「アメリカの投手はスピードがありますし、ハイレベル。打者はすぐに対応することが難しいでしょうから、機動力を使える野手…

「アメリカの投手はスピードがありますし、ハイレベル。打者はすぐに対応することが難しいでしょうから、機動力を使える野手を起用したいと考えています。その思いは今日の合宿初日を見て、さらに強くなりました。日本も投手陣のレベルが高いので、そう点は取られません。守備を固めつつ2、3点取れるチームづくりをしていきたいです」

 6月22日、侍ジャパン大学日本代表選考合宿初日を終えた段階で、大学日本代表の生田勉監督(亜細亜大)はこのように語っていた。この言葉を聞いて「選出されたら面白いな」と頭に浮かんだ選手が2人いた。それが米満凪(なぎ/奈良学園大4年)と児玉亮涼(りょうすけ/九州産業大2年)である。



大学選手権では初戦で立命館大に敗れたが、大会タイとなる1試合4盗塁を決めた奈良学園大の米満凪

 両選手ともにスピードがある内野手であり、守備力も高い。「生田ジャパン」の構想に合致する人材だったからだ。

 しかし、一方で「選出されるのは現実的ではないかもしれない」という本音もあった。いずれも今春の全国大会で活躍した選手とはいえ、全国的な知名度はない地方大学の小兵だったからだ。

 招集された50名の候補から、24名のメンバーに絞り込まれる過程でふるい落とされるだろうと予想していた。だが、24日に発表された大学日本代表メンバーの中に、2人の名前はあった。

 大いなる驚きとともに、合宿初日の練習終了後に目にした米満と児玉の様子を思い出していた。2人とも選出されるとは思っていなかったが、たまたま話を聞いていたのだ。

 この日、最速156キロを計測した甲斐野央(かいの・ひろし/東洋大)らが報道陣に取り囲まれる中、米満は誰に声を掛けられるわけでもなく、球場通路から現れた。

「今日は全然力を出せなかったですね。守備はまだよかったですけど」

 米満はそう言って、苦笑いを浮かべた。この日の紅白戦ではセンターフライとレフトフライの2打席凡退に終わり、試合終盤には代走として起用されたものの、三盗失敗に終わっている。

 一方で、本人が「まだよかった」と語ったように、守備では随所に見せ場を作った。センターへと抜けそうなゴロを二塁キャンバス付近で抑えてアウトにし、ショート後方の難しい飛球も後ろ向きのまま好捕してみせた。米満は「守備範囲の広さは持ち味なので」と胸を張った。

 身長170センチ、体重67キロ。体は小さいが、この選手からはいつもあふれんばかりのエネルギーが発散されている。大学選手権では初戦の立命館大戦で敗れたものの、米満自身は1試合4盗塁の大会タイ記録をマーク。打っても本塁打を含む3安打と大暴れした。

 本人は「目立ちたいというよりは、持ち味なので」と言うが、走攻守に「プロへ行きたい――」という野心が伝わってくる。プロでいえば杉谷拳士(日本ハム)のような存在感がある。

 紅白戦前のシートノックでは、三遊間からのジャンピングスローなど、派手なプレーを見せたが、一方で凡ゴロを2球連続でエラーする”ポカ”も見られた。本人は「緊張してしまって……」と頭をかいたが、いいところを見せたいという思いが空回りしているようにも見えた。だが、米満は大学球界を代表する選手たちに混じっても自分のプレーは通用すると自信を深めたようだ。

「守備も足も自分の武器なので。他の選手と比べて、劣っているとも思いませんでした」

 そんな米満が「スピード感があるし、まだ2年生と聞いて驚きました」と語るのが、同じショートのポジションにいた児玉である。

 身長165センチ、体重60キロ。合宿参加選手で最低身長だが、シートノックから存在感は抜群だった。弾けるような一歩目のスピード、捕球地点にスムーズに入る足運び、正確で強いスローイング。どれを取っても参加選手の中で抜けていた。

 そんな児玉は、合宿初日が終わると同じく九州産業大から招集された先輩・岩城駿也(4年)と野球ファンとの記念写真を撮影する役目を負っていた。まるで大学日本代表候補とは思えない、庶民的な雰囲気だった。

「ついこの前まで、僕はBチームにいたんです」

 児玉はそう言って笑った。春先まで大学野球部の一軍にすらいられなかった選手なのだ。リーグ戦前にAチーム入りし、「今日いくぞ」とたまたま起用された日本文理大とのオープン戦で結果を残し、そのままレギュラーに定着。2番・遊撃手として全国ベスト4進出に貢献した。



春のリーグ戦から急激なスピードで成長を続けている九州産業大の児玉涼亮

 当初、大学日本代表候補に児玉の名前はなかったが、大学選手権の期間中に追加招集されることが発表された。児玉は「本当に自分なのか?」と目を疑ったという。

「バッティングはいつも打てる人はいませんし、守備は自分の持ち味だと思っています。あとは小技と走塁でかき乱すスタイルを貫き通したいです。すごい人と一緒に野球ができるので、勉強します」

 紅白戦では足でもアピールした。米満と同じように試合終盤に代走で起用されると、プロ注目捕手・太田光(大阪商業大)から二盗、三盗を立て続けに決め、三盗時には太田の悪送球も誘って一気に生還。体は小さくてもトップスピードに到達するのが速く、鮮烈な印象を残した。このプレーが大きなアピール材料になったに違いない。

 課題は非力な打撃で、本人も「強化していかないと……」と危機感を抱いている。ただ、大学選手権ではドラフト1位候補の上茶谷大河(かみちゃたに・たいが/東洋大)からタイムリー安打を放つなど、14打数4安打4打点とまずまずの成績を残した。

 文徳高(熊本)時代は1年夏、2年夏ともに熊本大会決勝戦のラストバッターになるなど、熊本では「悲運の男」として知られているという。今でも「高校生」と言っても通用しそうな幼い顔つきだが、そんな小兵が世界を相手にどんなプレーを見せるのか、興味は尽きない。

 また、児玉が「ノックを見て上手だなと思った」と語る上川畑大悟(日本大4年)も大学日本代表に選出。守備力・機動力を重視するのであれば、米満、児玉、上川畑のいずれかがレギュラーショートとして起用されるのだろう。

 落選した選手の中には全国的に名前の知られた選手もおり、ドラフト上位候補の内野手もいた。だが、もちろん落選した選手が米満、児玉らよりも劣ったということではない。これから日米大学野球選手権、ハーレム・ベースボールウィークという国際大会を戦う上で、生田監督が勝つために必要としたのが24名の代表選手だったのだ。

 生田監督はこうも述べている。

「試合をするのは天然芝になるでしょうから、それを想定して内野安打を打てたり、ランエンドヒットなどの組織プレーに対応できる選手は誰か、いろいろと試させてもらいました。いま、大学スポーツ界はいろんな意味で注目されています。自分の言動に注意して、大学日本代表として誇りを持ってプレーしてもらいたいと考えています」

 米満凪と児玉亮涼という2人の小兵が「生田ジャパン」の申し子になれるか。それが大学日本代表の成功のカギを握っている。