楽しむことと冷静でいること。6月の日本代表ツアーで、浅原拓真はこの2点を意識している。 まず5月27日から宮崎でおこなわれた事前合宿中、こう決意していた。「楽しんで、前向きにできるようなツアーにしたいっすね。競争(ポジション争い)もありま…
楽しむことと冷静でいること。6月の日本代表ツアーで、浅原拓真はこの2点を意識している。
まず5月27日から宮崎でおこなわれた事前合宿中、こう決意していた。
「楽しんで、前向きにできるようなツアーにしたいっすね。競争(ポジション争い)もありますが、頑張ります」
最前列の右PRに入る30歳は身長179センチ、体重113キロと決して大柄ではないが、長谷川慎コーチが指導する低い姿勢での8人一体型のスクラムになじむ。何より、その前向きな態度で引っ張る。
6月初旬の東京合宿では、こんなことがあった。
蒸し暑いグラウンドの入口付近で皆がスパイクを履き替えているなか、浅原は早めに支度を済ませる。数十メートル先にある液晶付きカートのある場所へ全速力で向かい、周りの準備を言葉でなく態度でせかすようだった。
明るい口調で振り返る。
「永遠の若手とは言われますが、一応、年上なので。常にジョグで動こうかと…」
2015年のワールドカップイングランド大会には不出場も、翌年以降はスーパーラグビーに挑む日本のサンウルブズでプレーし続ける。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制の日本代表へも昨年6月から参加中。今回のツアーメンバー33名中30代の選手は7名。その1人としての自覚も、浅原にはある。
ツアー初戦は9日、大分銀行ドームであった。スクラムの強いイタリア代表とのテストマッチだ。
ベンチスタートだった浅原は後半19分に登場する。ピッチ入りして早々、自陣10メートル線付近中央で自軍ボールスクラムを迎える。先発HOの堀江翔太からそれまでの感触を聞きつつ、相手の様子を観察する。
「結構、向こうは鼻息が荒い感じでスクラムを組みに来ていた。(重心を前がかりに)かけてきていましたね」
レフリーの合図で組み合う。浅原はただ味方とまとまることだけを意識した。するとどうだ。勢い良く突っ込んできたイタリア代表のパックが、勢い余って崩れ落ちた。笛が鳴る。相手は、塊を故意に壊すコラプシングの反則を取られた。
浅原は落ち着いていた。
「僕らのフォーカスは相手ではなく、自分たち(のスクラムを組むこと)。そこまでつっかけることなく組んで、相手が罠に入ってきてくれた」
日本代表が田村優のキックパスでレメキ ロマノ ラヴァのトライを生んだのは、その約3分後のことだった。チームは34-17で勝った。
「リザーブって…」
翌日に第二子を授かる浅原は、チームの歯車としての役割をこう示すのだった。
「…冷静にやらなくちゃいけないところがある。俺が、俺がとやってしまうと悪い影響も出る。リザーブの時は、そうならないように意識します。周りを鼓舞しつつ、自分は冷静に」
チームは16日、兵庫・ノエビアスタジアム神戸でイタリア代表と再戦する。2試合連続でリザーブ入りを決めた浅原は、変わらぬ決意を胸にベンチへ座る。(文:向 風見也)