『恋して競輪ハンター』木三原さくら=16 Hunting7月7日、七夕の日。とうとうこの日がやってきた……待ちに待ったと…
『恋して競輪ハンター』木三原さくら=16 Hunting
7月7日、七夕の日。とうとうこの日がやってきた……待ちに待ったという気持ちではなく、本当にこんな日がくるんだな。私はそんな不思議な感覚を持って奈良競輪場へ向かいました。
日野未来(奈良114期)選手がガールズケイリン選手として遂にデビューを果たしました。
彼女がデビューする前、1度バンクの中を走る姿を想像してみたことがあったのですが、興奮、心配、寂しさなどのあらゆる感情が渦巻いて、単なる想像だというのに涙が出そうになってしまう始末。それ以来、私の中で彼女のデビューのことを考えるのはやめて、この日までを過ごしてきました。冒頭で書いたあの何とも言えない感覚は、そうやって様々な感情を麻痺(まひ)させてきたことが影響していたのではないかと、今になって思います。
彼女が競輪選手を目指すことを決めてからの月日の流れはアッという間でした。見守る側である私の気持ちの整理がつく暇もなく、本当に流れるままに、彼女が突き進むままに、7月7日を迎えてしまった__。これで間違っていないはずです。

デビュー節の初日は朝から雨でしたけれども、彼女のレースの時は傘も必要ないくらい小降りになっていました。選手紹介中、奈良のバンクは場内音声が小さく静かな中、左靴のクリップバンドを締めながら彼女が私の前を通り過ぎていく。ホームを通り過ぎる時にはたくさんの声援が彼女に送られていました。
やめようと思っていました。でも、散々、躊躇(ちゅうちょ)した挙げ句に彼女のデビュー戦は金網の前で観ることにしました。当たり前ですが、彼女は1度もこちらを見向きもしない。そして、発走機についた後ろ姿がシャンとして実に美しかった。
「ついに競輪選手になったんだな、彼女は今から戦うんだな」
そう思ったら、1度、声援を飛ばしただけ。あとは何もできずに、ただ無事に走って、笑顔で帰ってきて欲しいと、祈ることしかできませんでした。
レースは外々を回って苦しい展開からなんとか3着。たくさんの期待と関心を背負い、数多の重圧に耐えながら頑張ったよね。転ぶこともなく、無事に完走。しかも3着、確定板で良かった。と、まずは思いました。そう「まずは」です。時間が経つにつれて「んっ?これでいいのか?」という疑問が私の中でフツフツ湧いてきました。「先行で頑張りたい」って、話していて、このレース内容で納得していいとは思えません。ただ無事に帰ってきてくれたらと思っていたのに、まさかこんな感情が芽生えるとは夢にも思いませんでした。彼女は競輪選手で、私はやっぱり競輪ファンであることを思い知らされた瞬間。彼女と私の世界は明らかに変わったのです。

2日目は仕掛けて7着。決勝戦には乗れず、一般戦回りとなった最終日は捲り不発で3着。3日目のレース後は場内から彼女に痛烈なヤジも飛びました。それを聞いて、私は不思議と良かったと、感じたものです。走る前から多くの注目を浴びてきた彼女に、車券を買って評価して下さる競輪ファン、レースを見て評価して下さる競輪ファンができたこと。それは本当の意味で日野未来が競輪選手としてデビューした!と、実感すると共に、ようやく胸をなで下ろすことができたからです。

開催が終わり、彼女に会いに行った時、私は少し緊張していました。悔しかったであろうデビュー戦を終えた彼女に、どんな言葉をかければいいのか考えがまとまらない。それなのにもう彼女の姿を見つけてしまい……「お疲れ様」の言葉しか出てこなかったところ、彼女は開口一番で「岸和田(次の斡旋)に自転車を送らなきゃいけないの忘れてたの!」そう言いながら忙しそうに自転車をバラシ始めたのです。感動とかセンチメンタルな雰囲気は1mmも生まれず、私も荷物を置いて「手伝おうか?」と、言うしかありませんでした(笑)。

日野未来は前を向いていました。その胸の内は、私には想像できないほどの悔しさや迷いがあるのかも知れません。それでも乗り越えていくしかないのだと思います。今までも一つ、一つを乗り越えて、彼女はここまできたのです。だから、私はもうそんなに心配はしていません。
私が友人として彼女のことを書くのはこれで最後になると思います。これからはたくさんの叱咤激励(しったげきれい)を受けて、とにかくアツい走りで多くの競輪ファンを魅了して欲しいですっ!

【略歴】

木三原さくら(きみはら・さくら)
1989年3月28日生 岐阜県出身
2013年夏に松戸競輪場で
ニコニコ生放送チャリチャンのアシスタントとして競輪デビュー
以降、松戸競輪や平塚競輪のF1、F2を中心に
競輪を自腹購入しながら学んでいく
番組内では「競輪狂」と、呼ばれることもあるほど競輪にドはまり
好きな選手のタイプは徹底先行
好きな買い方は初手から展開を考えて、1着固定のフォーメーション
“おいしいワイド”を探すことも楽しみにしている