全米オープン最終日の朝。第3ラウンドの残り4ホールで2つスコアを伸ばし、2位に4打差で単独首位に立ったシェーン・ローリーがどこか輝いて見えたのは、彼がとても紳士であることを知ったせいだった。

土曜日にプレーした第2ラウンドの7番でパットする際、ローリーは「ボールが動いた」と自己申告し、1打罰を自ら科した。

それでも2位に4打差の単独首位で最終ラウンドを迎えたのだから、自ら科した1打罰は勝敗の行方には影響を与えないようにも思えたが、いやいや全米オープンは最後の最後まで何が起こるかわからない。優勝争いの大詰めで一打差に泣くか、笑うか。どちらも起こりうる。泣くことになることも覚悟の上で自己申告したローリーの姿はとても紳士的で、だからこそ勝利の女神は彼に微笑むもしれないなと感じられた。

だが、最終ラウンドのローリーは前半から崩れていった。終わってみれば、最後は優勝したダスティン・ジョンソンから3打差の2位。自ら科したペナルティの一打は勝敗には何ら影響を及ぼさず、その意味では「幻の一打」と化した。

そんな出来事があった一方で、ジョンソンにもパットの際にボールが動く事件が起こったことは、なんとも不思議な偶然だった。

最終ラウンドの5番ホール。ジョンソンがパーパットを打とうと構えた際、ボールは明らかに動いた。ルール委員は構えた際のジョンソンの動作がボールを「動かした」とその場で判断したが、ジョンソンは納得せず、結論は保留された。しかし、USGAはプレー終了後に画像を見ながら再確認・再検討することを12番ティでジョンソンに告げた。

そこから先はホールアウト後に科せられるかもしれないペナルティがジョンソンの悲願のメジャー初優勝「脅威の一打」となった。

優勝争いの大詰めで一打の差は大きな意味と影響をもたらす。1オン可能な短いパー4の17番をどう攻めるか。難関の18番をどう攻略するか。その先で科せられるかもしれない一打罰は、そんなプレー上の戦略や戦術に影響する「脅威の一打」と化した。

米ツアー選手たちは、すぐさまツイッターでジョンソンを応援するメッセージを発信。5番できっちり結論を出さなかったUSGAのルール委員の対処の仕方が「おかしい。そんなことを気にすることなくダスティンにプレーさせてあげるべきだった」とは、ローリー・マキロイの言。「ダスティンはあのときまだアドレスしていなかった」とは、ジョーダン・スピースの言。

しかし、すべての論議は最後には意味をなさなくなった。ルール判断を待つ「脅威の一打」のプレッシャーを跳ね除け、15番、16番、17番と執拗にパーを拾ったジョンソンにオークモントの観衆は「DJ!DJ!」を連呼した。

72ホール目。フェアウエイからピン1メートルに付けたセカンドショットは見事だった。バーディーパットを沈め、勝利を決めたジョンソン。最終的に5番のパーパットはジョンソンが「動かした」とUSGAは結論。一打罰が科され、5番のスコアはパーからボギーへ、68のスコアは69へと変わり、2位との差は4打差から3打差へ変わった。だが、その一打罰があってもなくても、優勝の事実は変わらない。

「今日という日が終わるとき、ペナルティの一打は何の意味もなさなくなった」

それがジョンソンの優勝の弁。そう、彼は「脅威の一打」を「幻の一打」に変え、これまで幾度も味わってきた悔しさのすべてをこの勝利で払拭した。

「幻の一打」が優勝争いからの脱落を意味する結果になってしまったローリーは「敗北を受け入れるまでには数日がかかりそうだ」と語ったが、彼のジェントルマンな言動は決して幻ではなく、いつか必ず報われる日が到来すると信じたい。。

勝者と敗者の「幻の一打」が心地良く心に染み入ってくる。そんな後味のいい全米オープンだった。

文・写真/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)