で破るという試合でしたが、出塁率で比較すると、下関国際が.324、創志学園.351と、そこまで差があるわけではないようです。

 前回の登板で16奪三振、WHIP0.44というピッチングを披露した創志学園・西投手に対して、下関学園の打者はある作戦に出ました。それは「初球を振らない」こと。

 39球放られた初球をスイングしたのは、第2、第4打席の鶴田選手のみ。あとは全て見逃しているのです。しかも、この日の西投手はコントロールに苦しんでいました。初戦の創成館戦ではF-strike%(初球ストライク率)は64.3%でしたが、下関国際戦ではなんと28.2%。ボール先行のカウントで次第に球数も増え、下関国際のP/PAは4.71にも上ります。

 2回から6回まで毎回四死球を与え、苦しいピッチングが続きますが、なんとか後続を断って0点で切り抜ける西投手。7回、8回はギアチェンジしたのか、3奪三振を含む好投で6者凡退。このまま逃げ切るかと思われた9回、球数が130球を超えた影響でしょうか。全くストライクが入らず2者連続四死球を与えた後、続く打者には甘く入ったストレートを痛打されて無死満塁。その後ワイルドピッチ、タイムリーヒット、犠牲フライと続き、3失点でとうとう逆転を許してしまいます。ここでも打者は一切初球に手を出さず、じっくり球を見極めている様子がうかがえます。

 下関国際の鶴田投手は2回、8回に集中打を浴びて4失点しましたが、27.3%の空振り率を誇るスライダーで三振とゴロの山を築き、最終回に1安打されたものの0点に抑え、下関学園を初めての3回戦進出に導きました。

OPSで勝った木更津総合が興南を圧倒

◇木更津総合 7-0 興南

○攻撃指標

【木更津総合】
打率.353 OPS .950 wOBA 0.477 P/PA 3.35
O-swing% 3.2%(前試合 15.2%)
Z-swing% 64.6%(前試合 59.1%)
Z-contact% 96.2%(前試合 94.5%)

【興南】
打率.250 OPS .633 wOBA .295 P/PA 3.86
O-swing% 17.6%(前試合 17.3%)
Z-swing% 74.7%(前試合 77.1%)
Z-contact% 92.9%(前試合 92.6%)

○木更津総合・野尻幸輝投手の各指標
打者31 投球数122 WHIP 1.64
ストレート平均球速134.9キロ 最高140キロ
◆配給割合
高め 53.3%
中 13.9%
低め 32.8%

2試合通算 WHIP 1.40 GO/AO 1.05

 OPS.950と.633の差が、そのまま点差としてスコアに表れたような試合となりました。

 この試合で特筆すべき指標は、木更津総合のO-swing%。初戦も10%台と選球眼の良さは表れていたのですが、興南戦ではたったの3.2%。興南の投手陣がストライクとボールがはっきりとわかるようなピッチングであったことも一因なのでしょうが、それにしても、ここまでの選球眼であれば打者有利なカウントに持ち込み、ヒットを量産することも可能だったわけです。

MLBレイズを思わせる日大三の継投策

◇日大三 8-4 奈良大付属

○攻撃指標
【日大三】
打率.353 OPS .934 wOBA 0.415 P/PA 4.09
O-swing% 20.2%(前試合 6.9%)
Z-swing% 52.9%(前試合 66.7%)
Z-contact% 87.0%(前試合 97.0%)

【奈良大付属】
打率.182 OPS .573 wOBA .293 P/PA 4.57
O-swing% 30.1%(前試合 31.0%)
Z-swing% 64.5%(前試合 84.3%)
Z-contact% 87.8%(前試合 88.6%)

○日大三・河村唯人投手の各指標
6回 打者27 投球数122 WHIP 1.33
ストレート平均球速135.8キロ 最高140キロ
▼配給割合
高め 38.1%
中 16.8%
低め 45.1%

2試合通算 WHIP 1.00 GO/AO 1.8

 この試合でも打線が機能し、大量得点で勝利した日大三高ですが、ここでは投手陣の継投に注目します。

 日大三高の先発は2年生の井上広輝投手。右肘の故障明け初のマウンドでしたが、最高球速150キロをマークし、平均球速は1回が144キロ、2回が144.9キロ、3回が139キロのピッチングで4三振を奪取し、奪三振率は12を記録。このまま先発を全うするかと思われましたが、打者一巡したところで河村投手に交代。まるで、救援投手を先発させ、一巡したところで本来の先発投手を登板させるタンパベイ・レイズを彷彿とさせる起用法でした。

 河村投手は最高球速こそ140キロですが、全ての球種で10%以上の空振りが取れる投球術で井上投手以上のハイペースで三振を奪い、チームの勝利と東京勢甲子園通算300勝達成に貢献しました。なお、河村選手の2試合通じての奪三振率は15.5です。

 奈良大付属も3ランホームランを含む4得点で甲子園を沸かせましたが、初戦、第2戦ともO-swing%は30%台で、ボール球に手を出してしまう点は改善されなかったようです。

スライダーに磨きかかった龍谷大平安の小寺、空振り率は28%

◇龍谷大平安 14-1 八戸学院光星

○攻撃指標
【龍谷大平安】
打率.415 OPS .942 wOBA 0.415 P/PA 3.48
O-swing% 32.6%(前試合 22.9%)
Z-swing% 67.9%(前試合 71.9%)
Z-contact% 94.3%(前試合 84.8%)

【八戸学院光星】
打率.179 OPS .482 wOBA .238 P/PA 3.76
O-swing% 23.9%(前試合 19.6%)
Z-swing% 64.9%(前試合 64.9%)
Z-contact% 83.8%(前試合 96.8%)

○龍谷大平安・小寺智也投手の各指標
9回 打者34 投球数128 WHIP 1.11
ストレート平均球速141.1キロ 最高146キロ
▼配給割合
高め 26.6%
中 9.4%
低め 64.1%

2試合通算 WHIP 1.16 GO/AO 1.58

 甲子園通算101勝目は大量得点差による勝利となった龍谷大平安。得点するイニングはヒットを固め打ち、無得点のイニングはノーヒットというある意味効率のいい攻撃です。初戦サヨナラ勝ちした鳥取城北戦と打って変わって展開のためか、O-swing%が32.9%と少し雑になっているところも散見されました。

 龍谷大平安の小寺投手は初戦よりもスライダーに磨きがかかり、空振り率は28%にも上りました。

 これで大会13日目の第4試合では、日大三高vs龍谷大平安という2桁得点を記録したチーム同士の対戦となりました。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
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