食べ物がもたらしてくれる本当の意味を探る 食。何気なくいただいてしまうと、単なる「お腹を満たす」行為に捉えてしまいがちで…

食べ物がもたらしてくれる本当の意味を探る


 食。何気なくいただいてしまうと、単なる「お腹を満たす」行為に捉えてしまいがちです。しかしこれを深く掘り下げていくと、人生を変えてしまうほどの計り知れない可能性を秘めていることが分かってきます。
 例え、栄養に関する知識が無かったとしても、視点を変え、食べることを「意識」するだけで、脳が活性化されたり、感情が豊かに育まれるように。ホルモンの分泌まで促されるという相乗効果をもたらします。

『美味しく食べることは生きている証』。
 私たちの生命活動を支える「食事」という身近な行為から、日常生活にプラスを増やす方法を学んでいきます。

視点を変える

 人間はイメージに左右される生きものです。何も持ち合わせていない真っ新なところからでも、自身の心(脳)に向かい、極めてポジティブな付加価値をつけ、可能性を広げていくことが出来ます。

 食べ物の美味しさを感じているのは、舌ではなく「脳」です。
 五感(嗅覚、視覚、味覚、触覚、聴覚)を通して受け取った情報は、最終的に扁桃体に伝わります。扁桃体は、快や不快といった、本能的な情動を生み出している部位。五感の中でも、嗅覚(香り)は特殊感覚と呼ばれ、意欲、記憶、内分泌系、自律神経系にまで影響を及ぼしています。

脳をプラスに騙す

 脳は、良くも悪くも騙されやすい性質を持っています。
 例えば、ピンク色の白ワイン。比較的甘い傾向にあるのですが、辛口の白ワインを何らかの手法でピンクに着色し、どなたかにお飲みいただいたとしましょう。実際は辛口のワインのはずが「ピンク色のワインは甘い」といったこれまでの経験や固定概念により、通常より甘いと感じる人が出てきます。

 これは実際に行われた研究で、特にワインに精通している人ほど「甘い」と感じてしまう傾向にあるとか。
 裏を返せば、現実はそうではなかったとしても、「こうである」と自分にとって良い方向に脳に刷り込ませてしまう、錯覚させるだけで、いとも簡単に脳を騙してしまうことが出来るということ。こういったポジティブな思い込みは、脳内ホルモンにまで影響を及ぼし、結果として、行動が変わっていくという多大なプラスを生み出します。

香りや味、色、旨みにも意味がある

 食べ物の栄養成分。例えば、私たちの身近なレモンは、疲労回復効果のあるビタミンCやクエン酸といった栄養素を含んでいるだけでなく、リモネンという香気成分が含まれ、嗅覚からも、脳を活性化させたり、抗疲労効果、リフレッシュ作用を得られるといった自然のアロマテラピーを体感することが出来ます。(アロマテラピーではレモンの香りは頭脳明晰作用の代表格)

 これから夏に向けてどんどん市場に出回ってくる、トマトやスイカなどの、あの赤い色素こそ、リコピンという抗酸化成分。血流アップ効果も期待出来るなど、植物の色にも健康を増進させるための機能性成分が含まれており、これを積極的に摂取することにより、病気の予防や健康維持に有効であることが、現在、医学界でも注目されています。

 ゴーヤのあの独特な苦さはモモルデシンという抗酸化成分。夏バテなどによる食欲の低下から胃腸を守ってくれるなど、食べ物の苦味や酸味、辛いなどの「味」。
 また、鰹節や昆布などの、日本人が慣れ親しんできた出汁の「旨み」にも、免疫力を高めたり、血圧降下作用などが期待出来ます。

 植物だって私たち人間と同じです。誰1人として欠けてはならない唯一無二の存在であり、全ての食材に意味があること、互いに手を取り合い、鎖のように繋がってこそ、力を発揮するのです。

共食者

 一緒にご飯を食べる人の影響も多く受けます。
 「あなたのために一生懸命愛を込めて作りました」と、にっこり微笑んでくれる人の前でいただくご飯と、眉をひそめ、口をへの字口に結んだ不機嫌な人の前でいただくご飯。どちらが美味しさを感じやすいか、一目瞭然でしょう。
 コミュニケーションツールの1つでもあり、複数人で賑やかに会話をしながらいただく鍋や、潮風を感じ、さざ波の音を背に、漂う肉汁の香りと、じゅうじゅうと音を立てて焼き上げ頬張るバーベキューが、いつもより美味しく、楽しく感じるのも、周囲の様々な影響を受けているからなのです。

