左足脛骨骨折を抱え、今夏はベンチスタート

 ゲームセット後、手を叩きながら整列に加わった乙訓の主将・中川健太郎君の表情は最後までゆがむことはなく、むしろすっきりしていた。「結果は結果なので、そこは冷静に受け止めて。結果よりもここまでどう取り組んできたかが大事。結果は残念でしたけれど、力は出し切りました」。

 5番サードでスタメンを張ってきた主将は、この夏はずっとベンチスタートだった。5月末に左足脛骨を疲労骨折していることが分かったからだ。ギプスで固定するとなると全治に2ヶ月かかると医者に言われた。

「夏に出られなくなるのだけはイヤでした」。ギプス処置を断り、酸素カプセルに入ったり電気治療や筋膜リリースという専門治療も受けた。2週間後には歩けるようにはなったが、全力で走ることはできない。それでもベンチでは必死に声をからして仲間を鼓舞した。

「普段から真面目すぎるんです。いいヤツすぎる。これからの将来、色んな性格の人と出会うことを思うと、人としての幅を広げて欲しいほど」と市川監督は中川の人物像を明かす。常にまっすぐでひたむきな中川の背中を追いかけてきたチームメイトも多く、周囲からの信頼は厚かった。

 そんな主将は、11点を追う5回の裏の攻撃前に市川監督にこう告げられた。

「先頭、中川行くぞ」。

 代打として打席に立った。これが高校野球最後の打席になるのかもしれない。でも、そんなネガティブな気持ちは一切捨てた。無心にバットを振ったが結果はセカンドゴロ。一塁まで全力で駆け抜けた。「痛みは感じなかったです。試合中はアドレナリンが出ているので」。試合後には笑顔がこぼれた。

 夏の甲子園出場の夢は志半ばでついえた。だが、下は向かない。「こういう野球の終わり方もあります。自分たちはセンバツにも出させてもらったし、近畿大会に2度も出て良い思いをさせてもらいまいした。この経験から何を学んだかも大事だし、人間力をもっと磨いていけるようにしたいです。このチームメイトと、ずっとやって来られて最高でした。最後までみんなで明るくやり通せました」。

 涙は出なかった。それは、全てを出し切り、やれることはやり通せたから。最後まで気丈に振る舞った主将の高校野球は、最高の笑顔と共に静かに幕を下ろした。(沢井史 / Fumi Sawai)