全日本女子を率いて2年目のシーズンを迎えた中田久美監督 中田久美監督のもとで2年目を迎えた全日本女子が、昨年までのワールドグランプリに代わり、男女同一の大会となったネーションズリーグを戦っている。現在は香港での第3週までを終え、6月27…



全日本女子を率いて2年目のシーズンを迎えた中田久美監督

 中田久美監督のもとで2年目を迎えた全日本女子が、昨年までのワールドグランプリに代わり、男女同一の大会となったネーションズリーグを戦っている。現在は香港での第3週までを終え、6月27日から行なわれるファイナル進出を目標に奮闘だ。

 8月にアジア大会、その後に日本での世界選手権が控えている今シーズンに、中田ジャパンはどんな進化を見せるのか。世界一を目標に掲げる指揮官が、シーズン開幕前に描いていたその展望とは。

――全日本女子の監督に就任して1年目の昨シーズンは、ワールドグランプリでブラジルやロシアに勝利するなど結果を残せたように思えます。振り返ってみていかがですか?

「昨シーズンは、アジア選手権で優勝することをチームの大きな目標として掲げていました。 ワールドグランプリでブラジルなどに勝てたことは、結果がそうだっただけであって、 特別に思うことはありません。国際大会での経験があまりなかった選手たちにとっては自信になったと思いますが、それで十分に力がついたかといえば、まだまだですね」

――それでも、アジア選手権優勝という目標は達成しました。

「表彰台の一番高いところに立てることはなかなかないことです。それは彼女たちの頑張り、努力の結果だと思います」

――逆に課題を挙げるとしたら?

「それはキリがないですね。戦術的なところや、上位国に勝てる試合が少ないというところ、私自身についてもたくさんあります」

――具体的には、どんなところが課題だと感じましたか?

「例えば、『ここでレシーブが上がっていれば』『ここで得点が入っていれば』といった、勝敗を分けるような1点、2点を取るときの”詰めの甘さ”です。技術的なことやメンタル面の甘さも含め、そこが世界との大きな差になっています。バックアタックの少なさ、被ブロックの多さなど、さまざまな改善点はありますが、私が重視しているのは”勝負強さ”です。そこがもう少し改善できれば、昨シーズンに競り負けたような試合で勝てる可能性が高まると思っています」

――昨シーズンは新鍋理沙選手、内瀬戸真実選手というサーブレシーブが安定した選手を対角にして、古賀紗理奈選手や石井優希選手のサーブレシーブを免除する形で起用していましたが、その意図を教えてください。

「昨シーズンは、レセプション(サーブレシーブ)アタックの決定率と効果率、特にAパス(セッターが動かずにトスアップできるサーブレシーブ)のときの確率を上げることを目標のひとつとしてチームを強化してきたので、そこが崩れる場面をなるべく少なくしたかったんです。もちろん、古賀にも石井にもサーブレシーブに参加させて戦う必要もあったかもしれないですけど、それは今シーズンにやればいい。それよりも、相手にサーブ権を渡さず、サーブで自信を持って攻めていくというのが、私の中での優先順位でした」

――新鍋選手に対する、”サーブレシーブの要”としての信頼は厚そうですね。

「それももちろんありますが、指示したことを練習できっちりやるだけでなく、試合でも実行できることがすごい。練習ではできたことが、試合でできなくなる選手は少なくないですからね。あとは、周囲の目を気にせず、『やるべきことはやる。やらなくてもいいことはやらない』という信念がブレないところが、彼女のいいところです」

――以前のインタビューでは、ご自身に似ているとも言われていましたが。

「いえ、たぶん新鍋のほうが芯は強いと思いますよ(笑)」

―― 一方で、得点源としてだけでなく、守備面でも期待されるのが石井選手だと思います。昨シーズンのVリーグを制した久光製薬スプリングスでは、MVPとレシーブ賞、ベスト6を受賞しました。

「MVPもレシーブ賞も、彼女にとってすごく自信になったと思います。それを全日本でどう活かすのかに期待しています。27歳になった彼女は全日本チームの中でも中堅の選手になるので、4年前の全日本でプレーした石井優希のままだと、ちょっと困るかな(笑)。現時点では変化があったように感じますし、これからの試合でどのくらいやってくれるのかを見たいです」

――中田監督から見て、石井選手の物足りなかった点はどういったところでしょうか。

「『できなかったらどうしよう』という考えから入っていたところです。それを『どうやったらできるか』という思考に変えてほしいと言い続けていました。若手で同じポジションの選手も入ってきますから、彼女にとっては勝負の年になると思います」

