テニスの賞金は、グランドスラムでは2007年から男女差がなくなった。しかし実際のところ、男子選手と女子選手では同じ金額を稼げているのだろうか?◆2007年以降、グランドスラムでは男女平等 映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が日本でも7月6…

テニスの賞金は、グランドスラムでは2007年から男女差がなくなった。しかし実際のところ、男子選手と女子選手では同じ金額を稼げているのだろうか?

◆2007年以降、グランドスラムでは男女平等

 映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が日本でも7月6日から公開されている。1973年にアメリカのテニス界で起こった実話をもとにした映画だ。当時、テニスの優勝賞金には大きな男女差があった。女子選手が受け取れる額は男子選手のわずか1/8だったのだ。そして当時、アメリカから世界に広がった男女平等を求める動きと相まって、女子チャンピオンのビリー・ジーン・キングが女子選手の立場を向上させようと、男子と同額の賞金を求めたのだった。

 あれから45年、テニス界は変わったのだろうか。グランドスラムでは2007年以降、全4大会で男女の優勝賞金は同額だ。英紙ガーディアンによると、4大大会の中で最も早く男女平等にしたのは全米オープンで1973年だった。そこからかなりの年月を経て、2001年に全豪オープン、2006年に全仏オープン、そして最後に2007年、全英オープンが賞金額をそれぞれ男女平等にした。

 では2018年の現在は、プロテニス選手は男女で同等の稼ぎを得られているのか、というと話はそう単純ではないようだ。英紙インデペンデントは、男女のトップ選手2人がこれまで稼いだ金額で比べた。セレナ・ウイリアムズとロジャー・フェデラーはともに36歳。グランドスラムでの優勝回数は、ウイリアムズが1999年の全米オープンを皮切りに23回、フェデラーが2003年の全英オープン以降20回だ。

 つまり、ウイリアムズが優勝回数で若干リードしているものの、2人はほぼ同じ実績を挙げてきた。では、稼いだ金額はどうだろうか。ウイリアムズがこれまで稼いだ賞金は6,420万7,128ポンド(約93億7300万円)、フェデラーは8,827万5,577ポンド(約128億8600万円)だ。その差は2,406万8,449ポンド(35億円強)で、2人はほぼ同じキャリアにもかかわらず、フェデラーの稼ぎの方が格段に多い。

 一方で、7月14日付のガーディアンによると、男女ランキング上位100位までの選手を同じ順位同士で比較した場合、女子選手よりも賞金を多く稼いだ男子選手は71%に上った。

 BBCは、女子のみのイベントの場合、男子のみのイベントと比べて賞金額が少ないと指摘しており、これが女子選手の稼ぎが男子選手と比較して低い一因になっているようだ。

◆テニスを盛り上げているのは誰?

 2016年、インディアンウェルズのCEO(当時)が、男子の人気選手の集客力に便乗しているのだから女子選手は「ひざまずいて神に感謝すべき」と発言し、辞任に追い込まれたことがあった。インディアンウェルズでは男女同額の賞金が支払われている。当時ノバク・ジョコビッチ選手は、CEOの発言は「不適切」としながも、「誰のおかげで(テニス界が)注目され、誰のおかげでチケットが売れているかを考慮して、賞金は公平に配分されるべきだ」と述べたとBBCは伝えている。BBCはさらに、ジョコビッチ選手は「男子の試合を見る人の方が多いのだから、男子選手の方が多額の賞金をもらうべき」とも発言したと報じていた。

 では一体、ファンは「誰」を目当てにテニスに注目しているのだろうか? BBCによると2015年、ATP(男子プロテニス協会)ツアー全体をテレビなどで視聴した人の数は9億7300万人だったが、WTA(女子テニス協会)は3億9500万人だった(グランドスラムを除く)。同年の全英オープン決勝戦は、男子(ジョコビッチ対フェデラー)は920万人、女子(ウイリアムズ対ガルビネ・ムグルッサ)は430万人が視聴した。一方で2014年の全米オープン決勝戦では、男子(マリン・チリッチ対錦織圭)の視聴者数が190万人だった一方で、女子(ウイリアムズ対カロライン・ウォズニアッキ)は400万人が視聴した。つまり、必ずしも常に男子の方が人気というわけではないようだ。

 賞金の男女差を語る時、よく引き合いに出されるのがセット数の違いだ。しかし女子の方がセット数が少ないというのも性差別的だとインデペンデントに指摘するのは、英国スポーツ哲学会のポール・デーヴィス会長だ。女性には5セットもプレーできないという決めつけで女性は差別され、一方で男子選手は女子よりも強さや耐久力において優れているはずだという決めつけで差別されている、と説明する。インデペンデントは、例えば男女ともに同じ距離を走るマラソンのように、テニスも男女が同じ条件で試合すべきで、バトル・オブ・ザ・セクシーズのように男女で対決する試合があってもいいはずだ、と提案している。(松丸さとみ)

※写真はともに36歳(現在)のセレナ(左)とフェデラー(右)

(PROMA1, Dana Gardner / Shutterstock.com)