2018年のスーパーフォーミュラは早くもシーズン折り返し点を迎え、7月7日~8日に第4戦が富士スピードウェイで行なわれた。決勝レースでは今シーズン、好調な走りを見せているニック・キャシディ(KONDO RACING)が待望の初優勝。近…

 2018年のスーパーフォーミュラは早くもシーズン折り返し点を迎え、7月7日~8日に第4戦が富士スピードウェイで行なわれた。決勝レースでは今シーズン、好調な走りを見せているニック・キャシディ(KONDO RACING)が待望の初優勝。近藤真彦監督が率いるKONDO RACINGにとっては、国内トップフォーミュラで10年ぶりの勝利となった。



表彰台の中央で喜び合うニック・キャシディと近藤真彦監督

 歌手や俳優としても活躍する近藤監督だが、芸能活動のかたわらでモータースポーツにも情熱を注ぎ、1980年代後半から1990年代にかけては自身もドライバーとしてレースに参戦。1995年のル・マン24時間レースでは名門ニッサンNISMOの一員としてチームに貢献し、総合10位に入った。

 2000年には自らのチーム「KONDO RACING」を立ち上げ、スーパーフォーミュラの前身であるフォーミュラ・ニッポンに参戦する。2002年いっぱいで現役を引退すると、翌年からはチーム代表兼監督として頂点を目指し、2008年の第7戦・富士のレース1でジョアオ・パオロ・デ・オリベイラがトップチェッカーを飾って勝利。チームにうれしい初優勝をもたらした。

 そのシーズン、KONDO RACINGはチームランキング5位で終え、翌年以降の活躍が大いに期待された。だが、その直後に発生したリーマン・ショックによる経済情勢の悪化から、2009年は参戦を断念することになる。しかし周囲のバックアップもあり、2010年の途中から1台体制で参戦を再開。さらに2015年からは2台体制に戻し、ふたたび勝利を目指すことになった。

 そして、少しずつ軌道に乗り始めた2017年。KONDO RACINGに強力なドライバーが加入する。2015年の全日本F3チャンピオンでニュージーランド出身のニック・キャシディと、同じく2016年に全日本F3チャンピオンを獲得した山下健太だ。

「昨年ふたりのF3チャンピオンがチームに入ってきてくれたことが、僕にとっては強みとなりました。この1年、2年、3年で彼らを育て上げていきたいという気持ちが強かったです。1年目は勉強もしなきゃいけない年だったと思いますが、2年目はどっちかのドライバーが何回かは勝たなきゃいけないという使命感もありました」(近藤)

 近藤監督のこの思いは、ふたりのドライバーもしっかり理解していた。キャシディが「今年はスーパーフォーミュラで何としても結果を残したいんだ」と力強く語ると、山下も「今年は言い訳とか抜きにして(上位に)いかなきゃいけないんです」と自身にプレッシャーをかけていた。

 そう意気込んで臨んだ第4戦・富士。目を見張るパフォーマンスを披露したのがキャシディだった。

 キャシディは全日本F3でチャンピオンを獲った2015年から日本でレース活動を開始した23歳。スーパーフォーミュラやスーパーGTなど、近年世界的にレベルが高いと言われる日本で挑戦したいという思いが強く、日本語の勉強も日々欠かしていないと言う。今では日本語での挨拶はもちろん、簡単な会話も理解できるほどになっている。

 普段から明るいキャラクターのキャシディは、いつもフレンドリーに対応してくれる。だが、ポールポジションを獲得した第4戦ではナーバスな一面を見せ、筆者もいつになく気を遣って取材をした。

 そして決勝レースは、2番手に浮上した昨年チャンピオンの石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)との緊迫した接近戦となった。トップを走るキャシディは周回遅れのマシンに道をふさがれ、一瞬不安がよぎる。過去には大事な場面でミスを犯し、自滅することも多々あったからだ。

 だが今回、キャシディの集中力は一切乱れることがなかった。

 このキャシディの奮闘に、チームスタッフも見事に応える。35周目にキャシディがピットインすると、迅速な作業で彼をコースに送り出した。一方、追いかける石浦はピットストップでの逆転を狙い、ピットタイミングを遅らせる作戦に出る。キャシディがタイムの出にくいミディアムタイヤに交換したため、それまでにリードを広げて逆転する狙いだった。

 だが、キャシディも負けてはいなかった。石浦を上回るペースで周回し、40周目にピットインした石浦を逆転。気迫の走りを見せ、トップを奪い返すことに成功したのだ。

「タイヤ交換後の1周は、人生で一番大事な1周だという気持ちで走った。石浦選手に逆転されてしまうんじゃないかと心配もしたが、本当に運に恵まれた」(キャシディ)

 最後までペースを緩めなかったキャシディは、その後も石浦を引き離して勝負あり。待ちに待ったトップチェッカーを受け、記念すべきスーパーフォーミュラ初優勝を成し遂げた。

 レース後、パルクフェルメ(車両保管所)のキャシディに近藤監督が駆け寄ると、互いに感情を爆発。ふたりは満面の笑みで表彰式の中央を飾った。

「『10年ぶりの優勝』とか恥ずかしいので、あまり言わないでください(苦笑)」

 スーパーフォーミュラでの勝利をやっと掴むことができ、肩の荷がひとつ降りたのだろう。記者会見に登場した近藤監督は、ホッとした表情を浮かべていた。

「レースをやっていると、ハッピーなことは本当に少なくて、いつもモヤモヤしながら帰ることが多かった。でも、今日はおかげさまで、すっきりしたハッピーな気持ちで帰れそうです。

 ニック(・キャシディ)はいつ優勝してもおかしくない、本当にすばらしい素質のあるドライバーだということはよくわかっていました。だから、我々がチーム一丸となって完璧にバックアップできれば、勝てるんじゃないかという期待はありました。ニックがいいキッカケを作ってくれたので、今後に向けていいモチベーションにつながると思います」

 この優勝により、キャシディはドライバーズランキングで2位に浮上。トップを快走する山本尚貴(TEAM MUGEN)に1ポイント差と迫った。

 10年ぶりの勝利で、彼らはひとつ殻を破ったと言えるだろう。次なる目標であるシリーズチャンピオンの獲得、そして名門チームへの仲間入りに向けて、KONDO RACINGが大きく動き出した。