【短期連載】松田丈志が解説!「パンパシ」・「アジア大会」(2)

 陵介が帰ってきたー。

 パンパシ水泳2日目、昨日行われた男子100m背泳ぎ決勝で入江陵介が52秒78の好タイムで2位に入った。主要国際大会での表彰台はじつに4年ぶり、2014年のアジア大会以来だ。高速水着時代に自身が記録した52秒24の日本記録更新も視野に入ってきた。



久しぶりの表彰台で笑顔がこぼれる入江陵介

 リオ五輪後、現役続行するか迷った時期もあったと思うが、思い切って環境を変え、単身アメリカに渡った。そのことが心身共に好影響を与えている。現役続行と単身渡米。その決断から約1年半。ようやく形になってきた。

 心の部分では、何より楽しそうに泳いでいる。今年4月の日本選手権、入江に話を聞いた時、冗談交じりにこう言った。

「アメリカで練習する方が気楽です。」

 これは日本のスポーツ界全体の課題でもあるかもしれないが、日本のスポーツ界の現場は、どうしても「結果を出さなければ」という雰囲気がある。しかし海外でトレーニングしてみると分かるが、海外の選手にそんな重苦しさは感じられない。

 私もアメリカ、豪州、イタリアなどの海外チームでトレーニングした経験があるが、皆「スポーツを楽しむ」というマインドが根底にあって、スポーツは一種のゲームだと思っている。監督やコーチに「言われたからやる」という雰囲気は皆無で、自らスポーツに取り組んでいる雰囲気だ。

 ただ、いざという時のトレーニング強度の高さや、集中力の高さは凄くて、直前まで冗談交じりにペラペラ話しているのに、突然とんでもなくキツイ練習が始まったりする。その気楽さと、トレーニングの強度の高さが今の入江にもマッチしたのだろう。

 さらにアメリカのコーチはよく褒めてくれる、とも入江は話していた。ベテランともなれば、何でもできて当たり前と思われるが、入江本来の泳ぎの技術の高さや、日々の成長を言葉にして伝えてもらえることは、常にトレーニングと向き合う選手にとってはモチベーションが高まることだろう。

 身体の部分では、いい意味で大雑把になった。

 入江の課題は常にパワーとスプリント力だった。日本にいる時もそこにアプローチをする為、肉体改造にも取り組んでいたが、なかなかやり切れなかった部分があった。

 それは泳ぎの技術が高く、かつ繊細な感覚の持ち主なので、筋力アップやパワーアップのトレーニングを行うことによる、微妙な感覚のズレ、変化が気になってしまい、肉体改造が道半ばで止まってしまうところがあったのだ。ある程度感覚の変化やズレにも目をつぶらないと肉体改造はできない。

 しかしアメリカに渡り、現地のチームに飛び込んだことで、筋力アップにつながるトレーニングで、多少の感覚のズレが出たとしても「やらざるをえない」という状況ができ、日本にいた時にはなかった力強さが増してきた。

 長年入江の体をメンテナンスしているトレーナーに話を伺うと、彼の中で「OK」となる体のコンディションの幅が広くなった、と語ってくれた。

 その変化は昨日のレースにも現れていて、長年の課題であったスタート、ターンで海外の選手と並んでも出遅れなくなってきた。

 彼本来の技術の高い泳ぎに、力強さが加わり、見事銀メダル獲得。再び世界のトップが見える位置まで帰ってきた。

 入江のコメントを聞いていても、「五輪の舞台で再び表彰台に上がる」という思いはブレていない。

 昨日のレース後のコメントでも、「この記録では世界ランク5位くらい。もっと上を目指して行きたい」と話してくれた。

 ロンドン五輪で3つのメダルを獲得した入江。五輪の表彰台からの景色は今も脳裏に残っているという。

 入江が東京五輪で再び表彰台に帰ってくる可能性は大いにあると私は思っている。泳ぎの技術と筋力アップのバランスの折り合いをどうつけていくかが、今後五輪という舞台で再び表彰台に立てるかどうかの鍵となってくるだろう。筋力アップはまだまだ可能だ。

 アメリカでのトレーニングも今やっと軌道に乗り始めたばかりだ。このパンパシ水泳に向けて帰国する前には、自ら志願して高地トレーニングも行ったという。アメリカという異国の地で、自らに必要なものを自分で取捨選択できるセルフマネジメント力もついてきて、実行するための環境づくりもできてきた。

 入江の復活は日本のメドレーリレーにとっても必要だ。私もロンドン五輪で一緒にメドレーリレーを組ませてもらったが、彼はとにかくリレーに強い。リレーでは、個人のレースよりも速いタイムで帰って来てくれる。

 日本が五輪のメドレーリレーでメダルを取るには前半の背泳ぎと平泳ぎでリードを奪うのが鉄則だ。実際ロンドン五輪の時も、入江が2位、そして北島康介さんが1位で引き継いでくれた。

 東京五輪では混合メドレーリレーも正式種目だ。これはメドレーリレーと同じ、背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形の順番で、男女2名ずつで泳ぐ種目。男女がどこを泳ぐかは自由だ。

 このパンパシ水泳でも、日本は入江・小関也朱篤・池江璃花子・青木智美で出場し、初日にこの種目で銀メダルを獲得していて、入江の復活と小関や池江の成長で、五輪のメダルが見えて来た。

 2年後の東京五輪、入江は30歳になる。

 自国開催の五輪という、これ以上にない最高の大会で、入江は、100m、200m背泳ぎの個人種目2つに、メドレーリレー2つの、4種目でメダルを狙いにいく。明日行われる200m背泳ぎにも期待が膨らむ。