2月の東京マラソンで16年ぶりの日本記録(2時間6分11秒)を打ち立てた設楽悠太選手(Honda)のモノマネで人気上昇中の芸人・萩原拓也さん(ポップライン)。芸能界で活躍するためマラソンを辞めた萩原さんが、芸能界で生きるべく選んだ道が辞めたはずのマラソンでした。しかも12年ほどのブランクが!

 およそ12年も走っていなかった男は、2018年4月15日の『かすみがうらマラソン』でサブスリー(2時間59分21秒)を達成しました。どのようにして達成したのでしょうか。後編では、実際に行った練習メニューやサブスリー達成のコツについてお話いただきました。

前編:マラソンをやめた男がマラソン芸人になるまで。モノマネ芸人・萩原拓也のランニング人生(前編)

バイト先までの片道15km走が基本練習

――12年のブランクを経て、2017年1月から再び走り始めたとのことですが、最初はどのようなプランを考えていたのでしょうか?

プランは特になくて、まずランニングの時間を確保するところからのスタートでした。というのも、週5日で15時から24時までバイトをしていて、帰宅するのが2時近く。起きたら昼ですし、合間にはネタ作りもしなくてはいけません。

――芸人さんならではの悩みですね。

そんな中で、神奈川大で同期だった島田健一郎(現ユニクロ女子陸上競技部コーチ)に「バイトまでの行き帰りで走ればいいじゃん」と言われたんですよね。自宅から恵比寿のバイト先までは15㎞くらいで、さすがに往復はできなかったのですが、まずは片道から始めようとスタートさせました。これが基本練習です。

――大会には参加していたのでしょうか?

ほとんど出ていないのですが、2017年の6月にYOKOHAMAシーサイドマラソン(ハーフマラソン)に出て、この時はおよそ82分(※)でした。
※キロ3分53秒平均

――走り始めてたった5ヶ月でハーフ82分って相当速いと思うのですが……。

でも本当にバイトまでの片道15㎞だけでしたよ。強いて言えば、たまに「今日は速く走りたいな」と思う時があったので、その時はキロ4分半くらいで走っていたと思います。

――そのほかの練習はどんなことを?

走りはじめてから約8ヶ月後にスピード練習を取り入れました。芸能界のフルマラソン最速が2時間25分09秒(お笑い芸人・がんばれゆうすけ/キロ3分27秒平均)というのを知っていたので、「15㎞を走るだけの練習ではダメだな」と感じたんです。

まずは1㎞3分30秒のインターバル走(※)をやろうと取り組み始めたのですが、1人ではできなかったですね。5本やろうと思っても2~3本で止めたり。ですから本格的にやっていたというわけではないです。

※高強度と低強度のトレーニングを交互に繰り返すトレーニング。この場合は、1000mを速く走る→次の本数までをジョギングでつなぐ→1000m……という流れが一般的

――ちなみに初マラソンはいつになりますか?

実は大学を卒業した年のホノルルマラソンに参加していまして、3時間10分くらいで走っているんです。その次は昨年10月の松本マラソンで、友だちのペーサーとして出場して3時間16分30秒でした。

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月間走行距離は「300㎞~400㎞」

――現在の練習環境を教えてください。

「TOKYO BAY RC」というランニングクラブと、同じ事務所の西谷綾子さんが中心の「Body & Soul Running Club」でランニングコーチを務めています。そこではインターバル走も行っているのですが、ペースは上がってもキロ3分50秒なんです。これだと自分の練習にはならないですし、先ほど話に出た3分30秒のインターバルには挑戦すらしていないです。

▲2017年の4月1日から毎日欠かさず記入しているという練習ノート

――具体的に、スピード練習を入れ始めた2017年9月から2018年4月のかすみがうらマラソンまでは、どのような練習をしていたのでしょうか。

基本的に練習内容は変わっていないのですが、ランニングコーチの仕事で距離走を入れる回数が増えました。バイトの行き帰りの15㎞ジョグの他に、土日は朝9時に集まって30㎞走や40㎞走とか。ただし、ペースはキロ5分30秒から上がっても4分30秒程度。これを多い時は月に4回行っていました。

――月間走行距離はどのくらいなのでしょうか?

