これまで選手間でコミュニケーションを密にとり、アイデアやイメージを共有してきたが、それも限界を迎えているのかもしれない。 6月8日に行なわれたスイスとの親善試合。ディフェンスラインを高く保ち、本田圭佑と大迫勇也のふたりがパスコースを限…

 これまで選手間でコミュニケーションを密にとり、アイデアやイメージを共有してきたが、それも限界を迎えているのかもしれない。

 6月8日に行なわれたスイスとの親善試合。ディフェンスラインを高く保ち、本田圭佑と大迫勇也のふたりがパスコースを限定して相手を中盤に誘い込む。そこで狙いどおりにボールを奪えず、サイドを変えられたり、裏を突かれたりしたが、まるでハマらなかった5月30日のガーナ戦とは異なり、チーム全員が「どう守るのか」という点において、同じ絵を描けていたのは確かだろう。


本田圭佑は

「手応えがあった」と語っているが......

「割と向こうにやりたいことをやらせなかったと思っていて、そこは手応えがあった」

 そう語ったのは本田である。「後半、(MFジェルダン・)シャキリがボランチ近くまで降りてきて、そこから少し難しくなったという感触はある」と続けたが、それでも「最終的にそこまで危ないシーンが多かったわけではないと認識しているんで、一定の手応えはある」と自信をのぞかせた。

 一方、それとは正反対だったのは、長友佑都である。

 ミックスゾーンで開口一番、「厳しいな、というひと言ですね」と発すると、「これではワールドカップで勝てない」と続けた。この日のテーマだった「どう守るのか」という点について、「ガーナ戦よりもマシになった」と認めたが、それでも「すべてのクオリティが相手よりも劣っている」と険しい表情で語った。

 本田はできたことにフォーカスし、長友はできなかったことに目を向けたわけだが、スイス戦の受け止め方がここまで大きく違うことに驚きを隠せない。

 ビハインドの状況における試合の進め方にも、齟齬(そご)が生まれている。

 前半、PKによって先制された日本は後半、酒井宏樹、乾貴士、柴崎岳、香川真司を投入して同点を狙ったが、後半37分にダメ押し点を奪われ、0−2で敗れた。

「自分が出たら、もう少し前からいけると思っていました。前がいけば、後ろはついてくるので、最初のスタートが重要になってくる。自分がそのスイッチを入れられるようなほうがいいかなと思っていました」

 後半11分にピッチに入った乾は、狙いについてそう語る。

 だが、守備陣はそうは望んでいなかった。

「ビハインドのときにどう攻めて、どう守るのか。どうプレスをかけるのかというところを、みんなで共通意識を持ってやらないと。途中から入ってきた選手は前からプレスにいきたいし、後ろの選手はもう少し我慢してほしいという状況だった。最後にハイプレスをかける時間の配分も、もう少し話し合って明確にしておかなければならないと思います」

 センターバックの吉田麻也がそう明かせば、そのパートナーの槙野智章も同調するように言う。

「ワールドカップの3試合を見据えて言えば、今日のように点を獲りにいかなければならないなかで、どこでオープンにするのか、どこでリスクを冒すのか、というメリハリとゲーム展開をしっかりと頭に入れて、前の選手と後ろの選手が共通意識を持つことが大事だと思います。今日は0−1で負けていたこともありますけど、早い時間にそういう展開にしてしまったことで、前と後ろがバラバラになってしまった部分がありました」

 早い時間帯から同点を狙って前がかりになると、逆にダメ押しとなる2点目を奪われかねない。いかにぎりぎりまで0−1で推移させ、最後に勝負に出るか――。

 とはいえ、乾や香川といったジョーカーの投入には、「流れを変えたい」「勝負に出る」というベンチの思惑が込められているはず。ベンチの狙いとピッチ内の感覚とに、大きなズレが生じていたわけだ。

 なぜ、こうしたことが起こるのか――。

 その大きな要因は、西野朗監督のチームマネジメントにあるのではないか。

「西野監督の場合は、特に選手に投げかけたりとか、選手がピッチのなかでどういう対応ができるかを強く求める監督」と長谷部誠が言うように、西野監督はここまで大枠は与えるが、細部の詰めは選手間の話し合いや選手とスタッフ間のコミュニケーションに委ねてきた。

 だが、ワールドカップの初戦を11日後に控えて修正すべきポイントは多く、限られた時間のなか、選手主導で戦術を詰めるには限界がきている。

 思い出すのは、2006年ドイツ・ワールドカップで惨敗したジーコジャパンだ。

 ジーコは選手各々のイマジネーションを重視し、比較的自由を許していた。そのため守備戦術などを選手間で話し合うことが多く、ときには意見が衝突し、まとまらないこともあった。本大会初戦のオーストラリア戦ではまさに、小野伸二投入の狙いを共有できず、世紀の大逆転負けを喫してしまう。

 そのジーコジャパンで主将を務めた宮本恒靖がかつて、こんなことを話していた。

「当時はいろんな選手に声をかけながら、その選手のよさを生かしたり、気持ちよくプレーできる環境をつくったりすることが大事だと思っていたんです。でも、そればかりでなく、強いひと言を発する。この瞬間は、俺の言葉を信じてついてきてほしい――そんな訴え方も必要だったと、今では思います。ジーコジャパンに関しては、その反省がすごくあります」

 スイス戦の2日前、本田はこんなことを語っていた。

「(守り方に関する)ふたつのプランが機能しなかった場合も想定しなきゃいけない。そのワーストケースが南アフリカの守備のやり方なんで。全部ダメになっても、あのやり方はできると思っています。全員守備でいくと。攻撃の議論はなしにしようと。それは、最終パターンとしてあると思っています」

 だが、本田がワーストケースと称した南アフリカ・ワールドカップにおける4枚−5枚の守備ブロックも、当時の岡田武史監督が考え抜いて導き出した策であり、一朝一夕でできるものではない。

 西野ジャパンに残されたテストマッチは、パラグアイとの1試合だけ。そのパラグアイ戦でも課題はたくさん出てくるだろう。そのときに西野監督が答えをしっかり提示できず、キャプテンの長谷部もチームをまとめられなければ、ジーコジャパンと同じ命運をたどることになる。