福田正博 フォーメーション進化論 W杯ロシア大会で、日本代表は限りなくベスト8に近づいた。ベスト16になった過去の2大会、2002年の日韓大会、2010年の南アフリカ大会とは異なり、今回は主力選手を温存してグループリーグ最終戦を戦ったこ…

福田正博 フォーメーション進化論

 W杯ロシア大会で、日本代表は限りなくベスト8に近づいた。ベスト16になった過去の2大会、2002年の日韓大会、2010年の南アフリカ大会とは異なり、今回は主力選手を温存してグループリーグ最終戦を戦ったことで、決勝トーナメント1回戦のベルギー戦は、最高のパフォーマンスだった。それだけに、敗因をしっかりと見つめ直して、今後のW杯で今回以上の成績を残せるように、検証しなくてはいけない。



ロシアW杯で日本は決勝トーナメントに進出するも、ベルギーに逆転負けした

 ベルギー戦は原口元気、乾貴士のゴールで2点を先行した直後に、ベルギーが187cmのナセル・シャドリ、194cmのマルアン・フェライニを投入。親善試合では決して見ることのできない「強豪国の本気のパワープレー」に襲われた。190cmのFWロメル・ルカクを吉田麻也がマークしていたが、170cmの長友佑都のサイドに投入されたフェライニの高さを防げなかったことが失点につながってしまった。

 3失点目については、延長戦を睨んでショートコーナーで時間を費やす手もあった。だが、仮に延長戦に持ち込んでいても、ベルギーのパワープレーに耐えきれたとは思えないだけに、CKからの最後のワンチャンスに賭けた気持ちは理解できる。

 今回のベルギーには、身長190cm台の選手が7人ピッチにいた。そんな相手に対して、「コーナーキックやフリーキックなどを相手に与えなければいい」という意見もある。しかし、実際にはそれは不可能に近い。ベルギーほどの技術力とスピード、パワーを兼ね備えた相手に対して、ボールポゼッションを高めて押し込み続ける力は、残念ながら日本代表にはまだない。

 それだけに、日本代表が2022年や2026年のW杯でベスト8を現実のものにするためにも、強豪国のパワープレーに対しての有効な解決策を確立することは、最重要課題になる。

 現実的な解決策としては、日本代表のCBが、欧州トップリーグでスタメンを獲得できるレベルに達することを目標に、育成をしていくしかない。吉田は世界最高峰のプレミアリーグで揉まれたことで、高さと強さを併せ持つ選手になった。スピードにやや難はあるものの、最後のところで弾き返す力を備えている。だが、吉田以外の日本人CBで、彼の域に達している選手はまだいない。

 空中戦で競り勝てなくても、相手に体を寄せながら自由にプレーさせないようにしてピンチを防いでいく。身長180cm台でフィジカル強度と足元の技術を備えている植田直通や岩波拓也のような若い選手たちが、ここからどこまでレベルを高めていけるかに、今後の日本代表の守備の将来がかかっている。

 ただ、それができたとしても、抜本的な解決にはならない。190cm以上の相手とのゴール前での空中戦に競り勝つには、やはり190cm台の長身選手が必要になってくる。日本サッカー界では180cm台は高身長とされているが、日本のスポーツ界全体を見渡せば190cm台の選手も多くいる。

 メジャーリーガーの大谷翔平を筆頭に、バスケットボールにはNBAを目指してアメリカで腕を磨いている八村塁など、2m前後の長身ながら、スピードとクイックネス、バネを備えた高い運動能力を持つ選手がいる。ただし、そうした選手はサッカーではなく、野球やバスケット、あるいはバレーボールを選んだ。これが、南米や欧州の強豪国であれば、サッカーが国内のナンバーワン・スポーツであるため、身体能力の高い子どもはサッカーを選ぶ確率が高い。

