昔から仲間と共に這い上がり、全国トップレベルに立ち向かってきた。 日野レッドドルフィンズのCTB坂本椋矢(さかもと・りょうや)はそんなチーム、仲間との縁が深い。「和歌山工業も、朝日大学もそうでしたが、下から上がりつつ僕も成長できたらな、と…

 昔から仲間と共に這い上がり、全国トップレベルに立ち向かってきた。

 日野レッドドルフィンズのCTB坂本椋矢(さかもと・りょうや)はそんなチーム、仲間との縁が深い。

「和歌山工業も、朝日大学もそうでしたが、下から上がりつつ僕も成長できたらな、というチームが多かったと思います」

 そして大学卒業後、2015年に入団した日野もまた這い上がるチームだった。

 2017年度のトップリーグ入替戦でNTTドコモに20-17で競り勝ち、悲願の初昇格。
 この劇的勝利をスタンドで観ていた坂本にとって、自身も初挑戦となるトップリーグは待ちに待ったアピールの舞台だ。

「トップリーグを目指していました。全試合に出る意気込みでやっていきます」
 
 身長174センチ、体重90キロの25歳は大阪府出身。3人兄弟の末っ子で、ラグビーをしていた兄二人を追って幼稚園からラグビーを始めた。

 大阪の岬中学校、和歌山工業高でもラグビー部に所属。高校2、3年時には花園出場を果たしたものの、ともに1回戦で全国の壁に阻まれた。

 高校卒業後は岐阜県瑞穂市にキャンパスを持つ朝日大学に進学。4年時は主将も務めた朝日大学ラグビー部の魅力を、坂本は溌らつとこう語る。

「有名な人は強豪大学に行ったりするので、僕みたいな無名な選手も多いです。無名だからこそ『やってやろう』『どんな相手でも気持ちで勝っていこう』というチームです」

 指揮官である吉川充監督の方針もあり、練習内容、練習時間も4年生が中心となって決めていたという。

「練習メニューも僕らで考えていたんです。行き詰まったらアドバイスを頂くんですが、監督からは『お前らがやりたいように』と。考える能力を身につけなければいけない、という方針でした」

 各代ごとに練習メニューが変わるから、年ごとにチームカラーに変化がある。

 坂本が主将を務めた2014年度は、前年度の大学選手権で帝京大学に5-102で大敗した経験を生かし、ディフェンス強化を決めた。

「僕たちの代の方針はディフェンス中心でした。3年生の時に帝京大学とやって大敗したので、ディフェンスを強化しようと。普段の練習に、試合形式的な要素を組み込んだりしていました」

 そして迎えた4年時の大学選手権は、前年度のセカンドステージ3試合合計で「239」だった失点が「185」に減少。

 セカンドステージ第3戦の天理大学戦は結果として20-43で敗戦したが、前半を8点リード(20-12)で折り返すなど健闘した。第1戦・法政大学戦も前半までリードする展開だった。

 大学ラストシーズンをセカンドステージ敗退で終えた坂本だが、一方で、シーズンが終了しても次の進路は未定だった。ラグビーを続ける意志はあったが、行き先を見つけられずにいたのだ。

 そんな時に声が掛かった。

「滑り込みでした。話を頂いたのも年明けで」

 日野が声を掛けてくれなければ「どうなっていたか分からないです」。ありがたかった。
 日野が自分のラグビー人生をつないでくれた。

「恩返しの気持ちはやっぱりあります。拾って頂いた、ということがあるので。チームに貢献して恩返しできたらな、という想いは大きいと思います」

 恩返しの気持ちで懸命にやってきた。
 今では周囲にも認められ、同じバックスの先輩で昨季ジャージーを脱いだ苫谷直樹チーム広報は「去年も坂本は頑張っていました」。いつしか先輩に一目置かれる存在になっていた。

 今季の意気込みにも、同じ想いは貫かれている。

「チームに恩返しできるように頑張っていきたいと思います」
 
 いざトップリーグへ。チームに一途なセンターが、仲間と共に輝く時がやってきた。
(文・撮影/多羅正崇)