カザフスタン・アルマトイで、2人組の強盗に襲われて右大腿部を刺され、その後亡くなったというニュースが流れたのは先週のこと。25歳のデニス・テンの訃報は、世界のスポーツファンを驚愕させるものだった。



国民の英雄の死を悼み、追悼式典が行なわれた

 朝鮮系カザフスタン人として、母国のフィギュアスケートの歴史を切り拓いてきたテン。彼が世界のフィギュアスケートファンを驚かせたのは、2013年世界選手権だった。

 その1カ月前、四大陸選手権では12位にとどまっていたテンだったが、この世界選手権ではショートプログラム(SP)で4回転トーループを含むジャンプをノーミスで決め、スピンとステップもレベル4。91.56点を獲得して、3連覇を狙うパトリック・チャン(カナダ)から6.81点差の2位につけた。

 テンは、フリーではさらに完成された演技を見せた。4回転トーループやトリプルアクセル+3回転トーループなどのジャンプを、加点のある完成度の高いものにして、ノーミスの演技を披露。さらに、演技構成点は、SPでは7点台から8点台前半だったが、フリーではすべて8点台中盤から後半にした。

 結果、派手さはないものの、安定した姿勢での滑りと流れのある美しい演技で、チャンを上回る174.92点を獲得。合計266.48点にして総合2位となり、世界選手権5度目の挑戦で初めて表彰台に立った。

 168㎝と小柄ながら、気品を感じさせるその滑りは、2014年のソチ五輪へ向けて日本勢の新たなライバルの登場を実感させるものだった。

 その五輪シーズン、テンは両足首や背中のケガに加え、感染症にかかって出遅れた。それでも、11月から競技会に復帰して2月のソチ五輪に出場。ソチではSP9位と出遅れたが、フリーは後半の3回転フリップとダブルアクセルの着氷をわずかに乱すのみにとどめ、3位になる171.04点を獲得。合計を255.10点にしてSP3位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)を逆転し、羽生結弦とパトリック・チャンに次ぐ3位になって銅メダルを獲得した。

 そして、翌シーズンは四大陸選手権でSP、フリーとも自己最高得点を出して圧勝。世界選手権でもSPで最初の4回転トーループで転倒して3位となりながらも、フリーでは1位の181.83点を獲得して合計3位を堅持。世界トップクラスの実力を証明した。

 だが、その後はケガに苦しんだ。4回転時代に突入するなかで、4回転トーループ2本の構成に4回転サルコウも入れるようになり、確率を上げている段階で苦しむシーズンもあったが、ミスがない時はしっかり加点をもらえるきれいなジャンプをしていた。

 また、演技構成点は、自己最高の191.85点を獲得した15年四大陸選手権で、トランジション以外は9点台に乗せており、表現力も高く評価されていた。ジャンプがさらに安定してくれば、新ルールとなる今シーズン、テンが再び上位に食い込んでくる可能性もあったといえる。

 そんな新シーズン開幕を前にしての突然の訃報。冷静さが際立つきれいな滑りと、独特な表現の演技を見ることができなくなったのは、フィギュアスケート界にとって大きな損失だ。

 7月21日、カザフスタンのアルマトイで行なわれた彼の追悼式典には、およそ5000人が集まったという――。

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