6-1、6-1の圧勝で掴んだ5度目のウインブルドン・ダブルス優勝。だが、トロフィーを手にする上地結衣(エイベックス)の顔に、さほど喜びの色はない。

「彼女と私が組んでたら、負けることないやんってみんなに言われるので……」

そう言って謙遜の笑みを浮かべるも、そのような周囲の視線は誇張でもなんでもない。彼女が今大会でダブルスを組んだパートナーは、上地を抜いて世界1位に座するディード・デグルート(オランダ)。圧倒的な攻撃力を誇る、21歳の若き女王だ。

女王の座奪還を目指す上地にとって、デグルートは最大のライバルである。対戦成績は上地が12勝6敗と大きく勝ち越すが、ここ5戦に限って言えば1勝4敗。かつての自分がそうであったように、オランダの新鋭は若さを追い風として、この1年で急成長して頂点へと駆け上がった。

デグルートに対する上地の警戒心は、6月の全仏オープンでの彼女の言葉が浮き彫りにする。デグルートの試合の動画をチェックし、対戦相手のプレーのなかから参考になりそうな戦術を整理し、頭に入れていた。それが功を奏し、全仏決勝では鮮やかな逆転劇を演じて快勝。ただ、それでも上地には、自分本来のテニスではなかったという、微かな歯がゆさもあったようだ。

精度の高いショットと巧みな車椅子操作を駆使し、コートを広く使うのが上地結衣のテニス。ただ、その精緻かつ頭脳的なテニスでまだ手にしていないのが、ウインブルドン・シングルスのタイトルだ。

今回も悲願達成に挑んだものの、結果は準決勝敗退。芝が車いすのウィールに絡みつくグラスコートでは、上地の武器である機動力や敏捷性が生かしきれない。そうなると、「早く決めなきゃと焦る悪循環」に陥り、デグルートの待つ決勝までたどり着くことができなかった。

ところが、シングルス敗退と同日に行なわれたダブルスでは、望むプレーができている自分に気づく。

「何が違うのだろう?」

そう考えたときにふと思ったのが、ダブルスではたとえ芝でも、相手の動きを見ながらプレーできていたこと。立て続けに行なった単複のプレーを重ね比べてみることで、「精度の高いショットを打ち、先々の展開を読む」という自身の長所を、客観的に見つめられた。

さらにはもうひとつ、ダブルスを戦いながら、上地が気づいたことがある。それは、パートナーのデグルートのプレーの特性だ。

「彼女はけっこう、前に詰めているなと思いました。ベースラインより、30~40cmはコートの中に入って打っている。それは、自分が対戦しているときは見られなかったこと。サーブやポジション取りなど、『そういうふうにやってるんや』と思うところはありました」

それら今回気づいたことは、今後の対戦に活かせそうか……? そう問う声には、「これからじゃないですかね」と答えるにとどまった。

だが、日ごろからトップ選手や追い上げてきそうな若手をも分析し、仔細にノートにつけている彼女のことだ。今回の発見を、次の対戦に活用してくるのは間違いない。

2012年のロンドン・パラリンピックにも出場している上地は、まだ24歳の若さながらもツアー転戦の経歴は長い。近ごろでは、以前にはほとんど感じなかった心身の「疲れ」を覚えることもあるという。

ただ、それは「気が抜けない試合が増えた」ためであり、女子車いすテニス全体がレベルアップした証左でもある。その底上げの牽引者であるフロントランナーは、「前回1位から2位になったときは焦りがありましたが、今はあんまり、そういう気持ちはなくて」と言った。

「自分のなかで、まだできていないこと、やりたいことがある。どれくらい時間がかかるかわからないけれど、それができたときに勝てるようになる……何か変わるだろうというイメージがある」

ひと言ひと言に確信を込める上地は、「それがあるうちは、モチベーションは高く保てます」と断言した。

今回のライバルとの最強ペアは、昨年までのパートナーが産休でツアーを離れているために急遽、実現したものだ。だから、周囲から「当然」と見られた優勝に、そこまでの喜びはない。

だが、それ以上に価値ある新たな発見とモチベーションを、上地は勝利のコートから持ち帰った。

*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです