優勝4回の強豪校に初出場校が挑んだ第1試合は序盤は均衡 優勝4回の強豪校vs初出場校のノーガードの打ち合い、優勝経験校vs準優勝経験校の接戦など、大会後半初日も好ゲームが展開されました。そんな第9日の試合を初戦と比較しながらデータで振り返り…

優勝4回の強豪校に初出場校が挑んだ第1試合は序盤は均衡

 優勝4回の強豪校vs初出場校のノーガードの打ち合い、優勝経験校vs準優勝経験校の接戦など、大会後半初日も好ゲームが展開されました。そんな第9日の試合を初戦と比較しながらデータで振り返ります。

◇大阪桐蔭 10-4 沖学園

○攻撃指標
OPS 出塁率+長打率
wOBA 1打席あたりにどれだけチームの得点に貢献したかを表す指標
P/PA 1打席あたりの被投球数
O-swing% ボールゾーンのスイング率
Z-swing% ストライクゾーンのスイング率
Z-contact% ストライクゾーンのコンタクト率

【大阪桐蔭】
打率.406  OPS 1.237 wOBA 0.516 P/PA 3.44
O-swing% 11.9%(前試合 16.4%)
Z-swing% 63.5%(前試合 56.7%)
Z-contact% 87.2%(前試合 97.4%)

【沖学園】
打率.257 OPS .783 wOBA .341 P/PA 3.86 
O-swing% 29.2%(前試合 23.9%)
Z-swing% 75.6%(前試合 73.9%)
Z-contact% 79.7%(前試合 92.2%)  

○大阪桐蔭・根尾昂投手の各指標
打者32 投球数119 WHIP 1.13   GO/AO 2.2
▼配給割合
高め 28.6%
中 24.4%
低め 47.1%

 5回までは大阪桐蔭が4安打3得点、沖学園が1本塁打含む3安打で2得点と均衡し、満員の観客からどよめきが湧き上がる試合展開となりました。

 大阪桐蔭の打者が沖学園の先発・石橋投手から打った球はすべてストレート。しかし、絶妙にコントロールされたストレートを打ちあぐねてしまいます。同点で迎えた5回裏、沖学園2番手・斉藤投手のストライクゾーンに入るチェンジアップに狙いを定めて1点勝ち越すと、6回裏は甘いコースに入ったストレートやスライダーを的確に捉え4得点。試合の流れを大阪桐蔭ペースに持ち込み、打撃戦を制しました。

 沖学園はZ-swing%が75.6%とかなり積極的に打ちにいく姿勢を見せましたが、根尾投手の平均球速142.8キロ、最高148キロのストレートにバットが空を斬る割合も増えてしまいました。しかし、その根尾投手から2本の本塁打を含む8安打を放ったことからも強力打線の片鱗を見せつけました。

 なお、根尾投手は全体で16%もの空振りを奪い、ストレートで12%、スライダーで22%の空振り奪取率となっています。

高岡商・山田は6回以降に平均球速が約3キロアップ

◇高岡商 5-4 佐久長聖

○攻撃指標

【高岡商】
打率.290 OPS .823 wOBA 0.400 P/PA 3.51
O-swing% 20.6% (前試合 35.1%)
Z-swing% 62.7%(前試合 75.8%)
Z-contact% 92.9%(前試合 80.9%)

【佐久長聖】
打率.257 OPS .620 wOBA .304 P/PA 3.77 
O-swing% 25.4%(前試合 31.5%)
Z-swing% 65.8%(前試合 64.2%)
Z-contact% 84.0%(前試合 86.9%)  

○高岡商・山田龍星投手の各指標
打者39 投球数147 WHIP 1.33  
▼配給割合 
高め 32.0%
中 18.9%
低め 49.7%

2試合通算 WHIP 1.19 GO/AO 1.33

 点差は1点ですが、攻撃指標では高岡商がOPS.823、佐久長聖がOPS.620 と差が開いているという印象です。両チームとも初戦のO-swing%は30%台でしたが、この試合では20%に改善してきてました。特に、高岡商はZ-swing%も減少しており、佐久長聖の投手陣の球を慎重に見極めようとした姿勢が現れています。またZ-contact%も90%に上昇。試合序盤にヒットを重ねて先制し、リードを広げる理想的な展開に。終盤、佐久長聖に1点差まで迫られましたが、山田投手が終盤にかけて球速を上げたストレートで追撃を抑え、勝利を手にしました。

 なお、山田投手のストレート平均球速は5回までは133.6キロでしたが、6回以降は136.3キロと加速しました。そのストレートで12.5%の空振りを奪取しています。

近江・林のチェンジアップは空振り率51.7%

◇近江 4X-3 前橋育英

○攻撃指標

【近江】
打率.343 OPS .810 wOBA 0.424 P/PA 3.40
O-swing% 28.2%(前試合 33.5%)
Z-swing% 78.5%(前試合 55.6%)
Z-contact% 92.2%(前試合 82.5%)

【前橋育英】
打率.257 OPS .620 wOBA .304 P/PA 3.67 
O-swing% 38.6%(前試合 27.3%)
Z-swing% 68.6%(前試合 76.9%)
Z-contact% 85.7%(前試合 80.0%)  

○近江・林優樹投手の各指標
6回 打者21 投球数80 WHIP 0.50  
▼配給割合 
高め 35.0%
中 15.0%
低め 50.0%

2試合通算 WHIP 1.18 GO/AO 0.83

 9回裏にエラーも絡んだ4連続出塁で1点をもぎ取り、サヨナラ勝ちとなった近江。打撃指標でみれば圧倒的に前橋育英を上回っているのですが、点差はわずかに1。実は近江はすべてのイニングでランナーを出していながら、点に結びついたのは1回、6回、9回のみ。前橋育英・恩田投手のZone%が45.5%という、ゾーンを広く使ったピッチングに要所を抑えられた感はあります。

 前橋育英は結局、得点は2回表の3点のみ。特に3回以降は2安打に抑えられ、反撃の隙も与えられませんでした。前橋育英打線を封じ込める原動力となったのが、近江の背番号18・林優樹投手。投じた80球のうちZone%は41.3%。特にチェンジアップのZone%は17.2%とほとんどストライクゾーンに入っていません。それだけキレのある変化だったことの証左ですが、チェンジアップによる空振り率はなんと51.7%。低めに投じられるチェンジアップで完全に前橋育英打線を翻弄しました。なお、林投手の奪三振率は2試合登板通じて8.68と高水準です。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中