「イケる!」 2-0になったとき、岡崎慎司はベンチでそう思ったという。 ロシアW杯決勝トーナメント1回戦、日本は強豪ベルギーを相手に奮闘。後半3分に原口元気が先制ゴールを決めると、その4分後、畳み掛けるようにして乾貴士が2点目を挙げたの…
「イケる!」
2-0になったとき、岡崎慎司はベンチでそう思ったという。
ロシアW杯決勝トーナメント1回戦、日本は強豪ベルギーを相手に奮闘。後半3分に原口元気が先制ゴールを決めると、その4分後、畳み掛けるようにして乾貴士が2点目を挙げたのだ。
見た目にもベルギーの選手たちは気持ちが落ちていた。決して油断はできないが、「(ベルギーが)どこでギアを上げてくるのか。その際、前半のように耐えられれば、ベスト16の壁は破れる」と思って、岡崎はその後の戦況を見つめていた。
ところが、後半24分に失点を喫すると、29分にも立て続けにゴールを奪われて同点に追いつかれてしまった。
「ラッキーパンチみたいなゴールだったんで、1失点目は仕方がない。2失点目も仕方がないのかなとも思うんですが、相手がボールを入れてくることに対して、最後のところでうまく対応できていなかったというのは、ベンチから見ていてもわかりました。
まあ、失点は細かいミスから(生まれるもの)で、ミスは仕方がない。体を張れているところは、今までにない代表の姿を見せることができたと思うし、攻撃にいくときの迫力とか、効率のよさとか、そういう部分でも(日本は)余裕があったと思う。けど……」
「けど……」と、岡崎が指摘したのは、控えの層についてだった。
原口が足をつるなど限界な状態にあり、柴崎岳にも相当な疲労が見えていた。そうした状況にあって、西野朗監督が動いたのは後半36分。原口と柴崎に代えて本田圭佑と山口蛍を入れた。
一方、ベルギーはそれよりだいぶ前、2点ビハインドとなった後半20分にMFのナセル・シャドリ、マルアン・フェライニというふたりの大型プレーヤーを投入して、攻撃力を増していた。そして最終的には、フェライニが同点ゴールを、シャドリが決勝ゴールを決めた。
「圭佑が入って、中盤が締まったと思うんで、そういう意味では延長に向けての準備はできたと思う。でも、最後の最後に世界トップレベルのカウンターを受けた。そこでそれを出すかっていう感じだった」
最後のカウンターに対して、岡崎はファールしてでも止めるべきだったと思っていた。
「あそこは、何がなんでも延長にいかなければいけなかったと思う。あれを止めることができなかったので、やっぱり最後のところの差なのかな、と。
戦っていてベスト8が見えた部分もあるけど、相手はしたたかに、最後に3点目を取れるだけのものを残していた。自分たちは交代枠という部分で、自分も含めて力になれなかった。先発メンバーがよく戦っていたなかで、決勝トーナメントに入ってくると、次は層の厚さとかが重要なのかな、と改めて思いました」
岡崎が力になれなかったのは、ケガが影響している。
大会前からリハビリの状態にあって、初戦のコロンビア戦の時点で満身創痍だった。さらに、ポーランド戦で右足首を故障して、ベルギー戦に出場するのは困難な状況にあった。
「監督が(W杯)メンバーを発表する前に(自分が所属する)レスターに来たとき、『信頼している』という言葉をかけてもらって、そこから『日本のために』という気持ちでやってきたけど、(ケガの影響により)期待に応えられない自分が最後までいた。
今日も、自分のコンディションさえ普段どおりなら、ゲーム展開的には(途中から)自分が起用されていたと思う。監督もいつもどおり(自分を)使いたかったと思うけど、ケガをしていて力になれなかった。この大会では、なかなかチームのためになれなかったという思いがあるので、ほんと、自分としては心残りしかない」
岡崎は悔しそうに顔を歪めてそう語った。
ベルギーに敗れて8強入りを逃した日本代表
とはいえ、2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、そして今回のロシア大会と、岡崎が経験した3つのW杯のなかで、一番手応えを感じたのは、今大会だった。ベスト16入りは8年前にも体験しているが、今回はその先の景色が見えるところまで、チームが来ていたからだ。
「今回は、より(ベスト8に)近づいた。チーム全体を見て、そう思えた。決勝トーナメント進出を決めたときの、選手みんなの気持ちが満足していないというか、『これ(決勝トーナメント1回戦)勝たないと、意味ねえぞ』という空気になっていた。それほど、今回はベスト8に行きたい気持ちが強かった。
今までの日本代表、その積み重ねのおかげで、今回はそういう心構えになってきたんだと思う。さらに、今回の負けを味わい、見ていた(今後の代表を担う)選手たちは、『もうここで満足しちゃいけないんだ』ってなっていると思う」
32歳の岡崎。同い年の本田は、今回のW杯が最後であることを明言していた。岡崎もまた、「これまでの集大成」と位置づけて今大会に臨んできたが、大会を終えた今、どういう気持ちなのだろうか。
「この大会に至るまでケガがすごく多かったし、今のままでは日本代表でプレーするのはなかなか難しい。ただ、自分がもう一度体を整えれば、(代表に)必要とされると思う。自分には戦う舞台があるので、そこでしっかりやっていれば、(今後も代表入りの)可能性があると思う」
岡崎に、代表引退の意思はない。
今大会はケガに苦しめられ、満足のいくプレーができなかった。3大会連続となるゴールを達成できず、チームの勝利にも貢献できなかった。その心残りと悔しさから、岡崎はこう言った。
「この終わり方じゃ、自分は納得できない」
万全な状態の自分を取り戻して、再び日本代表のピッチに戻ってくる――微(かす)かに見えた16強の壁を超えるためにも、ここで足を止めている時間は岡崎にはない。