今年は骨のある野手が多いな……。現在開催されている全日本大学野球選手権を見て、そんなうなり…
今年は骨のある野手が多いな……。現在開催されている全日本大学野球選手権を見て、そんなうなり声をあげていた。
東洋大の甲斐野央(かいの・ひろし)、上茶谷大河(かみちゃたに・たいが)、梅津晃大というドラフト戦線の中心にいる3投手が注目を集めたなか、今年はドラフト上位指名も望める大学生野手が目立っている。とりわけ面白い特徴を持った3選手を紹介したい。

関西学生野球連盟で史上28人目の通算100安打を達成した立命館大の辰己涼介
辰己涼介(立命館大)は今年の大学球界を代表する外野手だ。下級生時からレギュラーを務め、大学日本代表経験もある。打ってよし、守ってよし、走ってよし。総合力の高い選手だが、そのつかみどころのないキャラクターもプロ向きだろう。
今春5月17日、関西学生リーグ通算100安打まで残り4本と迫っていた辰己は、関西学生野球連盟の公式Twitter動画でコメントを求められ、こう答えている。
「まずは200本安打までの通過点として、100安打をしっかり打ちたいと思います。応援よろしくお願いします」
そんな茶目っ気のあるコメントを、なぜか無表情で言うのだ。その後、辰己はリーグ100安打を達成し、今春終了時点で数字を104まで伸ばしている。
大学選手権の試合後も、報道陣との間でルーティンだという歯磨き談義が始まった。
「今日は朝から試合開始まで3回磨きました。僕は硬めの歯ブラシが好きなので、いつも歯茎から血が出るんです。東京にはいつも使っているマイ歯ブラシを持ってきました。ホテルの歯ブラシは柔らかめの傾向があるので。それも(4年間で経験した)データの1つです」
話を聞いているだけで、独特な世界に引き込まれていく。そんなキャラクター性も魅力だが、もちろんプレーでも辰己は大いにアピールしている。大学選手権初戦の奈良学園大戦では、決勝の2点タイムリー二塁打を左中間に運んだ。この一打に辰己の4年間の成長が詰まっていた。
「左中間が広かったので、あそこに飛ばせば長打で2点入る確率は高くなるなと思っていました。打ったのは外角の真っすぐですけど、真っすぐでも変化球でもショートの頭を狙っていました」
関西の学生野球界で辰己の名前を知らぬ者はいない。リーグ戦では「外ばっかり」(辰己)の配球で攻められていた。
「インコースしか打てなかったので、外ばかり練習していました。逆方向を意識して打てば、バットは勝手に出てくるので」
近畿学生野球連盟の奈良学園大も勝負どころでアウトコース攻めを選択したが、辰己は見事に攻略してみせたのだ。
また、タイムリーを放った次の打席では、フルスイングで空振りした直後にサードの守備位置を見てセーフティーバントを決めるという小技も披露している。コメントだけでなく、プレーもつかみどころがない。
そしてこの選手が魅力的なのは、見るたびに進化を見せつけることだろう。大学1年時はバットコントロールのうまい巧打者という印象だったが、年々スイングに力強さが増している。そんな印象を本人に伝えると、「トレーニングして体が大きくなって、それで飛距離が伸びました」という答えが返ってきた。
たしかに、やや貧相に見えた下級生時の体つきから、ほどよく筋肉がついたように見える。だが、大学選手権の公式パンフレットに記載された数字は「178センチ、68キロ」。ドラフト候補としては、やや頼りない数値だ。見た目と数字にギャップがあることを伝えると、辰己はサラリと「それは古いデータですね」と語った。実際には、身長180センチ、体重74キロだという。
自分の体を大きく見せようと数字を”サバ読み”することはあっても、実際よりも小さく伝わっているケースはなかなかない。もちろん、悪意があって下方修正しているわけではないが、辰己の公式プロフィールデータが更新されることを願いたい。
まるで別人みたいだ――。
今春、そんな成長を見せたのは、大阪商業大の捕手・太田光(おおた・ひかる)だった。二塁送球タイムは1秒78を計測するなど、もともと守備力を評価されていた捕手だが、今春は打撃が開花。春のリーグ戦では13試合で24安打を放ち、打率.522、2本塁打と大暴れした。大学選手権でも天理大戦でライト方向へ2本の二塁打を放った。