 日本でも、子どもが最初に憧れて選ぶスポーツがサッカーになるように、Jリーグの魅力を高めながら、体の大きな子どもが、最初にサッカーを選ぶ環境を整えていく必要がある。

 一方で、攻撃に関しては香川真司や乾が、小柄でも、技術力や俊敏性で世界の大柄なDFを相手にしても戦えることを証明した。DFの間でボールを受けて、素早いターンで前を向き、コンビネーションで相手を翻弄して、ハードワークによって数的優位をつくりだしていく。

 ベルギーのルカクのような圧倒的なストライカーがいればいいが、ドイツのような強豪国でさえ、ストライカーはなかなか出てこないのだから、日本代表に望むべくもない。大迫勇也のように体が特別大きくなくても、上手に体を使いながらポストプレーでタメをつくることができるFWを今後も継続して育てていくしかない。

 そして、守備の最後の砦であるGKこそ、大型選手の育成が欠かせない。川島永嗣は185cm、ベルギー代表のティボー・クルトワは199cm、ドイツ代表のマヌエル・ノイアーは193cm、スペイン代表のダビド・デ・ヘアは193cm。強豪国の守護神は190cm台が当たり前という状況にあって、日本人GKは決してサイズに恵まれているとはいえない。

 川島はW杯ロシア大会でファインセーブも見せたが、失点に直結するプレーもいくつかあったことで、海外メディアからもバッシングを受けた。フィールドプレーヤーが決定的なチャンスを外してもあれほど非難はされないが、GKは勝負を決めるポジションだけに、ひとつのミスが目立ってしまう。

 ただ、W杯ロシア大会の公式球は、GK泣かせだったといえる。不規則な変化をするため、川島をはじめ、多くのGKが信じられないようなミスをしていた。

 ポルトガル対スペインでは、デ・ヘアがクリスティアーノ・ロナウドの正面のシュートを捕り損ねて失点。フランス対ウルグアイ戦では、アントワーヌ・グリーズマンのシュートが左に曲がりかけたと思った次の瞬間、真逆に変化。結果、GKが処理をミスして失点してしまった。

 2010年W杯南アフリカ大会から日本代表の守護神をつとめてきた川島は35歳。経験が必要とされるGKの選手寿命は、フィールドプレーヤーより長い傾向にあるものの、次代の中心となる新たなGKの育成は急務だ。今回のW杯メンバーにはリオ五輪世代から中村航輔が選ばれていたが、今後は中村をはじめ若手GKに多くの国際経験を積ませることが重要になる。

 今回、西野朗監督の仕事でチームへのポジティブな影響が大きかったのは、ヴァヒド・ハリルホジッチ前監督体制のときに、チーム全体を覆っていた閉塞感から選手を解放したことだ。サッカー自体に目新しさはそれほどなかったが、日本代表のムードをプラスの方向に持っていくことに成功した。そのことが、ベスト16という結果につながった要因のひとつだろう。

 その西野監督は退任し、新たな監督が日本代表を率いていくことになる。大会前に「おっさんジャパン」と揶揄された日本代表は、どんな人物が新監督になるにせよ、次のW杯を目指して世代交代を推し進めることが最初の仕事になるはずだ。

 今回、ロシアのピッチに立った選手のうち、4年後に残っている選手は1人か2人という可能性もある。次のW杯で中心となるべき存在がリオ五輪組だ。出番のないままW杯を終えたGK中村航輔、DF植田直通、遠藤航、MF大島僚太には、これからの日本代表の中軸になる意気込みを見せてもらいたい。

 また、この世代には、W杯メンバーから漏れた中島翔哉、久保裕也、南野拓実、浅野拓磨といった才能豊かな選手たちもいる。彼らがロンドン五輪世代を押しのけ、さらにはJリーグでも輝きを放ち始めている東京五輪世代の突き上げによって、日本代表に激しい競争が生まれれば、それが日本代表を大きく成長させることになるはずだ。

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