野球界には”ラッキーセブン”という言葉がある。試合終盤の山場に差しかかるこの時、ファンは何…

 野球界には”ラッキーセブン”という言葉がある。試合終盤の山場に差しかかるこの時、ファンは何かが起こることを期待し、応援にも熱が入る。

 実際、このあたりで膠着状態になっていた試合が動くことも多い。好投していた先発投手に疲れが出たり、クローザーにつなぐ中継ぎの調子がいまひとつだったり、理由は様々だが、クローザーの出番が1イニング限定となった現代野球において、追いかける立場のチームのテンションが一番上がるのが、7回、もしくは8回である。

 だからか、「このイニングを任される投手はクローザー以上に負担がかかる」という球界関係者もいるぐらいだ。

 現在、メジャーのアリゾナ・ダイヤモンドバックスで活躍中の平野佳寿も先発からリリーフに回ってしばらくはクローザーの岸田護へとつなぐセットアップ役を担っていたし、阪神の藤川球児がブレイクしたのも久保田智之へとつなぐセットアッパーだった。

 セットアッパーから球界を代表するクローザーへと成長し、その後メジャーのマウンドにも立った2人に共通していたことは、年齢が若く、球が速かったことだ。つまり、現代野球でもっとも試合が動くこのイニングを乗り切るには、圧倒的な球威が必要といえる。

 加えて、勝ち試合限定のクローザーと比べ、同点や僅差のビハインドでの登板も多く、体力的、精神的なタフさが求められる。そういう意味で、まだ怖いもの知らずの若武者にはぴったりのポジションといえるが、それだけの力量があるピッチャーはそういるものではない。

 そんな中、交流戦で勢いに乗り、久しぶりのAクラスを狙うオリックスに若きセットアッパーが誕生した。2年目の山本由伸だ。



オリックスのセットアッパーとして大車輪の活躍を見せる山本由伸

 昨シーズン、高卒ルーキーながらファームで先発投手として8試合に登板し、防御率0.27という驚異の数字を叩き出した。夏場には一軍に昇格し、プロ初勝利を挙げている。

今シーズンもオープン戦までは先発ローテーション候補として一軍に帯同していたが、結局、開幕一軍は果たせず。それでも、二軍では無双状態で、2勝0敗、防御率0.38。首脳陣はこの若武者をセットアッパーとして起用することにした。

インタビュー当日、試合前にトレーニングルームに現れた山本は、この日のイベントに合わせた普段とは違う企画ユニフォームに上機嫌だった。

「だって、なんだか楽しいじゃないですか。こういうの、嫌いな人はいないんじゃないですか」

 本当は持ち帰りたいのだが、「試合後には回収されるらしいんです」と残念そうな表情で語る姿には、まだ少年のあどけなさが残っていた。

 一軍の生活にはそれなりに慣れたものの、毎日のブルペンでの調整にはまだ戸惑いを感じているという。それでもマウンドでの緊張感を楽しんでいると言ってのけるところに、大物の片鱗がうかがえる。

「マウンドに上がれば『冷静に』って心掛けているんですけど、もう投げ始めれば夢中ですね。それで、うまく抑えたときは楽しいなって……」

 ブルペンでのルーティンは、先輩投手を見ながら模索中だ。

「二軍にいるときは、佐藤(達也)さんや塚原(頌平)さんにブルペンでの過ごし方とか、いろいろ教えてもらいました。オリックスの先輩はみんな優しいんです。ただ仲がいいとかじゃなく、野球の話になると先輩後輩関係なく、情報交換できるところがいいですね」

 試合が中盤に差しかかると、山本はブルペンで準備を始める。

「3、4回になると、ある程度、試合の流れがわかってくるというか、展開が決まってくるじゃないですか。そこから逆算して準備します。大体7、8割は予想通りの展開になります。試合がいい感じに進んだら、『今日はあるな』って」

 週1回の登板に備える先発投手と、毎日ブルペンでスタンバイするリリーフ投手は、まったく別のポジションと言ってもいい。その最大の違いは、「気持ちの持っていき方」と山本は言う。

 緊迫した試合で気持ちが高ぶっていたにもかかわらず登板がなくなることもあれば、序盤から大量点が入り「今日は登板なし」と思った矢先に試合がもつれてマウンドに上がることもある。だから、まったくノースローという日はほとんどない。

 セットアッパーは、短いイニングながら常に全力投球が求められる。山本は「体力的には問題ない」と言うが、精神面では大きな負担を強いられている。だから、気持ちのスイッチの入れ方に気を配っている。

「毎日緊張していたらきついじゃないですか。毎試合『今日も行くぞ』って思っていたら、やっぱりしんどい。抜けるところは抜いていこうと思っています。だから、投げそうにないときは、できるだけリラックスするようにしています。それでも、気持ちを抜いてもゼロにはならないように。何が起こるかわからないので……」

