【連載】道具作りで球児を支える男たち カウンタースイング・後編

 昨夏の甲子園で最多本塁打記録を更新した、中村奨成(広陵→広島カープ)が使用していたことで話題となった「カウンタースイング」は、開発者である野田竜也(のだ・たつや)の「息子たちのホームランが見たい」という親心から生まれたものだった。

 その願い通り、広陵から大学に進んだ野田の長男がホームランを放ち、野田の夢は成就した。そんな野田の元に広陵の中井哲之(てつゆき)監督から連絡が届いたのは、長男が広陵を卒業してから2年が経った2015年のことだった

(前編はこちら>>)

※カウンタースイングとは

 可動式のコマがふたつ搭載されている素振り専用のバット。スイングと同時にふたつのコマがバットの根本からヘッドに移動して音が鳴る仕組みで、その”音の回数”でスイングの良し悪しが判断できるようになっている。

 トップからタイミングよく切り返せると、ふたつのコマは密着した状態でバットの根本に残る。そしてスイングと共に移動してヘッドでコマを叩くことになり、後頭部で「カチッ!」と1回音が鳴る(これを「タマった状態」と呼ぶ)。反対に、「タマっていない」スイングだと、ヘッドにふたつのコマが分離しながら飛んでいき、「カチッ、カチッ!」と2回音が鳴る。

上からカウンタースイングの

「現在HP上で受注しているオリジナルカラー」、「廃材を用いて作った試作品(初期)」、「最新のカラータイプ(現在は受注停止中)」

 写真提供:野田竜也

 広陵の中井監督から連絡を受けてグラウンドを訪れた野田竜也は、そこで当時1年生だった中村奨成と初めて言葉を交わす。

「中井先生から連絡をもらって、カウンタースイングの説明に行きました。そこで『今年おもしろい1年生が入ったんだよ』と紹介されたのが奨成だった。素振りを見せてもらったんですが、まだまだスイングに改善点が多かったし、全体的な粗さも目立っていました。このときに『こう使うんやで』とカウンタースイングについて説明させてもらいましたが、その仕組みは半分くらいしか理解できていなかったと思います」

 そこから約2年後、中村が3年生になった2017年に、野田の長男と広陵野球部時代の同期にあたる中井監督の長男・惇一(じゅんいち)が母校に赴任し、野球部の副部長に就任した。野田の長男の成長を支えていた”秘密兵器”の効果をよく知る新副部長は、カウンタースイングを用いての熱心な指導を始める。

 それまで中村はカウンタースイングを使いこなせずにいたが、惇一副部長の指導が始まってから約1カ月の振り込みで「音1回」のスイングを手に入れ、満を持して高校最後の夏を迎えた。



昨夏の甲子園本番では大活躍した中村奨成だったが・・・・・・

 しかし、広島大会では2回戦の死球が尾を引き、打率は2割を切った。準決勝、決勝で2試合連続の本塁打を放って甲子園行きを決めたものの、中村個人としては満足のいく結果を残すことはできなかった。

 甲子園出場のために関西に入ったあと、広陵が高野連から割り当てられたグラウンドで練習していた際に、差し入れを持った野田が陣中見舞いに訪れる。ここから、本塁打の新記録樹立へと物語が大きく動き出す。

「グラウンドに着いて、中井先生と少し世間話をしていたときに、『県大会で死球を浴びてから今ひとつ中村の調子が上がってこない。どうしたらいいと思う?』と相談を受けたんです」

 選択肢はふたつあった。ひとつは、左手の状態に合わせて通常よりもトップを浅く(バットのグリップを体に近く)すること。そしてもうひとつは、これまで取り組んできたようにトップを深くとる打撃を貫くこと。野田に迷いはなかった。

「『これまで通りトップを深く取りましょう』とはっきり伝えました。さらに言えば、左手に力が入りづらい状況だからこそ、手先の力に頼らなくてもすむように『今までよりもさらに深く』と提案しました。そうすることで逆方向の打球も更に伸びるようになるはずだと」

 野田が「カウンタースイングはありますか?」と尋ねると、すかさず中村が差し出した。大会期間中も練習で使おうとバットを持参していたのだ。その光景に、思わず野田は感動したという。

「『本当に使ってくれとったんや』と。しかも、甲子園にも持ってきてくれていて・・・・・・。開発者冥利に尽きますね」

 そこから甲子園開幕まで、カウンタースイングを振り込む日々が続いた。野田曰く、中村がカウンタースイングを完全に理解したのは、甲子園開幕の直前だったという。

「これまでも練習で使っていたけれど、『何となく』の域を出ていなかったと思う。そこから、惇一くんの教えで理解が進み、開幕まで時間のない状況でもう一度、『これで勝負するんだ』と目の色を変えて取り組んだ。それで状態も上向いていったと思います」

