ロシアW杯グループリーグの最終戦となるポーランド戦、日本代表の西野朗監督は大きな”賭け”に出た。 1、2戦のメンバーから、6人もの選手を入れ替えた。そのなかで、W杯で初めて試合に出場する酒井高徳を攻撃的MFに配…

 ロシアW杯グループリーグの最終戦となるポーランド戦、日本代表の西野朗監督は大きな”賭け”に出た。

 1、2戦のメンバーから、6人もの選手を入れ替えた。そのなかで、W杯で初めて試合に出場する酒井高徳を攻撃的MFに配置するなど、大胆なキャスティングも行なった。そして、1、2戦と不安定なプレーを見せているGKの川島永嗣もそのまま起用した。

 その”即席チーム”が、効果的な攻撃などとても生み出せるはずがなかった。逆に、セットプレーから相手に先制ゴールを許してしまった。

 控えのGK東口順昭は、この試合もベンチから冷静に見守っていた。

「3戦目で大きくメンバーが変わって、自分も(出場の)可能性があるかなって思っていたんです。でも、チームとしては負けていないですし、監督としても代えづらい状況ですからね。もちろん、試合には出たいですし、もどかしいですけど……」

 GKは、一度レギュラーが固定されると、ケガなど余程のことがない限り、交代することはない。西野監督も、守備の要であるGKをコロコロと代えるタイプではない。現に、1、2戦とミスが目立つ川島を信頼し、起用し続けている。

 そうした状況にあっても、東口は腐ることなく、常に万全の状態を整えて日々の練習も黙々とこなしている。

「フィールドプレーヤーだと、途中からとか、こうしたターンオーバー制を敷いたときとか、試合に出られるけど、GKはそういうのがあまりないですからね。ひとつのポジションを3人で争っていくなかで、とにかくアピールしていくしかない。

 練習はフィールドの隅のほうでしているし、練習時間も長いけど、GKコーチがふたりいるなか、(選手は)3人でやっているので”ファミリー感”が出ますね。GKはそういうファミリー的な感じでやっています」

“ファミリー的”というだけあって、GKはお互いを支える精神が身についている。第2戦のセネガル戦では、川島が相手のシュートをパンチングでクリアし、そのボールが目の前にいた相手選手の足に当たって先制点を許した。そのプレーには川島本人も「ミス」と認めていたが、この試合後、東口らGK陣は川島のプレーについて一緒に話をし、単なる「ミス」と片付けることはしなかった。

「GK同士で話をすると、GK目線というのが強く出ます。セネガル戦の(川島の)プレーも、フィールドの選手は『キャッチできたやろ』って簡単に言いますけど、GK目線で言うとキャッチの判断はしづらいところなんですよね。その温度差を感じられるのが、GKやGKを知っている人たちなんです。

 フィールドの選手ではなく、自分たちはGK側につく。GKのことは、GKにしかわからないことがあるんですよ」



ベンチで戦況を見守る面々もチームと一体となって戦っている

 ポーランド戦、川島はそれまでの汚名返上を果たすかのように好セーブを再三見せた。ベンチから見ていた東口は「永嗣さん、集中しているなぁ」と感じていたという。

「セットプレーから1点取られたけど、あれはマークが外れていましたからね。ただ、失点としては、しっかり修正していかなければいけない。

 永嗣さんは気持ちが入っていたし、今日はGKとしてめっちゃいい仕事をしていたと思います」

 終了間際、日本は0-1で負けていながらもボールを回して、失点しないこと、イエローカードをもらわないことに徹した。同じ時間に行なわれていたコロンビアとセネガルとの試合で、コロンビアが1-0でリード。そのまま試合が終われば、日本の決勝トーナメント進出が決まるからだ。

 だが、スタンドからは猛烈なブーイングが飛び交った。ベンチにいた東口は、その様子をどう見ていたのだろうか。

「ベンチでは、このまま(0-1)という狙いがあったし、ブーイングされようが次のステージに行くほうが大事。あのブーイングに影響されて、攻めてカウンターを食らってしまうと、次に行くことが難しくなってしまう。

 だから、僕はブーイングされるのはぜんぜん構わないし、仕方がないことと思っていました。自分たちの目標は、この試合に勝つことじゃなくて、次に進むこと。そこはみんな、割り切ってああいう形になったと思います」

 結局、日本はポーランドに敗れたものの、決勝トーナメント進出を決めた。

 2大会ぶりのベスト16である。この結果を、東口はどうとらえているのだろうか。

「もう、上出来だと思います。攻守に安定した戦いができているし、日本らしさも出ていた。これからは、負けたら終わりの戦いになりますが、もっとよくなるんじゃないかなって思っています」

 ノックアウトステージとなる決勝トーナメント。もはやターンオーバーもないだろう。東口が出場することは、一層難しい状況になった。

「(自分が試合に出場することは)流れ的には難しいでしょうね。でも、体と心の準備は常にしておいて、(先発に)選んでもらえるように待つしかないと思っています」

 出場機会を待って我慢できるのは、東口のメンタルの強さに他ならないが、それ以上に、GK陣は”ファミリー”だからでもある。

 川島と東口、そして中村航輔のGK3人の絆は1試合ごとに強くなり、試合に出場できる唯一のGKを残ったふたりが全力でサポートしていく。