【連載】道具作りで球児を支える男たち RYU・前編 4月30日のDeNA戦で、日本球界では12年ぶりとなる復活勝利を…
【連載】道具作りで球児を支える男たち RYU・前編
4月30日のDeNA戦で、日本球界では12年ぶりとなる復活勝利をあげた松坂大輔。前半戦で3勝を記録し、セ・リーグ先発投手部門のファン投票1位で2006年以来となるオールスター出場も果たした。
復活のストーリーを紡ぐ”平成の怪物”が使用するグラブには、龍をモチーフとした見慣れないラベルがついている。
「RYUを纏(まと)え。」――。このキャッチコピーを掲げ、2017年7月末から販売を開始した「GLOVE STUDIO RYU」のグラブだ。松坂が中日に移籍後、初登板となった4月5日の巨人戦をはじめ、その後もほとんどの試合でRYUのグラブを使っている。
松坂が使用していることで話題のグラブ
「RYU」
販売が開始されて以降、SNS等の口コミを中心にジワジワと認知度が高まっていたが、松坂の使用で人気に火がつき、現在オーダーグラブは約半年待ちの状態。販売開始から、わずか1年で迎えた”大ブレイク”について、ブランドを立ち上げた職人・河合龍一(かわい・りゅういち)は、感謝を込めながらこう語る。
「ブランドを設立するまでに10年以上も構想を練り続けていましたし、クオリティーには絶対の自信があるので、この反響は想定の範囲ではあります。しかし、販売店としてお世話になっている『ますかスポーツ』の社長をはじめ、これだけ多くの方々に支えていただけるとは思ってもいませんでした」
続けて、河合はブランド設立の経緯をこう振り返る。
「野球部に所属していた学生の頃からグラブの製造に興味を持っていて。将来的に独立して自分のブランドを立ち上げることが、ひとつの夢でした」
河合は高校卒業後、奈良のグラブ製造会社に就職。ここからグラブ職人としてのキャリアをスタートさせ、グラブ製造に関する一連の技術を磨いていった。
そして、社員として勤める傍ら、学生の頃から練り上げてきた自社ブランドの構想を実現すべく試作を重ねるようになる。ロゴとブランド名は、自身の名前をもとに「RYU(龍)」とした。
RYUがはじめて多くの人の目に触れたのが2015年。当時、夏の甲子園終了後に開催された「第27回WBSC U-18 ベースボールワールドカップ」に選出されていた髙橋純平(現ソフトバンク)が、同大会で使用したのだ。
その様子を見たファンから、「あのグラブは、どこのものだ?」という声がインターネットを中心に沸き上がった。現在、唯一RYUを取り扱っている、岐阜県羽島市のスポーツ店「ますかスポーツ」代表取締役の五十住友昭(いそずみ・ともあき)も、この大会をきっかけにRYUに興味を抱いたひとりだ。
「センバツで使っていたものとは違う、見慣れないラベルがついているグラブで、『どこのメーカーだろう』と気になったんです。髙橋選手が地元・岐阜の選手だったこともあり、すぐに友人伝いで確認しました。そうしたら、『岐阜出身の若いグラブ職人が、個人で作っている』ということがわかったんですよ」
すぐに友人を介し、当時はまだ会社勤めをしていた河合と連絡を取り、サンプルグラブの制作を依頼した。そして、手元に届いたグラブに手を通したとき、思わず驚嘆(きょうたん)したという。
「グラブをはめたとき、思わず『すげーな!コレ!』と叫んでしまった。いいグラブの条件のひとつとして”フィット感”がありますが、RYUのグラブは高いレベルでそれをクリアしていました。グラブの『ここで捕球したい』という位置と、自分の手の平がバチッと合うんです」
家業であるスポーツ店を継ぐ前は、大手スポーツメーカーに勤めていた五十住。勤務した3年間は、ほぼ毎日グラブに触れていた。そのなかにはプロ選手に支給されるグラブもあったが、それらと比較しても「遜色ないレベル」と感じたという。
「グラブ全体のバランスや、組み上げの”縫い”もプロを担当する職人やベテランの職人と遜色ない。一度手に取ってもらえば、ユーザーも必ずこのよさをわかってくれると確信しましたし、限りある時間のなかで野球に打ち込んでいる学生野球、特に高校野球の選手たちに使ってほしいと強く思いました」
この”質”については、河合自身も「グラブの機能を向上させるために、素材と手間を惜しまないこと。これを常に忘れることなく徹底しています」と胸を張る。また、その製造工程にも、高い質を生む秘訣が隠されている。
通常、大手メーカーなどでは、各工程を複数名で分担し、グラブを完成させる。ひとりの担当箇所が細分化されることで、作業スピードは格段に向上するが、個人の微妙なクセや意思疎通の不足などで仕上がりにばらつきが生じる可能性もある。
それに対してRYUのグラブは、製造の全工程を河合がひとりで担当している。そうすることで、各段階での微調整が一貫したものとなり、バラつきのない、高品質なグラブを作り上げることが可能になる。時間は要するものの、ブランドとして譲れないこだわりのひとつだ。河合は言う。
「グラブ作りへの思いは、譲れない確固たるものがあります。生意気に聞こえるかもしれませんが、自分と同じくらいの思いの強さ、”熱さ”を持っている人でなければ、作業工程を任せたくありません。一切妥協することなく作り、自分が心の底から納得したものを届けたい。僕自身、初めてオーダーグラブを手にしたときの胸の高鳴りは、今でも鮮明に覚えています。そういった思いを味わっていただけるようなものを作り続けていきたいです」
そして、先述の髙橋純平をはじめとする東海圏のアマチュア選手たちのグラブ使用過程を見て、「学生野球のハードな使用でも問題が生じない耐久性」を最重要項目とした改良を加え、2017年に独立後、本格的にブランドを立ち上げる。RYUの完成度の高さに惚れ込んでいた五十住が「独立するときに、力になれることがあったら言ってくれ」と伝えていたことがきっかけとなり、ますかスポーツで販売することとなった。
(後編につづく)