おそらく300㎞~400㎞だと思います。多い人はもっと走り込んでいると思いますし、僕は走らない時は走らないので、そこまで距離を踏んでいるわけではないですね。

<2017年4月から2018年4月までの月間走行距離>
4月 331㎞
5月 329m
6月 220㎞ ※『YOKOHAMAシーサイドマラソン』(ハーフマラソン)で1時間22分48秒
7月 300㎞
8月 277㎞
9月 234㎞ ※スピード練習開始
10月 316㎞ ※松本マラソンで3時間16分30秒
11月 176㎞ ※体調不良により10日間連続で走らない日あり
12月 230㎞
1月 147㎞
2月 224㎞ ※設楽選手のモノマネ開始
3月 195㎞
4月 250㎞ ※かすみがうらでサブスリー達成(2時間59分21秒)

かすみがうらでサブスリー達成も「無理だと思っていました」

――2018年4月には「かすみがうらマラソン」で2時間59分21秒と見事サブスリーを達成されるわけですが、他の大会に出ていないとなると、手応えを感じる機会が少なかったのではないでしょうか?

大会当日も自信はなかったですし、むしろ無理だと思っていました(笑)。サブスリーを達成するには1㎞4分15秒で押していかなければいけないですけど、そのペースで距離走もやっていなかったですから。2月の東京マラソンで設楽悠太選手が2時間6分11秒(日本新記録)だったので、3時間6分11秒でもいいかな、なんて思っていました(笑)。

――実際に走り始めてみて、いかがでしたか?

スタート直後は、モノマネの格好だったのもあり「設楽がんばれよ!」なんて声を掛けてもらったり、おしゃべりしたりしていましたが、その後はほぼイーブンペースで行けて、中間地点は1時間29分10秒で通過しました。かなり余裕を持って走っていたんですけど、ふと時計を見ると1㎞あたり4分05秒ペースで走れていたんです。

――後半もずっと楽だったのでしょうか?

これは設楽選手に感謝したいのですが、設楽選手は「30㎞までがんばって、残りは何とかなる」という精神で走るそうなんです。おそらく多くのランナーの方は残りの距離を考えてメンタルがやられちゃう人が多いと思うのですが、僕は30㎞までがんばろうという気持ちで走っていたので、メンタルがやられることはありませんでした。

でも、30㎞以降はさすがに足が重くなりはじめ、35㎞以降は正直けっこうキツかったです(笑)。それまで安定していたペースも、38~39㎞では4分27秒くらいまで落ちましたね。幸いゴールが近かったので、最後は沿道からの「悠太コール」に応えながら、無事にフィニッシュすることができました。

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サブスリーのコツは“いかに集中しないか”

――サブスリーを達成できた要因を挙げるとしたら、どのような点が良かったのでしょうか

大会の1週間前に森林公園(埼玉県)でクロカン練習(23㎞走)をやったのですが、これで脚にいい刺激が入ったなという実感がありますね。ロードよりも不整地を走ったほうが、脚作りという意味でもオススメですね。

あとは、気持ちの面でサブスリーを意識し過ぎなかったことも理由かな。僕の場合は、当日は大会を楽しもうと思ったんです。でも、そうやって沿道の人とハイタッチしたり、ランナー同士でおしゃべりしたりすることで、不思議と気持ちが楽になるんです。“いかに集中しないか”がポイントだったのかなと思いますね。

――「この練習ができればサブスリーは達成できる」みたいな目安はありますか?

1000mのインターバル走で、4分ペースを7~8本こなせるようになったら出るのではないでしょうか。距離走だけをやるよりは、こうしたスピード練習を本番と同じペースで行うことも重要だと思います。

――今後の目標を教えてください。

芸人最速の2時間25分9秒を2020年の東京マラソンで更新できればと考えています。僕がモノマネをしている設楽悠太選手ご本人が東京オリンピックのマラソン代表に選ばれていれば、本物は日本代表、そっくりさんが芸人最速ということになりますよね。これってめちゃくちゃおもしろくないですか?

――そうなることを期待しております!

※初出時、タイトルに誤解を招く表現がございましたので、訂正いたしました。萩原さん、並びにご関係者の皆さま、読者の皆さまにお詫びいたします。

[プロフィール]
萩原拓也(はぎわら・たくや)
1981年生まれ、千葉県出身。お笑い芸人。オスカープロモーション所属。神奈川大学では駅伝部に4年間所属。箱根駅伝出場は叶わなかったが、10000mは29分48秒、ハーフマラソンは66分28秒という自己ベストを持つ。卒業後は2年間の役者生活を経てお笑い芸人へ転身。2012年にお笑いトリオ「ポップライン」を結成し、2016年からはコンビとして活動。翌年からマラソン芸人としてランニングを再開するとともに、現在は男子マラソン日本記録保持者・設楽悠太選手のモノマネで人気を博している。
【公式Twitter】https://twitter.com/poplinehagi

<Text:松永貴允(H14)/Photo:河合信幸>