【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(6) 2016年にF1を引退したのち、今シーズンからスーパーGTに挑戦しているジェンソン・バトン。シリーズも後半戦に突入し、8月4日、5日には富士スピードウェイで第5戦「富士500マイルレ…

【連載】ジェンソン・バトンのスーパーGT参戦記(6)

 2016年にF1を引退したのち、今シーズンからスーパーGTに挑戦しているジェンソン・バトン。シリーズも後半戦に突入し、8月4日、5日には富士スピードウェイで第5戦「富士500マイルレース」が開催された。

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5位フィニッシュで

「悔しい」と語るジェンソン・バトン

 山本尚貴/ジェンソン・バトン組のRAYBRIG NSX-GT(ナンバー100)は、ここまで4戦を終えて2度の2位表彰台を獲得している。計32ポイントで、ドライバーズランキングは2位。だが、今回の第5戦・富士は大会前から厳しいレースになると予想された。

 というのも、富士スピードウェイは国内最長を誇る約1.5kmのロングストレートに加え、低速で回るコーナーが多く、NSX-GT勢にとっては比較的相性のよくないコースだからだ。実際、5月に同地で行なわれた第2戦でもNSX-GT勢は苦戦を強いられ、100号車も9位に終わった。

 さらに、100号車は今回、64kgものウェイトハンデがある。バトンも「我慢のレースになるだろう」と語っていた。

 そんな状況下で始まった第5戦の決勝レース。今回はシリーズ最長となる500マイル(約800km)で争われるため、途中4回ものドライバー交代を行なう長丁場の戦いに挑んだ。

 すると、予選9番手からスタートした100号車は、レース序盤からいきなり不運に見舞われる。11周目、他車との接触を避けようとして1コーナーでスピン。一気に14番手まで後退してしまった。それでも、山本はあきらめずに8番手まで挽回。36周を終えたところでピットインし、今度はバトンがマシンに乗り込んだ。

 ところが、ここでバトンのスーパーGT経験不足が露呈してしまう。コース後半のダンロップコーナーで、GT300マシンがトラブルでストップ。マシンを安全に回収するため、黄旗2本による振動提示(通称ダブルイエロー)が行なわれた。

 ダブルイエローとは、マシンの停車によってコース上が塞がれていたり、マーシャル(マシンの回収等を行なう係員)がコース近くで作業をしている場合に出されるフラッグのこと。通常のイエローフラッグより「危険な状態であること」を走行中のマシンに知らせるもので、万一の際はマシンを停車できるほどの速度まで減速しなければならない。もちろん、追い越しは厳禁だ。

 そのダブルイエロー区間で、バトンはGT300のマシンを追い抜いてしまった。ダブルイエロー中の追い越しは罰則が重く、100号車には「10秒ストップペナルティ」が科せられてしまった。

 レース後のバトンによると、完全にダブルイエローを見落としていたという。バトンがこれまで慣れ親しんできたフォーミュラカーとは違い、屋根付きのGTカーはピラー(柱)などが死角となって視界が制限される。また、GT300マシンとの混走で追い抜きを繰り返す慌ただしい状況が重なり、バトンは違反を犯してしまったのだ。

「このペナルティで、合計45秒くらいタイムロスしてしまった。これがなければ表彰台を確保できていたかもしれないと思うと、悔しいね」(バトン)

 その結果、100号車は14番手まで後退。ポジションはまた振り出しに戻ってしまった。だが、ここからバトンはスーパーGTでの成長ぶりを見せる。

 5月に行なわれた第2戦でのバトンはペースが上がらず、ライバルに抜かれる場面が多々あった。だが、今回はライバルに劣らぬ1分32秒台のペースを維持。しかもGT300との混走でありながら、そのペースはまったく乱れることがなかった。

 その後は山本とともに順位を上げていき、5位でフィニッシュ。最終的にはトップから32秒差まで追い上げてのチェッカードフラッグだった。

「タフなレースだったけど、こうしてポイントを獲得することができてよかった。途中のペナルティは痛かったけど、(山本)ナオキもチームもすばらしい仕事をしてくれたので、ポジションを取り戻せた」(バトン)

 レース後のバトンに、笑顔はなかった。ただ、レース後半にペースよく走れたことは自信につながったという。

「ウェイトハンデとうまく向き合っていかなきゃいけないのがスーパーGTの難しいところ。僕自身、まだまだ学ばなければいけない部分はたくさんあるけど、開幕のころから比べると自信を持てるようになっている。

 次のSUGO(第6戦)ではいいパフォーマンスを出せると思うし、オートポリス(第7戦)もホンダ勢が得意とするサーキットだ。最終戦のもてぎ(第8戦)はライバルのほうが速そうだから、SUGOとオートポリスで大量得点が必要になるだろう。次もいい結果を出せるようにがんばるよ」

 第5戦・富士を終えて、山本/バトン組はトップから7ポイント差のドライバーズランキング3位。チャンピオン獲得も十分に狙える射程距離だ。今回の悔しい経験をバネに、バトンは残り3戦でどんな走りを見せてくれるのか。スーパーGT初挑戦の冒険は、まだまだ続いていく。