 野田も惇一副部長から送られてくる練習風景の動画を見ながら、開発者として適宜アドバイスを送った。

 そして迎えた中京大中京(愛知)との初戦。第3打席に逆方向への一発を放ち、第5打席にもライトポール際に叩き込む。この2本目を見た時に、”躍進”を直感したという。

「逆方向への打球がグングン伸びていく。この活躍を見て『とんでもないことになるぞ』と直感しました。特に、2本目のホームランを見たときは鳥肌が立ちましたね」

 野田の直感は的中した。中村は6本塁打を放って大会記録を樹立した。

 その中村の活躍により、『躍進を支えた秘密兵器』としてカウンタースイングが脚光を浴びた。注文の問い合わせが急増し、抱えていた在庫は瞬く間に底を尽いた。2013年から販売を開始して苦節5年。構想を含めれば10年を優に超える雌伏のときが報われると同時に、築き上げた理論の正しさが証明された。

 カウンタースイングを使って野球人生を一変させたのは中村だけではない。現在、JR東海(愛知)でプレーする津川智(つがわ・さとし)もそのひとりだ。

 中村の8年先輩にあたる広陵OBで、2010年に高校を卒業して近畿大に進んだが、鳴かず飛ばずのまま2年を終える。3年に進級するタイミングで、すでに選手としての引退がほぼ決まっていた。

 春のオープン戦で出場機会を与えられることになったものの、ラストチャンスというより”引退試合”の意味合いが強かった。刻々と迫る現役生活の終わりを前に、交流のあった野田が常々語っていたカウンタースイングの存在が津川の頭をよぎる。

 野田は当時のことをこう語る。

「なかなか結果が出ない状況が続いていたこともあって、智の引退が決まりかけていました。そんな時に『次のオープン戦が最後になると思います。悔いが残らないように、野田さんが常々言っていたことを教えてもらえませんか?』と電話がかかってきました」

 野田はその申し出を快く引き受け、限られた時間ではあるが、自身の理論を津川に伝えた。

そして迎えた”最後の花道”として用意されたオープン戦。ここで津川は、周囲を驚かせる活躍を見せ、「もう1試合いってみるか」と再びチャンスを掴む。その後も結果を出し続け、気づけば引退の話は立ち消えていた。

 その後は4番を任され、リーグ戦でベストナインを獲得。日本代表候補に選出されるまでに成長を遂げた。JR東海でも、今年4月に開催されたJABA日立市長杯の決勝で3本塁打を放つ活躍を見せ、MVPを受賞した。

 多くの選手の活躍に貢献しているカウンタースイングだが、「あくまで”きっかけ”にすぎない」と野田は謙遜する。

「奨成と智は本人の潜在能力があって、努力を重ねていたからこそ成長し、結果を残せた。特に奨成に関しては、中井先生の懐の深さが一番大きい。私の長男は3年間バリバリのレギュラーでもなかったのに、そんな選手の親父に意見を求めるなんて、普通の指導者だったら絶対できないこと。でも、『これのおかげ』と今でも言ってくれているのは、やっぱり嬉しいですね」

 昨夏の”中村フィーバー”が落ち着きを見せ、供給が間に合いかけていたとき、ユーチューバーが動画でカウンタースイングを紹介したことで人気が再燃。現在も品薄の状態が続き、嬉しい悲鳴と同時に「多くのお客さまに待っていただいている状況。どうやったら納期を短縮できるのか」と頭を抱える日々が続いている。

 勢い衰えぬカウンタースイングだが、野田には懸念もある。

「最近、インターネット上に『カウンタースイングを極めた』と豪語する人や、『使い方を教えます』と語るカウンタースイングの”先生”なる人がいるのが気になっています。開発者として言わせてもらうと、『音が1回鳴った!はい、終わり!』といったような浅いものではありません。むしろ音1回のスイングを手に入れてからが本当のスタートなんです。

 使い捨てのようなことはせず、じっくり向き合ってほしい。インターネット上でカウンタースイングの使い方を教えている人のなかに、私が公認している人物はいません。強いて言うならば、約5年間ともに仕事をしている生野武史氏が私に次いで理解できている存在。次点で、まだまだ未熟ではありますが、ここ最近カウンタースイングを熱心に勉強しているユーチューバーのクーニン氏でしょうか」

 こう警鐘(けいしょう)を鳴らすと同時に、全国に広がるユーザーにメッセージを送る。

「私個人としては、野球をやる以上、最高の結果であるホームランにこだわってほしい。もっとも試合の流れを変える力があって、チームのみんなを笑顔にできるのがホームラン。試合で打てば、一生記憶に残るし、家族を喜ばせることもできる。自分自身が経験して、よくわかりましたが、子どものホームランを見ると、親の疲れや今までの苦労も全部吹っ飛びます(笑)。

 今は品薄の状態ですが、高校1、2年生なら、冬の練習までにはお届けできます。高校野球はもちろん、その後の野球人生を含めて、末永く取り組む価値があることは、開発者の私が保証します。そして、カウンタースイングと向き合う時間が、成長のきっかけ、手助けになれば、これ以上の喜びはありません」

 子どものホームランが見たい――。野球少年の親の誰しもが持つ親心をきっかけに、さまざまな出会いが重なり合い、昨夏に大ブレイクしたカウンタースイング。このバットと向き合い、野球人生を切り開く者が今後も現れるはずだ。 

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