J1リーグ第17節。アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)とフェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)が、いずれも日本デビューを果たした。 2人のJ加入が特別なのは、ここ数年の流れであれば、中東か中国、アメリカに流れていたはずのキャリアに…

 J1リーグ第17節。アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)とフェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)が、いずれも日本デビューを果たした。

 2人のJ加入が特別なのは、ここ数年の流れであれば、中東か中国、アメリカに流れていたはずのキャリアにあるからだろう。たとえ日本を選んだ理由が何であろうと、日本のサッカー界にとって大きな意味を持つ。そして現役のJリーガーにとっては、「握手をしたとき、手を洗いたくないと思った」「ロッカーで出待ちをして写真をせがんだ」とこっそり明かしてくれるような、憧れの存在そのものだ。

 とくにイニエスタは、ついこの先日までスペイン代表でロシアW杯を戦ったばかり。あのバルセロナから一度も出たことのない男が、初めて選んだ他のクラブが日本の神戸だったというのは、なんとも”ありがたいこと”としか言いようがない。




湘南ベルマーレ戦でJリーグデビューを果たしたアンドレス・イニエスタ

 7月22日、神戸対湘南ベルマーレが行なわれたノエビアスタジアム神戸は、そんなイニエスタへの期待感でいっぱいだった。

 神戸の広報担当者の発表によれば、入場者数は今季最多の26146人、取材に訪れた報道陣は60社148人。名前入りのTシャツは、SMLの全サイズがすべて完売という異例の売れ行きだったという。

 そのイニエスタが登場したのは59分のこと。ピッチに入っただけで大声援、ワンタッチするごとに大歓声、スルーパスを出せばさらに大絶叫と、観客は興奮のるつぼと化した。もっとも、試合そのものは湘南が0-3で勝利を収めている。0-2とリードされてからの投入はいかにもタイミングが悪く、イニエスタが効果的な仕事をすることはできなかった。

 結局、ひとりだけでチームを変えることは難しいという、ごく当たり前の事実を再確認したようなデビュー戦だった。それでも、選手たちの期待は大きい。FWウェリントンはこう言う。

「イニエスタはスーパースターだし、一緒にプレーできて本当にうれしい。まだ3回くらいしか一緒に練習していないから、これからだよ。でも、彼が日本に来たということは、ヴィッセルのためだけでなく、日本中のサッカーに関わる人にとってすばらしいことだろう」

 あえて厳しい言い方をすれば、イニエスタが、中盤でのワンツーなどのパス回しから、速いボールを前線に出して一気にスイッチを入れたとき、味方が反応し切れていないようなシーンが気になった。単に呼吸が合っていない、連係が取れていないというよりも、イニエスタに見えている絵と現状のレベルが違うように見えたのだ。

 このあたりは、ルーカス・ポドルスキが負傷から復帰さえすれば、多少は事情が変わってくるのかもしれない。ひとりでは難しくても、2人いれば何かが変わるということはあり得る。
 実はこの日、”イニエスタ効果”が発揮されたのは、湘南側だったのではないかと思う。イニエスタの出場と同じタイミングで退くことになってしまった梅崎司は、

「一緒にプレーしてみたかった」と言いながら、胸を張った。

「イニエスタの効果は大きいですよね。彼がいたから今日だって満員になったんだろうし。気合い? 当然、入りました。本当にすばらしい選手だけど、そういう選手に対して、僕たちのサッカーを見せることができた。今日はうちの守備のほうが上回っていたのではないかと思います」

 言外に、「サッカーはチームでするものだ」と匂わせるように話した。こうして神戸以外の選手たちの士気、モチベーションがアップするのであれば、日本サッカー界にとってプラス以外のなにものでもない。

 イニエスタ加入が、Jリーグに与える影響がとてつもなく大きいことは、1試合ではっきりとわかった。だが、神戸にどのような効果をもたらすのか、実際に勝利につながるのかは、まだわからない。うまくいったとしても、少々時間は要するだろう。