16年リオディジャネイロ五輪のレスリング女子48キロ級で金メダルを獲得し、歓喜の絶頂を味わってから2年。登坂絵莉(24=東新住建)は試練の真っただ中にいる。昨年1月に左足親指付近の内視鏡手術、10月の練習中に左膝と左足首靱帯を損傷し、…

 

 

 16年リオディジャネイロ五輪のレスリング女子48キロ級で金メダルを獲得し、歓喜の絶頂を味わってから2年。登坂絵莉(24=東新住建)は試練の真っただ中にいる。昨年1月に左足親指付近の内視鏡手術、10月の練習中に左膝と左足首靱帯を損傷し、完治しないまま出場した12月の全日本選手権は準決勝を棄権。年末は左足首三角骨除去の内視鏡手術と度重なるケガに泣かされた。今年6月に行われたレスリング全日本選抜選手権も準決勝で昨年12月の全日本選手権覇者の入江ゆきに2-6で敗れ、世界選手権の代表を逃した。

 自国開催の東京五輪まであと2年。23日にココカラネクストの独占取材に応じた登坂の表情に暗さはない。紡ぎだした言葉は現在の苦境に対する感謝の気持ちだった。

 「勝っている時は周りのありがたさに気づかないんですよね。少し天狗になっていたのかな…。ケガをしている時は表舞台に立っていないのに、みんなが凄く心配してくれたり声を掛けてくれたり、出会ったことがない人にSNSで『ケガは大丈夫ですか?』とコメントが来たり。たくさんの応援があって私は今、レスリングができているんだなと初めて心底感じました。ケガがなかったら、『自分が頑張ったから』という心がどこかにあったと思う。いつまでたっても周りの支えに気づかなかったと思います」。

 レスリングの競技人生で負けて落ち込んだことは一度もないという。敗戦のショックを味わっても気持ちを切り替えられるのは、五輪に出て金メダルを獲るという明確で大きな目標があるからだ。「リオ五輪の国内予選や東京五輪の予選に負けたら落ち込むだろうけど、(今年6月の)全日本で負けてもこれがゴールじゃないと思えた。肝心の試合は次だと思います。小さなころから父から『これがゴールじゃない。終わりじゃない。目指すのは五輪だから』と常に言われていました」と強調する。

・合わせて読みたい→
ラグビー選手の日々の生活とモチベーションの持ち方 松島幸太朗インタビュー1(http://cocokara-next.com/motivation/kotaromatsushima-interview-01/)

 愛くるしい童顔からは想像できない戦略家の一面がある。リオ五輪前のアジア選手権準決勝で、孫亜楠(中国)に4-5で敗戦。3年半ぶりの黒星を喫したが、実は試合前に他の選手では想像できない戦略に頭を張り巡らしていた。「試合が始まったら負けたくないと思うし当然全力でやります。負けたのは自分の力不足です」と前置きした上で、「実はあの時、中国の2選手が代表を争っていたんです。アジア選手権に出てた選手は絶対勝てると思った。でも私は出場していないもう一人の選手の方が嫌だった。対戦したことはないけど、これは絶対に勝てないタイプだなと感じたんです。だったらアジア選手権で負けたらこの選手が代表になるなと。中国の選考基準はわからないけど世界選手権3連覇している人(登坂)に勝ったら評価も絶対上がるだろうし。五輪に勝つためですね。だから負けて凄くホッとした自分がいた」。

 もちろん、登坂はマットに上がって対戦相手に全力を尽くした。だが、この複雑な感情が勝負の細部に影響を及ぼした可能性は否定できない。五輪で金メダルを獲るための執念、思考回路は衝撃的だった。

 次戦は12月の全日本選手権が控えている。「絶対復活してやるという気持ちでやっています。国内の争いに勝てていないので。国内で勝つ=金メダルですね。世界で勝つ自信はあるけど、国内で勝たないと出られない。五輪だけは何もかもが違います。20年の東京五輪は自国開催。絶対2連覇してやると気持ちを持って前に進みたい」と言葉に力を込めた。リオ五輪決勝では残り13秒で逆転し、金メダルを獲得した。東京五輪で2大会連続金メダルの栄光を勝ち取るため、登坂は試練を糧にしてはい上がる。

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]