今季のメジャーで最大のセンセーションになっているエンゼルスの大谷翔平が、5月25日〜27日に”ニューヨ…

 今季のメジャーで最大のセンセーションになっているエンゼルスの大谷翔平が、5月25日〜27日に”ニューヨーク・デビュー”を飾った。



打者としてヤンキースとの3連戦を戦った大谷

 聖地ヤンキースタジアムで行なわれたヤンキースとの3連戦で、大谷は9打数無安打。「日本のベーブ・ルース」と呼ばれる大器は、そのルースが躍動した街で大活躍はできなかった。ただ、それでも普段は口さがないニューヨークのメディアも、大谷の底知れぬポテンシャルを感じ取ったようだ。

 そこで今回は『ESPN.com』の人気企画”5-on-5ディベイト”をモデルに、ニューヨークに拠点を置く4人のエキスパートに大谷に関する4つの質問をぶつけてみた。4-on-4に参加してくれたパネリストの言葉から、ニューヨーカーが大谷をどう受け取ったかが浮かび上がってくる。

【パネリスト紹介】

① ボブ・クラピッシュ(元『バーゲンレコード』『USA TODAY』紙のコラムニスト。現在はフリーランスで、2018年のヤンキースを追いかけた著作を執筆中)
② デビッド・レノン(『ニューズデイ』紙のコラムニスト)
③ コリー・ハービー(『ESPN.com』のヤンキース番記者)
④ デビッド・アドラー(『MLB.com』のライター。Statcastのデータを主に扱う)

〈1〉実際に大谷のプレーを見て、どんな印象を受けたか

クラピッシュ  とてもユニークで才能に溢れた選手という印象。これまで多くの映像をチェックしてきたが、実際にその姿、プレーを見ても落胆させられることはなかった。まず第一に、大柄でサイズに恵まれていることに驚かされ、それでいて素晴らしいアスリートでもある。スイングはビューティフルでパワフル。投手としてのパフォーマンスを見られなかったのは残念だったが、それでもこの3連戦で”特別な選手を目撃している”と感じたことに変わりはない。

レノン 23歳のルーキーだというのに、かなり自信を持ってプレーしていると感じた。ニューヨークでは無安打ではあったが、アロルディス・チャップマンとの対決でのスイングには感心させられた。100マイル(160.9キロ)を投げる左腕は特に左打者にとっては威圧的で、多くのベテランでも腰が引ける姿を見てきたが、大谷は恐れることがなかった。最後は打ち取られはしたが、あわやホームランの打球を飛ばすなど、いい内容の打席だった。

 メンタル面で強く、自信に満ち溢れているのだろう。打席で何がやりたいかもわかっているように見えたし、スイングも速い。選球眼も備えている。ピッチャーとして投げる姿は見られなかったが、テレビで見る限り、すでに「エリート」と言っていい投球をしている。現時点では、彼は事前の”誇大宣伝”が偽りでないプレーをしていると思う。

ハービー 彼がやっていることには、感心せざるを得ない。登板間隔が長いとはいえ、マウンド上ですごい球を投げて、打者としては打撃、走塁でも貢献している。野球界で誰も成し遂げていないことをやっているんだ。とんでもない選手で、彼の活躍をすごいと思わない人がいるとしたらどうかしている。

アドラー 打撃練習ではバックスクリーンの上、右中間、左中間にも当たり前のようにとんでもない打球を打ち込んでいた。それでいてゲーム中はとても辛抱強く、際どいコースのボール球を選ぶこともできる。この週末で最高の打席は25日のチャップマンとの勝負だったのではないか。左対左で100マイル以上を投げ込んでくるクローザーに対し、あわやホームランの大ファウルを放った。打球の初速度も速く、そのポテンシャルを印象づけるには十分だった。

〈2〉多くのことをこなせる選手だが、最もすごいと思った部分は?

クラピッシュ メジャーの舞台ですぐに成功を手にしてきたことだ。アメリカに来て即座に結果を出すのは大変なことなのに、1カ月程度で彼は投打両面で”Good”ではなく、いきなり”Great”と呼べるプレーを見せてきた。本来であれば不可能に近いことのはず。それを成し遂げたことが、彼の才能のすごさを物語っているのだろう。

レノン メジャーにおいて、”いい選手”と”偉大な選手”を分けるのはメンタルの強さと自信だ。才能、スキルを備えており、身体能力に秀でているだけでなく、大谷は精神的な強さも持っているように見える。ヤンキースタジアムの雰囲気に怖気づいてしまう若い選手も見てきたが、大谷はとてつもない注目を浴び、4万3000人のファンからブーイングを浴びながら、それでも平然としていた。私が選手を評価する際には、フィールド内よりもフィールド外に目をやるが、大谷のハートの強さはこれからも武器になるはずだ。

ハービー ベースボールの知識、理解力の高さが印象的だった。カウントによって打撃をアジャストさせ、厳しいコースのボールに手を出さず、四球を稼いでいた。自分が打球を遠くまで飛ばせるコース、カウントを熟知していて、過去にはそれらの球をホームランにしてきている。足も速く、非常に聡明なためにベースランニングの質も高い。

 投手としてはまだサンプルが少なく、彼自身も学んでいる最中かもしれないが、23歳にしてはハイレベル。本当にさまざまな形でチームを助けられる選手と言える。今後にどんな道を選ぶとしても、彼の可能性は無限大だ。

