試合前の10分間で、「この投手は本物だ」と確信した。

「投低打高」と言われる今夏の甲子園で、大会前から「ナンバーワン投手」と評判になっていたのが、金足農(秋田)の右腕・吉田輝星(こうせい)だった。



鹿児島実戰で14奪三振を記録した金足農のエース・吉田輝星

 甲子園大会では、試合開始前に報道陣に各チーム10分間の取材時間が設けられる。金足農対鹿児島実の試合前、吉田は鈴なりの報道陣を前にして堂々と自身の投球論を語ってくれた。聞いていて、おっと思わされた言葉をいくつかピックアップしてみたい。

「(秋田大会で)150キロは出ましたけど、球質は死んでいたので、球質の伴った球速を求めたいです」

「(調子のバロメーターを聞かれ)ボールの回転がきれいかどうかと、体重が前足(左足)に乗れているかどうかです。回転は音も大きいかどうかを気にします。まずリリースで『パチッ!』と音がして、扇風機みたいに『シーッ!』と風が吹くような音が鳴ればいいときです。悪いときはボールの縫い目にしっかり指が掛からなくて、『ゴー!』と汚い回転音になります」

「三振ばかりだと球数が多くなりますし、攻撃にいい流れがいきません。2ストライクに追い込むまでは打たせて取ることを考えています。追い込んだらしょうがないので、三振を狙います」

 誰が見てもいい投手なのは間違いない。そして、吉田はただ能力が高いだけでなく、思考力もある。短い取材時間とはいえ、それはすぐに伝わってきた。

 身長176センチ、体重81キロ。上背に恵まれているわけではないが、スピンの効いたストレートにカーブ、スライダー、カットボール、ツーシーム、チェンジアップ、スプリットと多彩な変化球を操る。そして吉田が評価される最大の理由は、その投球センスにある。

 打者の顔色や大局を読みながらクレバーに試合をコントロールして、牽制球、フィールディングも抜群にうまい。そんな投球スタイルから、「桑田真澄2世」と評するメディアもあった。吉田は「桑田さんの足元にも及びません」と苦笑しつつも、桑田の高校時代の映像を見て参考にしているという。

「この投手はちょっと違う」と感じた言葉は他にもあった。甲子園での登板を控えた吉田に「何か気になっていることや不安なことはありますか?」と聞いたときのことだ。吉田は少し考えてからこう答えた。

「風が他の球場とは違うので、チームとして守りで声掛けをしっかりしたいと思います。応援の音が大きくて、声が聞こえにくいと思うので」

 自分の投球云々の前に、チームが勝つためにチェックすべき要因を挙げたのだ。吉田の視野の広さを感じずにはいられなかった。吉田は甲子園という大舞台でただ投げて、プロスカウトにアピールできればいいという感覚では来ていない。勝つために甲子園に来ていたのだ。

 いざ鹿児島実との試合が始まると、その実力と思考力は随所に顔を見せた。たとえば1回表、二死二塁で鹿児島実の主砲・西竜我を迎えた場面。鹿児島大会で打率.524、1本塁打8打点と結果を残した左打者に対して、吉田は2ボールからストレートを続けた。146キロで1ストライク、147キロでファウルを打たせ2ストライク。多彩な球種を持つ吉田なら、ここでチェンジアップなど落ちる変化球も使うことができたはずだ。だが、吉田は144キロのストレートを外角いっぱいに決め、空振り三振に仕留めた。

 試合後、吉田はこのように振り返っている。

「西くんは鹿実で一番いいバッターなので、1打席目で真っすぐを見せつけておくことで、のちのち変化球も生きてくると思いました」

 吉田はただ西を抑えるだけでなく、ねじ伏せることで鹿児島実打線の勢いを封じ、金足農に流れを持ってきたのだ。事実、金足農は序盤から主導権を握り、3回には3点を奪って試合を優位に進めている。

 重力に逆らうような吉田のストレートは、確実にレベルアップしている。1年前の映像と今夏の映像を見比べてみると、吉田の投球フォームは明らかに体重移動がスムーズになっている。そのことを吉田に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「下半身を強化したことで、下に粘りが出てきました。軸足(右足)に残した力を、最後に回転して前足(左足)に乗せるんですけど、その乗りがよくなりました」

 必然的にボールを打者寄りで力強くリリースできるようになり、スピードガンだけでは計れない強烈なキレを生み出している。吉田はこうも言っている。

「よくキャッチャーの菊地(亮太)からも言われるんですけど、いい日のストレートはワンバウンドするかな……というところからスピンが効いて低めのストライクゾーンギリギリに収まります」

 鹿児島実戦の成績は14三振を奪い、1失点完投勝利。とはいえ157球もの球数を要し、被安打9、暴投3の内容は本人にとって満足のいくものではなかった。吉田は試合後、自身の投球への採点を求められ「30点」と答えている。

「相手の打線が素晴らしくて、低めの変化球を見極められてほとんどストレート一辺倒になってしまいました」

 したたり落ちる汗を拭おうともせず、吉田は清々しい笑顔で甲子園でのマウンドを振り返った。

「秋田とは違って蒸し暑くて、なかなか呼吸が回復しないなと感じました。打席に入って、塁に出て、ベンチに戻って、水分を摂ってからマウンドに上がっても、秋田大会よりも疲れが残っていることが多かったです。汗かきなので、もっとたくさんアンダーシャツを持ってくればよかったです」

 2回戦は8月14日、大垣日大(岐阜)との対戦が決まった。まだ底を見せていない大会ナンバーワン右腕がさらなる躍動を見せれば、大会が終わる頃には各メディアに「ドラフト1位候補・吉田輝星」の見出しが躍っているに違いない。