――その若手選手としては、昨シーズンはアンダーエイジカテゴリーでプレーしていた、黒後愛選手や井上愛里沙選手の活躍が楽しみです。

「黒後は高校卒業を待たずに東レアローズ(Vリーグ)の一員として戦っていましたし、器用で何でもこなせる井上(愛里沙)も大学ではトップレベルの選手でした。それでも私は、監督に就任したときにも話しましたが、やはり全日本チームは『スペシャルじゃないといけない』と考えているので、”可能性”とか”若さ”とか、そういうものだけで選ぶべきではないと思っています。だから、昨シーズンのユニバーシアードやアンダーエイジカテゴリーの世界選手権でどんな活躍をするかに注目していました。

 彼女たちがチームの中心になるのはわかっていましたし、そういうプレッシャーの中で発揮してきた力を全日本でも見せてもらいたいです。特に黒後は、アンダーエイジカテゴリーで日の丸を背負ってきた期間がとても長いので、世界と戦うことに対する慣れもあると思います。それに加えて、フィジカルの強さや存在感、物怖じしない性格など、全日本のエースになる可能性を非常に感じさせる選手ですね」

――そしてセッターについては、やはり中田監督自身が現役時代に担っていたポジションということもあり、ファンの注目度も高いと思います。昨シーズンに起用が多かった冨永こよみ選手と佐藤美弥選手、2年ぶりに代表に復帰した田代佳奈美選手に期待するところ、今回はメンバーから外れた宮下遥選手について思うところを聞かせてください。

「冨永と佐藤に関しては、やっと今シーズンにスタートラインに立つといった感じです。以前は世界とだいぶ差があったのが、全日本で1シーズン戦ったことで変わったんじゃないかと。日本の女子バレーは、セッターとリベロが絶対的存在でなければダメだと思っているので、それを彼女たちにも要求しています。

 宮下については、個の能力については抜群だと思いますが、アウトサイド(アタッカー)が変わっていくなかで、その選手たちを『活かす』ということを考えると、ちょっと難しい。絶対的エース、2メートル級のエースがいれば話は別ですが、日本はそんなチームではないですから。ケガをしたヒザの調子も踏まえたうえで、チームのメンタル的な安定も期待して、今回は同じくリオオリンピックを経験した田代を選びました」

――チームをまとめるキャプテンの岩坂名奈選手に求める役割は?

「キャプテンだからといって特別なことをする必要はありません。彼女はすごく真面目で、チームをまとめる、引っ張るということばかりに重きを置きやすい選手なので、まずは選手として頑張ることを優先してほしい。セッターの冨永や佐藤は同世代ですし、力を合わせて自分の思う通りにやっていってもらいたいです」

――ネーションズリーグの後には、8月にアジア競技大会が控えています。かつて全日本男子のキャプテンも務めていた荻野正二さんは、バルセロナ五輪の後に「アジア競技大会は”オリンピックのちっちゃい版”だった」と表現していましたが、そういった意識はありますか。

「まったくその通りで、東京オリンピックのシミュレーションと位置づけています。会場に帯同できるスタッフの数が制限されることや、他競技の選手と選手村で共同生活を送るといったことを経験していない選手もいますので、いい機会だと思います。そこでうまくいったこと、いかなかったことをピックアップすれば、オリンピックの準備に活かすことができる。普段とは違う環境でコンディションを崩してしまっては、存分に力を出すことはできません」

――9月下旬から日本で行なわれる世界選手権では、「絶対に表彰台に上がる」と目標を掲げた一方で、「すごくプレッシャーを感じる」とも発言されていましたが。

「1964年の東京オリンピックで全日本女子が初代女王となってから、女子バレーはメダルを求められ続けてきた種目です。そして、これはスポーツ界全体に共通することですが、2020年の東京オリンピックは『次世代につなげる』という点においても、大きな意味のあるオリンピックです。監督は、やると言ったことを最後までやり遂げなければならないのが仕事ですから、今年の世界選手権に限らず、どんな大会においても『プレッシャーがない』と言ったら絶対に嘘になる。でも、そのプレッシャーから逃げずに、自分のエネルギーにして戦おうと思っています」

――昨年のグラチャンバレー(ワールドグランドチャンピオンカップ)の後に、昨シーズンを終えた時点でのチームの達成度を「40%」と評価していましたが、今シーズンはそれをどれくらいまで上げたいと考えていますか?

「65%か70%といったところですね。セッター陣が成長して、黒後や井上といった若い選手が戦力として確立されれば、それくらいまでいけると思います。とにかくサイドアウト、レセプションアタックをしっかりして、サーブからも攻めていき、いい循環を作っていきたい。そのために工夫しながら練習していることが、実戦でどれだけ通用するか楽しみです」