 山本といえば、鋭く落ちる高速カットボールが今や代名詞のようになっているが、これは今年になってから習得したボールだ。オフに覚え、もう実戦で武器になっているというのだから、元来器用なのだろう。

「スライダーを投げると真っすぐが遅くなるって言いますが、僕の場合はそういうことはないんです。でもスライダーを投げすぎると、ちょっと疲れてくるんですよね。それで、打たせて取る球はないかなって考えていると、カットボールを思いついたんです。キャッチボールとかで練習してみたら意外と感覚がよくて。それで試合でも使い始めたんです」

 都城(宮崎)高時代は快速右腕として注目されていた山本だが、実は変化球が多彩な投手だった。普通の高校生なら、ストレート、カーブ、スライダー、フォークといったところが持ち球の相場であるが、山本の場合はこれにツーシーム、シンカー、チェンジアップが加わる。変化球は誰に教えてもらったわけでもなく、すべて自己流で覚えた。

「いろいろと覚えたかったので、あれもやってみよう、これもやってみようという感じでした。監督からは『もっとしっかりストレートを投げろ!』って言われましたが、ひたすら変化球を投げていました(笑)。ひとつひとつの球種のレベルは低かったですけど、いろいろ練習しました。もちろん、真っすぐあっての変化球というのはわかっていましたよ」

 とはいえ、ストレートは150キロを超えていたというから、間違いなく”超高校級”だろう。だが、甲子園出場経験はなく、全国的には無名に近い存在だった。

 思えば一昨年のドラフトは、寺島成輝(履正社→ヤクルト)、藤平尚真(横浜→楽天)、高橋昂也(花咲徳栄→広島)、今井達也(作新学院→西武)の”ビッグ4”が注目を集めていたが、今や山本は彼らをしのぎ、同期の出世頭となった。

 その山本が一躍ブレイクするきっかけとなった高速カットボールだが、これも特に決め球にするつもりはないと言う。

「どれっていうのではなく、全部の球で勝負できるようになりたいんです。シンカーは、プロのレベルで使いものにならないので投げていませんけど……あえて言えばスライダーが一番得意ですかね。だから、昨年はスライダーに頼る部分もありましたけど、今年はそういうことはないです。今はキャッチャーからのサインでカットボールが多い気がしますが、自分ではカットボールに頼るっていうイメージはないです」

 ランナーを置いた場面で三振を取りにいくのに、カットボールは十分なキレとスピードを持っているが、あくまで山本は打たせて取るためのボールだと言う。そもそも山本は、三振を奪うのではなく打たせて取るピッチングを理想としている。

「やっぱりシーズンを通して戦うなら、球数は少なくいきたいですから」

 その言葉の先には「いつか先発で」という思いがある。ここまで(7月4日現在)33試合に登板し、4勝0敗1セーブ、防御率0.82。

 5月1日には、強打の西武打線を相手にプロ初セーブを挙げた。近い将来、オリックスの守護神としてマウンドで仁王立ちする山本の姿に思いを馳せるファンも少なくないだろうが、本人は先発としてマウンドに上がることを夢見る。

「最後(クローザー)もやってみたい気がしますが、まだ実力不足なんで……。でもやっぱり、将来的にはリリーフじゃなくて、先発をやりたいですね」

 セットアッパーというポジションは、あくまでローテーションピッチャーに成長するまでの勉強の場だと、山本は考えている。

「もちろん、今は中継ぎですのでこの仕事を全力でやり切りたいと思っています。中継ぎをやるにしても、球数は多いより少ない方がいい。そこは中継ぎ、先発関係なく、勉強していきたい。先発を目指すなら、球数が少ない方が楽なんで。なんだろう……最強のピッチャーになりたいんです」

 山本はまだ19歳だが、インタビュー中、しばしば言葉を飲み込む。

「なんだろう……」

 質問をいったん飲み込み、自分なりに咀嚼(そしゃく)した上で、自分の言葉で語ろうとする。試合前の決して長い時間を取れないインタビューだったが、その限られた時間のなかでの矢継ぎ早の質問にも、ひとつひとつ丁寧に答える。常に考えるという習慣が身についている証だろう。現在の好調ぶりも、決して勢いだけでないことがインタビューからもうかがえた。

 そんな山本のピッチングに、侍ジャパンの稲葉篤紀監督も注目しているという。東京五輪が開催される2020年、山本は22歳になる。このまま順調に階段を駆け上がっていけば、代表入りも見えてくる。

「出たいですね」

 オリンピックの話になると、山本の目が輝く。この秋にはU-23ワールドカップが行なわれる。この大会には各国のオリンピック代表候補となる若手のホープが集うが、現時点でこの大会は山本の眼中にない。なぜなら、この大会が行なわれるのは10月下旬。つまり、ポストシーズンの真っ最中だからだ。そこのマウンドに上がることが、山本の目標である。

 まだ山本のピッチングをじっくり見たことのない野球ファンもいるだろう。まずは7月13、14日に開催されるオールスターで、19歳の若武者のピッチングを目に焼き付けてほしい。