ロッテ・井上晴哉(せいや)がチームの4番として文句のない数字を残している。ここまで(7月24日現在)77試合に出場…
ロッテ・井上晴哉(せいや)がチームの4番として文句のない数字を残している。ここまで(7月24日現在)77試合に出場し、打率.292、18本塁打、66打点。プロ5年目にして、ようやく井上の持つ豪快なイメージと数字が合致した感がある。井上が言う。
「鳥越(裕介)ヘッドコーチにも、そのようなことを言われました(笑)。自分自身、バッティングで数字が残せていないことに、ずっとモヤモヤしていました。周りからも『何かきっかけさえつかめば、すぐに結果は残せるだろう』って言われていたのですが、そのきっかけが何かわからないまま4年が過ぎてしまって……」

ここまでキャリアハイの成績を残している井上晴哉
これまでの4シーズン、井上の一軍での成績は以下の通り。
2014年/36試合/打率.211/2本塁打/7打点
2015年/5試合/打率.182/0本塁打/0打点
2016年/35試合/打率.232/2本塁打/16打点
2017年/35試合/打率.230/0本塁打/11打点
二軍では格の違いを見せていただけに、一軍でのこの低調な数字が不思議でならなかった。昨年の開幕前、そのことについて井上に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「もうホームランが2本とか、次元の低い数字で終わることはないと思います。2016年にクライマックス・シリーズを経験して、野球は純粋に楽しまないと面白くないし、結果も出ないということがわかったんです。それまでの僕は、一軍の瀬戸際選手として、どうしてもリスクを考えてしまい、打席での度胸がなく、メンタルから壊れてしまっていたので……」
結局、その2017年シーズンも結果を残すことはできなかったが、繰り返しになるが、今年ようやく、井上のイメージと数字が合致したのである。
「去年もホームランこそ出ませんでしたが、最初の方は楽しみながらできていたんです。自分のなかでは手応えがありました。でも一度、調子を落としてしまって、そこからいつものループというか……。『どうしようかな』『何しようかな』って、また自分で抱え込んでしまい、二軍に落ちてしまいました。
そのなかで、今年はチームが大きく変わり、ある意味、自分自身もリセットできました。オープン戦でも目先の結果ではなく、自分のやりたいことを貫くことができた。それが実となり、今の成績につながっているのかなと思います。なにより、調子が落ちてきたときにも起用してもらえたことが大きかったですね」
今シーズン、ここまでの井上の打順を見ると、実に興味深い。開幕戦は4番でスタートするも、5番、6番、7番と緩やかに下降。しかしその後、6番、5番と上昇していき、7月9日から再び4番を任されることとなった。
「試合に出続けられることで、気持ちに余裕が持てるようになったことが大きいですよね。メンタルが整っていれば技術は発揮できますし、たとえ失敗しても、それを成功につなげるために試合でいろいろ試せるようになってきました。
井口(資仁)監督からも『ホームランは狙うな。二塁打を狙え』と、開幕当初から言われていたんですけど、それがよかったのかもしれないですね。去年までは『ホームラン打って当然だろ』という気持ちでしたから。井口監督も、僕のメンタルを知っているのかはわかりませんが、一緒にファーストもやっていましたし、僕に気持ちの余裕を持たせてくれているのかもしれません」
好調のバッティングについては「これをやれば大丈夫というのがあって、まだまだ途中ですけど、今はそれができています」と井上は言う。
「金森(栄治)コーチにバッティングを教わることで新しい発見がありました。金森コーチがおっしゃる”ボディーターン”があって、要は体を一気に回転させる。そのためにヒジのたたみ方を覚えたことは大きいですね。結局、体が回りきらないとボールに力が伝わらないですから」
今シーズン、井上が放った18本のホームランのうち10本がセンターから逆方向で、風速10メートル以上の逆風が吹くこともあるZOZOマリンスタジアムで9本放っている。
「僕のバッティングの基本はセンターに打ち返すことで、いちばん力が伝わるのが右中間方向です。今年はそこを基本にして、広角に打球を散らせていると思います。この球場(ZOZOマリンスタジアム)は、完璧にとらえても絶対に入るとは限らないので気が抜けないのですが、ここまで打ったホームランの感触は過去最大の手応えと言っていいと思います」
―― 今シーズン、井上選手の打席を見ていると、どんなカウントでも最後までボールから目を離さず、強くスイングしているという印象があります。
「強く振るというより、『ボールに(バットを)強くぶつける』ですね。ボールを最後まで見るのは、強くぶつけるためのタイミングをはかるためです。今は、それが結果的に打席での粘りにつながっていると思います。調子がよくないときは、ぶつけてはいけないボールに手が出てしまいますし、何がしたいのかもわからないことになっちゃっていますね」
井上は「今年は新しい発見が多く、それが成績にもつながっています」と話し、エースの涌井秀章との試合前の会話もそのひとつだと言う。
「あるとき、試合前に涌井さんから『今日は(相手先発投手の)何を狙ってんの?』と聞かれたんです。僕は『これを待とうと思っています』って言ったら、涌井さんは『いや、それじゃないだろう』みたいな感じで言われて(笑)。
今は少しですが、涌井さんと意見が合うようになってきました。やっぱり、狙い球を絞ることは大事ですからね。涌井さんと意見が合うことで、迷いなく打席に立てる部分も大きいです」
昨年は最下位に沈んだロッテだが、井口新監督のもと、スピードを武器にした野球でここまで3位と粘り強い戦いを見せている。ちなみに、盗塁数90は、94個の西武に次いでリーグ2位である。
「僕も”走る”ということは意識しています。ただ、みなさんもわかってくださると思いますが、ほかの選手と比べて走ることは得意ではありません。そういう意味で、みんなが走って広げてくれたチャンスを生かすことが、僕のなかのテーマです。
今のところ、そういう場面での一発が出るようになりました。でもそれは、みんながそれぞれの役割を果たしているからだと思っています。ランナーが走ってくれるから、ピッチャーの集中力が分散される部分もありますので」
長いシーズンも折り返し地点を過ぎた。チーム本塁打数は45本塁打とリーグ最少。この先の戦いを考えると、”4番の一発”はより貴重なものとなってくるに違いない。鳥越ヘッドコーチは井上について、「これからは4番としての立ち居振る舞いが大事になってきます」と言った。
「余計な心配がなくなり、やっと『野球をしているな』という感じですね。4番としてチームを背負うなかで、しっかりと期待に応えようという姿勢が見えますし、打席でも簡単に終わらず、なんとかしようとしています。この先も、何があっても下を向かずにやってほしいですね」
現時点で井上は、すべての数字においてキャリアハイを大幅に更新中だが、「数字は見ていません」と言う。
「出場試合数もすでに過去最高の倍ですし、僕にはすべてが未知の世界で……自分の基準がないんですから。これからも謙虚に、前の日の自分はどうだったかを振り返り、しっかりと準備したいですね。チームが勝つために、毎日、その場の仕事をまっとうする。それだけですね。いま考えているのは」
しっかりした4番のいるチームは強い――今シーズンの井上を見ていると、あらためてそう思うのだった。