ワールドカップは、表向きの華やかさとは裏腹に、ある意味で消耗戦だ。 前年の8、9月あたりから始まった長いシーズンをようやく戦い終えた選手たちは、この時期、心身ともに疲弊している。なかば形式的に与えられる束の間の休みだけで、完全に体力を…

 ワールドカップは、表向きの華やかさとは裏腹に、ある意味で消耗戦だ。

 前年の8、9月あたりから始まった長いシーズンをようやく戦い終えた選手たちは、この時期、心身ともに疲弊している。なかば形式的に与えられる束の間の休みだけで、完全に体力を回復させることなど不可能だ。

 だが、それにもかかわらず、彼らは国の威信をかけた戦い、それも1カ月で最大7試合をこなす過密日程の大会に挑んでいる。

 だからこそ、強豪クラブに所属するスター選手ほど、ワールドカップで活躍するのは難しくなる。なぜなら彼らは、同じ1シーズンでも、より過酷な戦いをこなしてきているからだ。スター選手がUEFAチャンピオンズリーグで優勝すると、ワールドカップでは優勝できないというジンクスが囁かれるゆえんも、そのあたりと大いに関係があるだろう。

 少々前置きが長くなった。要は、ポルトガル代表のFWクリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード/スペイン)はスゴい、という話である。



いきなりハットトリックを決めたC・ロナウド

 ワールドカップ開幕から、わずか2日目。早くも迎えた大一番。B組のポルトガルvsスペインはグループリーグ最高の好カードとして、組み合わせ抽選が行なわれたその日から、大きな注目を集めていた。

 そんな大会序盤のハイライトとも言うべき試合で、しかも、なかでもひと際高い人気を誇る大看板が、ハットトリックを成し遂げてしまうのだから恐れ入る。

 C・ロナウドのようなスター選手がワールドカップで活躍することの難しさは、彼自身が過去の大会で証明してきたと言ってもいい。C・ロナウドは2006年大会以来、3大会に出場しているが、決めた得点は各1ゴール。合計でもわずかに3ゴールしか決めていなかった。

 ところが、今大会は初戦でいきなり3ゴール。強烈なオーラを放つカリスマも「パーソナルベストを記録できて、とても幸せだ」と喜んだ。

 試合結果を見れば、3-3の引き分けである。主役が3ゴールを叩き出してもなお、ポルトガルは勝利を手にすることができなかった。「2度リードし、勝ち点3に近づいたが、逆転されてしまった」と語るC・ロナウドに、悔しさがまったくないわけはない。

 それでも相手は、優勝候補の一角をなすスペインだ。その実力を肌で知るC・ロナウドは納得の様子で、「最後に追いつけたことはよかった。引き分けがフェアな結果であることは明らかだ」と続けた。

 C・ロナウド自身が、「まだグループリーグは続いていく。すでに頭のなかは次戦へと切り替わっている」と話していたように、まだ1試合を終えたばかりで、先のことを考えすぎるのは早計だろう。

 とはいえ、そうと知りつつもC・ロナウドへ、そしてポルトガルへの期待が高まるのは、優勝候補とのドローが、決して背番号7の孤軍奮闘でもたらされたものではなかったからだ。

 これまでワールドカップの舞台に立つC・ロナウドは、いつも自己中心的だった。言い換えれば、よくも悪くもC・ロナウドのワンマンチームだったポルトガルでは、彼が自分で何とかするしか手がなかったとも言える。

 だが、この日のC・ロナウドはそうではなかった。印象的だったのは、前半21分のシーンである。

 カウンターから敵陣ペナルティエリア付近に攻め入ったC・ロナウドは、ゴール正面からやや左でパスを受けた。かつての彼なら間違いなく一度ボールを収め、自分でシュートまで持ち込んでいたはずだ。

 しかし、C・ロナウドはあろうことか、中央に走り込んできたFWゴンサロ・ゲデスへワンタッチパス。キャプテンがお膳立てしたチャンスは、結果的に21歳の新鋭FWがふいにしてしまうのだが、C・ロナウドの”変心”を強く印象づけた場面だった。

 もちろん、そこには33歳になったC・ロナウドの衰えもあるだろう。だが、自身の力は落ちているにもかかわらず、過去最多の得点を量産できているのは、彼が”ひとり相撲”を取っていたときに比べ、チームとしての機能性が格段に高まったから。つまり、ポルトガル代表においてC・ロナウドの役割が整理され、いい意味でひとつの駒となってプレーできていることが、数字につながっているように見える。 

 とりわけ、C・ロナウドが良好な関係を築いていたのが、前述のゲデスだ。ひと回り近く歳の離れた2トップは、互いを生かし、生かされ、スペインを相手にカウンターから何度もチャンスを作り出している。

 ポルトガルのフェルナンド・サントス監督も、ゲデスについて守備では課題を指摘しつつも、「攻撃面で可能性を秘めた選手」と潜在能力を高く評価する。変心したC・ロナウドとともに、今後もチャンスを量産するようなら、今大会でのブレイクも十分にありうる。

「大事なのは、肉体的なことより、精神的なこと。クリスティアーノは、信じられないほどの精神的な強さを備えている」

 指揮官はそう語り、チームの大黒柱を絶賛しつつ、その一方で「クリスティアーノ、クリスティアーノ、クリスティアーノ。みんな、クリスティアーノの話ばかりだな」と、C・ロナウドばかりに話題が集中することには辟易(へきえき)した様子を見せるのは、チームに対して自信を感じているからではないだろうか。

 ロナウドの変心は、ポルトガルを、そして彼自身を輝かせている。