春のリーグ戦で首位打者を獲得した大商大の太田光
これまでの「打者・太田」には非力な印象が否めなかったが、今春4番に座る太田に非力感はまるでなかった。それどころか、柔らかく運ぶようなスイング軌道はまるで長距離砲のようだった。
そのスイング軌道を見て、思わず太田に確認せずにはいられなかった。「”カチカチバット”を使っていますか?」と。すると太田は「はい、大学2年の冬から使っています」と認めた。
“カチカチバット”とは正式名称を”カウンタースイング”といい、芯から根元にかけて2つの重りがスライドするような構造になっている素振り用のバットのことだ。昨夏の甲子園で大会6本塁打の新記録を樹立した広陵・中村奨成(現・広島)が練習で使用していたことで話題になった。太田も広陵出身であり、その影響を受けていると容易に想像できた。
「カウンタースイングを取り入れたことでスイング軌道が変わりました。振り幅が大きくなりましたね」
強打者特有のスイング軌道を身につけるとともに、昨秋からは「振る力をつけよう」と、1.5キロの重いバットで振り込むことでスイングスピードを獲得した。
「スイングが速くなったことで余裕ができて、バットコントロールと対応力が上がりました。逆方向(ライト)への飛距離も伸びるようになりました」
太田には課題を見つけ、自分で考え、行動して解決する能力がある。プロで言えば嶋基宏(楽天)のスタイルがだぶってくる。
進路は「プロ一本」ときっぱり。プロでレギュラーを狙える捕手は希少なだけに、ドラフト上位指名の可能性も十分あるだろう。
「関東の大学が強いと言われますが、九州の大学でも勝てることを示したいと思って九州に残りました」
鋭い眼光を真っすぐにこちらに向けて、岩城駿也(九州産業大)は力強く語った。福岡・東海大五(現・東海大福岡)出身の内野手。大学は系列の東海大ではなく、「九州を出るつもりがなかったので」と九州産業大に進学した。大学選手権では初戦で、その東海大といきなり対戦することになった。

春のリーグ戦で7本塁打、27打点という驚異的な数字を残した九州産業大・岩城駿也
今春のリーグ戦では主軸として12試合で打率.469、7本塁打、27打点という、とてつもない成績を残している。当然、大学選手権でも徹底マークを受けた。第1打席では東海大先発・原田泰成(3年)から際どいコースを攻められ、8球投げさせたものの力ないセカンドフライに倒れた。
しかし、リーグ戦で27打点を挙げた勝負強さはダテではない。1点を先制されて迎えた6回裏、二死三塁の場面では読みが冴えわたっていた。
「いい流れが来ていると思いながら打席に入りました。スライダーが2球外れていたので、真っすぐしかないと張っていました」
インコース寄りのストレートを力強く弾き返すと、レフト前への同点タイムリーとなった。主砲の一打に勢いづいたチームは、優勝候補を相手に3対2と勝利した。岩城は「自分の結果は二の次で、チームが勝てたことがうれしい」と目を輝かせた。
まるで天井から吊るされているかのように背筋とバットを真っすぐに立てた構えから、鋭くバットを振り抜く姿には「打撃職人」のムードが漂う。
「3年の春くらいからスイングスピードが速くなった感覚があって、インコースの真っすぐもきれいにさばけるようになりました。ボールを長く見られるようになって、ミスショットも減ってきたと思います」
岩城はすでに6月22日から選考合宿が始まる大学日本代表候補に名を連ねている。地元で腕を磨き続ける、無骨な九州男児の名前が全国へと知れわたる日は、そう遠くないかもしれない。