8月8日、プレミアリーグのチェルシーは、スペイン代表GKケパ・アリサバラガ(23歳)をリーガ・エスパニョーラ(スペインリーグ)のアスレティック・ビルバオから獲得したことを発表した。 7年契約で、移籍金はGK史上最高額の8000万ユーロ…

 8月8日、プレミアリーグのチェルシーは、スペイン代表GKケパ・アリサバラガ(23歳)をリーガ・エスパニョーラ(スペインリーグ)のアスレティック・ビルバオから獲得したことを発表した。

 7年契約で、移籍金はGK史上最高額の8000万ユーロ(約103億円)。これまでの最高はリバプールがローマから獲得したブラジル代表アリソン・ベッカーの7500万ユーロだったが、それを更新することになった。ケパは今年1月にビルバオと2025年までの契約を更新したばかりで、満額の違約金を支払ったことになる。

 では、100億円以上もの値が付いたケパとは、どのような実力の持ち主なのか?
 



チェルシーへの入団会見に臨んだケパ・アリサバラガ

 物心ついたときから、ケパはGKだったという。6歳でサッカーを始め、9歳のときに地元バスクの名門ビルバオにスカウトされている。大柄で運動能力に優れた少年だった。

 11歳のとき、ある試合でFWが足りず、急遽プレーしたときには2得点を記録。”二刀流”も可能なほどだったが、本人の強い意志でGKに専念した。16歳になると大人たちに混ざってプレーするようになった。

 当時の監督、知将マルセロ・ビエルサに引き上げられ、17歳でトップの練習にも帯同している。このときはトップデビューまでいかなかったが、20歳で2部ポンフェラディーナに半年間、期限付き移籍。さらに2部バジャドリードでプレーして経験を積み、21歳でビルバオに戻ると先発の座をつかんだ。22歳でスペイン代表に初選出され、ロシアW杯でもメンバー入りしている。

 イタリア代表のジャン・ルイジ・ドンナルンマ(19歳)と並び、「次世代の世界最高GK候補」といわれている。

 身長189cm、体重84kgと、恵まれた体をしているが、特筆すべきは手足の長さだろう。反射神経が鋭く、ステップが軽やかなのもあって、目に見えて守備範囲が広い。

「まるで漫画のキャラクターのように、手足が伸びるような感覚がある」

 敵のシューターたちはそう言って唸る。上も下も、空いているはずのコースを切られているような印象を受けるというのだ。

 ケパを生んだバスク地方はホセ・アンヘル・イリバル、ルイス・アルコナダ、アンドニ・スビサレータなど歴代のスペイン代表の半分以上を生み出し、GK王国といっても過言ではない。

 その理由のひとつは、バスク地方で親しまれるペロタやビーチサッカーにあるといわれる。さまざまなスポーツに興じることで、動体視力やダイブする感覚を学べるのだ。

 とりわけペロタは、バスクでサッカーと並ぶ人気スポーツだ。フロントンと呼ばれる試合会場は、どんな小さな村にも建っている。ペロタは素手で硬球を壁に打ち合い、空中を飛ぶボールの芯を捉えて叩くだけに、エリア内でプレーする機会が多いGKやFWに影響を与えるという。ケパもペロタの愛好者だ。
 
 また、変わった経歴も持つ。チームメイトから「Jilguero」というあだ名をつけられているが、これはスペイン語でヒワ(すずめ科の鳥)という意味。ヒワを捕まえ、手なずけ、美しくさえずらせる大会に出場し、優勝しているからだ。

 辛抱強く向き合える性格なのだろう。冷静沈着。取り乱すことがない。

「ケパは浮ついたところがなく、落ち着きがある。GKとして能力だけでなく、そのキャラクターも天分に恵まれている。精神的に成熟した選手で、きっと偉大な選手になるだろう」

 同じバスク人GKだったジュレン・ロペテギ(前スペイン代表監督、現レアル・マドリード監督)も絶賛している。

 実はそのポテンシャルの高さを評価され、今年1月にはレアル・マドリード移籍が内定していた。ところが、ジネディーヌ・ジダン監督(当時)の反対によって破談に。それは正GKケイロル・ナバスへの信頼を示すためだった。

 ケパ本人は相当なショックを受けたようだが、その悔しさもGKとしての厚みとしている。その証拠に、レアル・マドリードとのアウェーゲームはビッグセーブを連発。1-1の引き分けに持ち込む大活躍で、その価値を高めた。

 ケパはチェルシーで活躍できるのだろうか?

 プレミアリーグはリーガ・エスパニョーラよりも、単純なクロスボールの攻撃が増える。接触プレーが多く、ゲームリズムも異なる。戸惑うことが多いはずで、バルサからマンチェスター・シティに移籍したチリ代表GKクラウディオ・ブラーボは苦しんでいる。

 しかし、ケパはさほど苦にしないのではないか。バスク地方のプレースタイルは、スペインのなかではプレミアリーグにやや近い。「アスレティック」という英語名表記にあるように、伝統的に英国の影響を受けており、激しいプレーに対する免疫はある。そもそも、空中戦の展開が多いのだ。

「チェルシーのようなクラブが、自分に期待してくれたことを誇りに思う。このクラブの勝ち取ったものやそれを支える町に、大いに惹かれた。自分の人生にとって、大きな決断になった」

 ケパはチェルシー入団に際し、決意を新たにしている。入れ替わるように、ベルギー代表GKティボー・クルトワはチェルシーからレアル・マドリードに移籍した。これからGKの玉突き移籍が始まるともいわれている。

 スペインの若きGKが、100億円の価値を示すのはこれからだ。