前半だけで退いた。ベンチに下がるや、腹回りにコルセットを巻く。直前まで停滞ムードを変えるプレーを重ねていただけに、疑問の声すら上がっていた。 現地時間6月11日、バンクーバーのBCプレイススタジアム。26-22で勝利したカナダ代表とのテス…

 前半だけで退いた。ベンチに下がるや、腹回りにコルセットを巻く。直前まで停滞ムードを変えるプレーを重ねていただけに、疑問の声すら上がっていた。

 現地時間6月11日、バンクーバーのBCプレイススタジアム。26-22で勝利したカナダ代表とのテストマッチで、安藤泰洋はFLとして躍動も、自らの判断で退いた。マーク・ハメット ヘッドコーチ(HC)代行は説明する。

「腰を痛めていたようです。彼が正直に申し出てくれたことはよかったです」

 安藤は、3年前にヘルニアを患った。いまでも「年に1、2回くらい」は、激しい腰痛に悩まされるという。「その1回が…来ました」。発症したのは、カナダ代表戦の3日前だった。どうにか試合出場は果たしたが、あまりの強い張りにパフォーマンスの衰えを自覚したという。

「やろうと思えば、できたかもしれない。ただ、日本代表としては…と。今後も考えて、言いました」

 ランナーとして相手とぶつかる際には、その場に適した身のこなしでボールを確保する。

 前半28分には、敵陣10メートル線中央でターンオーバーすると同22メートル上まで前進。目まぐるしい展開に味方のサポートが近くにいないのを察すると、タックラーとぶつかる際に球を腹の下へ隠す。低い前傾姿勢で、股下にボールを置く。援護が来るまで、相手に宝を奪われないよう「時間を稼いだ」のだ。

 かねて球際の名手として知られた安藤は、今春、一気に出生街道を駆け上がっている。国際リーグに日本から初参戦するサンウルブズに追加招集されると、4月23日の第9節でデビューを飾る。ホームの東京・秩父宮ラグビー場でジャガーズを36-28で下し、クラブ史上初勝利に喜んだ。翌週の30日には、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場で日本代表デビューを果たした。

 そしてこの日は、大役も任されていた。昨秋のワールドカップイングランド大会の選手が全25人中9人も揃うツアーメンバーにあって、ゲーム副将を務めたのだ。

 ハメットHC代行から指名を受けたのは、現代表が集合して間もない頃。「僕でいいのかな、とは思ったけど、光栄。断る理由はない」。ゲーム主将だった立川理道が「発言は多くないですけど、プレーで引っ張ってくれる。頼りにしています」と語るなか、当の本人もただただ自分らしくあり続けたという。

「ワールドカップのメンバーがいい緊張感を作ってくれていたので、僕が特別何かを喋ることもない。何かを言うより、コツコツ地道なプレーをやりたい、と思っていた」

 たった40分のプレーで終わっただけに、不完全燃焼かと問われて「そうですね」と即答。もっとも試合後に語った「今後」には、鋭い視線を向けているだろう。

 18日、スコットランド代表とぶつかる。国内所属先のトヨタ自動車の本拠地、愛知・豊田スタジアムが舞台だ。

 安藤の務めるFW第3列のポジションには、ホラニ龍コリニアシらワールドカップ組が追加合流。海外出身の突破役が出揃い、定位置争いは激化する。それでも安藤は、ホームでの出場に「どんな時でもチームの規律を守ってプレーできるところ」をアピールする。(文:向 風見也)