アドラー その才能については耳にしてはいたが、実際に見て、非常に自然体かつ力みのないスイングで打球を遠くに飛ばすパワーには驚かされた。いわゆる”イージー・パワー”。スイングが似ているわけではないが、余計な力を使わずに強い打球を打つという意味でマイク・トラウトと共通点があると感じた。

〈3〉 能力は素晴らしいが、二刀流ゆえに使い方が難しい選手でもある。特に、先発間隔を空けると他の投手に影響が出かねないが、エンゼルスの起用法は少し慎重すぎるのではないか

クラピッシュ まったくそうは思わない。彼は若く、海外から来た選手で、練習方法も起用法もこれまでとは違う。彼にとってすべてが新しいことなんだ。そんな大谷をエンゼルスは大事に扱い、登板間隔を空け、成功のための条件を整えている。私は彼らのやり方を全面的に支持する。

レノン ヤンキースとの3連戦でも先発登板してほしかったし、それが実現しなかったのは残念ではあった。ただ、そうだとしても、エンゼルスに批判的になるのは難しい。二刀流はほとんどベーブ・ルース以来のことで、前例と呼べるようなものがない。私たちと同じように、エンゼルスの監督、GM、投手コーチ、そして大谷本人も、日々どうすべきかを学んでいっている。身近にいる彼らが「休養が必要」と判断したのなら、それを否定できない。

 ただ難しいのは、彼がコンスタントにマウンドに立てなければ、チーム側も主戦投手として頼りにはできないということ。ベストピッチャーには5日に1度は投げてほしいが、彼が8、9日に1度しか登板できないとすれば、チームのやりくりは難しくなる。

ハービー ファンの視点で見ると、エンゼルスは慎重すぎると感じるだろう。 「もっと頻繁に投げて、打ってほしい」と思うのは自然なことだからだ。ただ、このスポーツを理解し、今季、さらには来季以降のことも考えるなら、エンゼルスは適切な方法で起用しているのではないかと思う。大谷に負荷がかかりすぎないように留意している。投打両面で、ポストシーズンまで視野に入れて準備しているのではないか、という印象も受ける。

アドラー 現代のベースボールには彼のような選手はいなかったから、起用法の青写真が存在しない。それゆえ、慎重になりすぎているのかどうかを測る指標もない。彼を疲弊させないことを念頭に、エンゼルスはおそらくは適切な使い方をしているのだろう。一部のファンはもっと頻繁に大谷の活躍を見られないことが残念だろうが、チームは選手の健康を第一に考えている。

〈4〉将来的に、彼は二刀流を継続すると思うか。それとも、どちらかに専念することになると思うか

クラピッシュ エンゼルスは様子を見ている最中だが、私は最終的には彼はひとつの役割に集中するのではないかと考えている。MLBのシーズンは長く、遠征も厳しく、海外から来た多くの選手たちはその負荷を厳しいものと感じてきた。この点に気づいていないファンは多いが、メジャーで1シーズンを過ごすことは心身両面で並大抵の難しさではない。ひとつの仕事だけでも大変なのに、投打の両方をこなしたら身体にかかる負荷は倍になるわけで、現実的には難しい。

 投手、打者のどちらでいくかはわからない。彼は素晴らしいスライダーを持っていて、すでにメジャー最高級の打者を打ち取れることも証明している。とてもいい打者でもあるが、個人的には投手としての能力の方が上回っていると思う。それゆえ、いずれは投手に専念する可能性が高いかもしれない。その判断は来年以降に下されることになるのだろう。

レノン 能力だけを考えれば、彼は二刀流で成功できるだけのものを持っている。すでに偉大なピッチャーであり、偉大なバッターにもなれることを示してきた。今後のクエスチョンは、この成功を継続できるかどうかだ。それを見定めるのは難しく、時間が教えてくれることなのだろう。

 適切な管理下なら続けられるのかもしれない。ひとりのベースボールファンとしては続けてもらいたいが、こればかりはわからない。チーム側は大谷に毎日打線に入ってほしいと願うか、あるいは5日に1度投げて抑えてほしいと考えるようになるか。大谷は両方を続けたいと願っているように見えるが、今後、長いサンプルを得たうえで、チームと本人が答えを出していくことになる。

ハービー 今季後半か来季か、あるいは2、3年後かわからないが、どちらかに専念することを選ぶ日が来るように思える。本当にユニークで、特別で、クールなことだから、二刀流を続けてほしい。ただ、メジャーのシーズンは長く、日程もハードで継続するのは難しいだろう。どちらかを選ばなければいけないなら、私は野手だと思う。彼の打撃は素晴らしいし、外野の守備でも、とてつもない強肩を生かせるからだ。

アドラー 私は両方を続けるべきだと考えている。投手としては100マイルの速球と、ほとんどアンヒッタブルなスプリットを投げている。打者としてもすさまじい速さの打球を飛ばし、サイ・ヤング賞を獲った投手からも本塁打を打った。

 これだけの実績を残せる選手は稀有(けう)な存在であり、継続を目指してしかるべきだ。メジャーリーグはファンのためのスポーツエンターテインメント。二刀流をハイレベルでこなす大谷ほどファンを喜ばせられる選手は存在せず、彼の出現はここ最近のMLBで最もクールな出来事だった。