ロシアW杯。開幕してここまで、いくつか起きた波乱のなかでも、日本対コロンビアは飛び抜けた域にある、まさに大事件だ。サッカー競技の特徴が最大限に発揮された試合。言い換えればそうなる。サッカー以外の競技ではまず起こりえない出来事と言うべき…

 ロシアW杯。開幕してここまで、いくつか起きた波乱のなかでも、日本対コロンビアは飛び抜けた域にある、まさに大事件だ。サッカー競技の特徴が最大限に発揮された試合。言い換えればそうなる。サッカー以外の競技ではまず起こりえない出来事と言うべきだろう。

 サッカーにおいて運が占める割合は3割に及ぶと言われる。その3割を両軍でどう分け合うか。”天の配剤”という言葉があるが、長い目で見れば半々だろう。どこかのチームが運を独り占めすることはない。しかし、1試合に限れば「勝因は運」と言いたくなる試合に、まま出くわす。それがW杯本大会の日本絡みの現場で発生しようとは……。

 試合が終わって間もない現在は、事件の現場に遭遇した驚きの方が、勝利の感激を大きく上回った状態にある。



前半3分、PKを決めてベンチに走り寄った香川真司

 事件の発端は、開始3分、コロンビアDF、ダビンソン・サンチェスが緩慢な動きで浮き球の処理を誤ったことに起因する。それに食らいつき、マイボールにした大迫勇也の頑張りも讃えられるべきだが、サンチェスのプレーは、トップレベルの試合では滅多に遭遇しない凡プレーであることも確かだ。

 この流れから香川真司が放ったシュートを、コロンビアMFカルロス・サンチェスが右上腕部に当てて止め、日本はPKをゲット。加えて、カルロス・サンチェスの赤紙退場まで獲得した。「PKを与えたならイエロー止まり」がスタンダードな判定になりつつあるなかで、スロバキア人のダミル・スコミナ主審さんは、日本に最大限好意的な判定をしてくれた。

 PKで先制点をゲットしたうえ、相手は10人に減った。両者の実力が伯仲した関係にあるなら、この”プレゼント”は、ゲームへの興味を台無しにする判定になる。だが、コロンビアと日本の関係は、さにあらずだ。本来の関係は35(日本)対65(コロンビア)。それがこの判定で55対45に変化した。

 つまり、それでも日本が若干、有利になったに過ぎなかった。

 香川真司の好パスを乾貴士が外した前半15分頃から、雲行きは怪しくなっていく。そして39分、コロンビアMFフアン・キンテーロの直接FKを、GK川島永嗣がセーブし損ねて同点に追いつかれると、55対45の関係は、47対53ぐらいの関係で、コロンビア優位に変化したかに見えた。

 今度は、日本が攻め返す番だった。日本はキチンと攻め返すことができるか。このときスタンドには、同点ゴールで元気を回復したコロンビアサポーターの、地鳴りのような大歓声が湧き起こる。

 日本のお茶の間に、テレビ画面越しにどう伝わっていたのか定かではないが、サランスクのスタンドは、70%以上が黄色い軍団によって占められていた。対する日本のブルーはせいぜい5~6%。コロンビアの10分の1以下だった。

 日本サポは、まるでチャンピオンズリーグのアウェー観戦に出かけたサポーターのように、狭い一角に窮屈そうに収容されていた。これまでW杯5大会17試合中、16試合の日本戦を観戦してきたが、人数的にも、割合的にも、このコロンビア戦が最少だった。日本代表がこれほど不憫(ふびん)に見えたことはない。

 一方、コロンビアは大歓声をバックに後半を迎えることになった。スタジアムは逆転ムードに支配されることになった。

 だが実際の流れは、ハーフタイムを挟んだことでリセットされていた。スコアは1対1で、コロンビアは10人。とはいえコロンビアには、こうなったら勝ちたいという欲も生まれている。

 その結果、失うものはなにもないとばかりにイケイケだった前半に比べ、コロンビアは用心深く戦った。日本に攻めさせてカウンターを狙おうとした。残り時間45分、もう1点を奪えば勝利に繋がることが現実になったことで、前半39分に同点ゴールを奪ってからハーフタイムの笛を聞くまでの数分間に比べ、慎重なプレーが目立つようになった。

 コロンビアは引いて構えた。これが日本には幸いした。日本の長所がパス回しにあるとすれば、それが発揮される環境が整ったことを意味した。実際、日本はチャンスを9分、12分、14分とたて続けに作った。しかしチャンスを作っても、日本の攻めは迫力不足だ。決まる可能性が低いことは、日本人であるこちらが一番よく知っている。

 点は入りそうもないが、試合を優勢に進めている日本。相手は10人なので、プレスをかけられる心配もない。11人の日本がパスをつなげば、コロンビアは追いかけざるを得なくなる。1人少ない分、余計に足を使うので疲労は蓄積する。ボールを奪っても、前半のような威力のある攻撃を、連続して仕掛けられない状態になった。

 1-1のまま終わるのか――。スタジアムにはそんなムードが漂い始めていた。コロンビアサポーターの歓声も、時間の経過とともにトーンダウンしていった。その空気がピッチまで伝播したことは言うまでもない。ホームと化したスタンドが静かになるほど嫌なものはない。スタジアムは、川島のミスで同点に追いつかれた直後とは、まったく違うムードになっていた。

 日本に決勝ゴールが生まれたのは、そのタイミングだった。本田圭佑のCKを大迫が頭で叩き込んだセットプレーによる得点だった。流れの中から生まれたゴールではないところが、決定力に欠ける日本らしいと言えば日本らしいところだが、このCKに至る直前のプレーでは、今日イチと言いたくなるパスワークも見せていた。

 左で乾、柴崎岳が絡み、本田圭佑、酒井宏樹と右へ展開。中央で構える大迫のポストプレーから酒井宏が放ったシュートに至る流れは、まさに日本らしさの象徴だった。その直後に生まれた大迫の決勝ゴールには、セットプレーとはいえ、必然性があった。

 ピッチを広く使い、プレスの網をかいくぐりながらパスを回し、決定力は低くても、それを何度となく繰り返す。10人のコロンビアには、それが奏功した。セネガル、ポーランドにその戦術が通じる保証はどこにもないが、いまの日本がやれることはそれのみだ。

 その結果、勝てるかどうかわからないが、その路線を追求せずに、好プレーは望めない。次戦、11人のセネガルに対して、日本の長所をアピールできるか。無欲で挑んでもらいたい。

 それにしても、だ。現地での日本人サポーターの少なさには恐れ入る。あるいは32チーム中、最低かもしれない。日本の成績より、僕にはこちらの方が心配になる。