陸上からラグビーに転向して1年半のシンデレラガールが今、飛躍のときを迎えている。

「サクラセブンズ」こと女子7人制ラグビー女子日本代表は7月20日~22日、アメリカ・サンフランシスコ「AT&Tパーク」で開催されるセブンズ・ワールドカップ(W杯)に挑む。セブンズ(7人制ラグビー)はリオ五輪から正式種目となったが、セブンズW杯はオリンピックと並ぶ大会で、男子は1993年から数えて7回目、女子は2009年から始まり今回で3回目となる。



ラグビーに転向して1年半。初めての大舞台に挑む大竹風美子

 日本代表としてセブンズW杯に出場する13人(直前で12人に絞られる)のうち半数は、小学校時代からラグビー競技を始めている。ただ一方で、サッカーやバスケットボールなどの他競技から転向した選手も少なくない。そのなかでも、ラグビー歴1年半で日本代表の主力まで上り詰めたのが、「もっと早く始めていればよかった!」と言う大竹風美子(おおたけ・ふみこ/日体大2年)だ。

 大竹が通っていた東京高は、陸上やラグビーの強豪校として知られている。大竹は高校3年の春、バスケットボールの授業でルールがわからず、ドリブルをせずにボールを持って走ってしまうことがあった。それを見たラグビー部の顧問の体育教諭が、大竹に「ラグビーをやってみないか?」と勧めた。それが、楕円球との出会いだった。

 父がナイジェリア人、母が日本人の大竹は、幼いころから陸上に夢中だった。中学時代は100mと200mで東京都大会を制し、男子のサニブラウン・ハキームと双璧をなす。さらに高校からは7種競技を始め、高校3年時のインターハイでは6位入賞を果たした。

 すると、「やり切った感があった」という気持ちと、リオ五輪のセブンズをテレビで初めて見たときに「東京五輪に出たい!」と感じた思いが重なり、ラグビー競技への転向を決意する。また、現在のチームメイトである桑井亜乃が陸上からの転向組だったことも、彼女の背中を押したという。

 転向後、大竹のシンデレラストーリーはトントン拍子で話が進んでいく。女子ラグビーの強豪・日体大に進学が決まるやいなや、指導者の間でも「すごい選手がいる!」と噂になり、ラグビー歴ゼロながら2017年1月に日本代表の強化合宿に初招集。中村知春主将も「サクラセブンズに足らないスピードとフィジカルを持っている」と潜在能力を認めた。

 大学生になった大竹はラグビー漬けの生活となり、その秋には国際大会で本格的に代表デビューするかと思われていた。しかし、脳しんとうになったり左肩を痛めたりと、陸上競技とのギャップに苦しむ日々が続く。結果、セブンズW杯の予選を兼ねた秋の大会への出場は叶わなかった。

 だが、大竹はその後も「W杯に出てみたい」と静かに闘志を燃やし、1年間のウェイトトレーニングを積み重ねた。そしてついに今年の1月末、世界を転戦するワールドシリーズ(WS)のシドニー大会で初めて「桜のジャージー」に袖を通す。

 代表デビューの相手は、強豪のニュージーランド代表。そこで大竹は、いきなり世界を驚かせた。ステップで相手を3人かわし、80mの独走を披露。一気にスピードを上げてトライの起点となった。「あの瞬間はすごく楽しかった! チームを前に出すことが求められていて、それが初めて叶った国際試合でした!」(大竹)。その後も大竹は、イングランド代表を破る金星にも貢献。華々しい代表デビューを飾った。

 ところが、4月に行なわれたWS北九州大会では実力を発揮することができず、チームも5戦全敗を喫してしまう。大竹の存在が世界に知れ渡り、相手からのマークがきつくなったからだ。

 その後、バンクーバー大会とパリ大会でも結果を残すことができず、日本代表は世界の「トップ11」がしのぎを削るWSから、わずか1年でふたたび降格。そんな状況で迎える7月のセブンズW杯は、「オリンピックのメダル」を目標とするサクラセブンズにとって試金石となる大会となろう。

 今大会からセブンズW杯は予選プールを行なわず、いきなり一発勝負のトーナメント制となった(敗者同士もトーナメントですべての順位を決める)。女子は16チームが出場し、サクラセブンズは1回戦で昨年のWS総合3位の強豪フランス代表と対戦する。

 稲田仁ヘッドコーチ(HC)はセブンズW杯に向けて、「先手必勝」をテーマに掲げた。

「今までは、最初の3分間は我慢してボールを保持継続しようとしていたが、そこを変えて先制点を獲りにいく。最初のキックオフのボールを奪いにいくことがポイントとなる」

 そのキックオフのボールをキャッチするのは、身長170cmでジャンプ力もある大竹の役目だ。「最初からスイッチを100%に入れたい。空中のボールの争奪戦は任されている。私が起点となって、チームにいい流れを持っていきたい」(大竹)。

 もちろん稲田HCは、大竹にランナーとしての活躍も期待している。「今までの彼女はパワーとスピードだけでやっていたが、ボールを持ったときの仕掛けや、角度をつけて縦に切れ込むなどの動きが出てきた。セブンズW杯では、もうひとつ上にいってほしい」(稲田HC)。

 大きな期待を背負う大竹も、セブンズW杯開幕を前に気持ちを奮い立たせている。

「もう初心者とは言えないのですが(苦笑)、初めての感覚を大事にして、思いっきりやることで結果につながればいい。ただ、思いっきりやることが雑なプレーになって、失点に結びついたらいけない。セブンズは(前後半14分という)少ない時間でいかにトライを獲るかが重要なので、その判断が大事になってくると思います」

 過去2回のセブンズW杯で、サクラセブンズは一度も勝っていない。フランス代表に勝利すればベスト8進出となり、もちろん過去最高の成績となる。ただ、フランス戦で負けても大会は続くため、メンタル面を切り換えることが大事な要素のひとつとなるだろう。

 そこでも、大竹の役割は大きい。いつも笑顔でムードメーカー的存在の大竹は、今大会の「ポジティブリーダー」に指名された。大竹は練習前にちょっとしたゲームを考えたり、アップテンポな曲をかけたりして、みんなのモチベーションを高めている。取材に行った日も、練習後にダディー・ヤンキーの『DURA』を流してみんなでダンスをしていた。

 サクラセブンズには、チームの一体感を高める「7ヶ条」がある。「自律」「想いやり」「感謝」「尊敬」「誇り」「礼儀」「和」の7つだ。大竹もそれらを重んじ、「みんながいるからこそ、きつい練習を乗り越えられる」と語る。

 楕円球に触れてから、わずか1年半――。初めての大きな国際大会に臨む大竹は、サンフランシスコの地でサクラセブンズに追い風を吹かせることができるか。