一体何が美味しさを牛耳っているのか

 お休みの日に久しぶりに料理し、味はスペシャルに美味しく仕上がりました。
 けれど、お皿は適当に選んでしまい、何気なく盛りつけてしまった手料理と、お気に入りのお皿を選択。自分なりに創意工夫し、どうすれば美味しくなるかを試行錯誤しながら盛り付けした手料理。
 味は一緒のはずなのに、口に運んだ瞬間の満足度には、大きな誤差が生まれるでしょう。
 また、その手料理を食べてくれる人がいたとしたら、本来、見出したはずの素晴らしい「価値」を存分に伝えきれないかもしれません。
 料理の世界では「盛りつけが五割を牛耳る」と言われています。

 逆の視点から例えを入れます。

 レストランに行ったとします。
 お洒落な内装、雰囲気に見合った美しいBGMが流れています。ただそれだけで、食事をする前に、既に気分は上がっているはずです。
 そこへ颯爽とシェフが現れ「今日は〇〇産の〇〇を使っています」と、丁寧に使用する食材のルーツや、料理の説明をしてくださったとしたら。
 美味しさもさることながら、大事にされているという感動や嬉しさ、有り難さまでも、2倍、3倍となって、充実度、満足感がより大きく得られてはいるのではないでしょうか。

 人は、イメージや印象によって、個人の価値観の中で、咄嗟に選択、判断し、食事から無意識に「情報」までもいただいています。
そしてそれは、作り手によっても、食べる人の意識によっても、いくらでもコントロールが可能であると断言します。

 生きている時間は限られています。
 私たちはあと何回「食す」ことができるのでしょう。
 これだけ無限に可能性が秘められている食を、この先、大事にしない手はないのではないしょうか。

無限に引き出しのある「食」

 私たちの体は、食べ物から作られています。
 食事は継続。一食、一食の地道な積み重ね。これに尽きます。
 食べることを意識するかしないか。
 始めの誤差は微々たるものだったとしても、10日も経てば大きな糧に。
 食を考えていくことは、未来の飛躍に確実に繋がります。
 食べ物は、目の前の食卓に並べられるまで、数え切れない人の努力や想いがのっています。

 今一度、全ての食材が、体と心(脳)の栄養となってくれていることを意識し、そして、今日も1日、美味しいご飯をいただけることに感謝、幸せを感じましょう。

 アスリートである夫に寄り添い、20年近くが経ちました。
 夫のサポートから、食に関する栄養学だけでなく、スポーツアロマトレーナーとして夫へのスポーツマッサージを始めたことから生理解剖学を学び、脳や思考学にも興味を持って、様々なことを学んできました。
 人間として成長できたことが、何よりの収穫だと自負しています。

 この連載を通し、読者の皆様と一緒に、食のこと、栄養のこと、心(脳)の更なる成長も目指していけたらと思っております。未熟者ではありますが、精一杯頑張ります。どうぞ宜しくお願い致します。

■編集部からのお知らせ
3月7日に発売の雑誌「CoCoKARAnext」では読売ジャイアンツ・菅野智之投手のインタビューの他、プロ野球選手に学ぶ仕事術などストレスフルな時期を乗り越える情報を掲載。

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

[文:山瀬理恵子]

山瀬 理恵子(やませ・りえこ)

1977年9月16日生まれ。
小学校教諭を経て、サッカー元日本代表アビスパ福岡所属のJリーガー山瀬功治と結婚。(今季プロ19年目。18年連続ゴールは三浦知良選手に並ぶJ歴代2位記録)京都新聞朝刊にて3年間のスポーツ栄養レシピ・コラム連載を書籍化した著書「アス飯レシピ」を京都新聞出版より2017年8月に発売。(1ヶ月で重版決定)キューピーマヨネーズ料理グランプリ2015京都府代表。人気レシピサイトクックパッドに公式キッチンを持つ。
サッカーダイジェストテクニカルにてスポーツ栄養レシピ・コラム連載2年。PHP研究所巻頭料理カラー2年。サッカー協会、株式会社アスリートフードマイスター、京都サンガF.C、アビスパ福岡アカデミー、小中高、大学他各教育機関・Jr.アスリート保護者及び企業にて栄養学講演、調理実習多数開催。
2017年より味の明太子ふくや、味の兵四郎、テレビ西日本&西日本スポーツ新聞料理コーナー「山瀬理恵子のアス飯」レギュラーを担当。2018年から北海道十勝郡浦幌町ふるさと大使に任命。京都新聞読者情報誌「きらっと!京滋」5月号より新連載。福岡県筑紫女学園大学にて、人間科学部大西良准教授及び『LIKKE』大学生らとアス飯子ども食堂。福岡サンパレスホテル坂本憲治総料理長とアス飯弁当コラボ販売。