【連載】チームを変えるコーチの言葉〜千葉ロッテマリーンズ ヘッドコーチ・鳥越裕介(3)() 3・4月は12勝12敗、…
【連載】チームを変えるコーチの言葉〜千葉ロッテマリーンズ ヘッドコーチ・鳥越裕介(3)
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3・4月は12勝12敗、勝率5割で乗り切った今季のロッテだったが、5月に入り負けが込み出したところで、球団はコーチングスタッフの配置変更を発表。一軍ヘッド兼内野守備走塁コーチだった鳥越裕介はヘッド専任となった。
この変更に伴い、試合で攻撃中の鳥越の役割は一塁ベースコーチから井口資仁監督のサポート役に変わり、ベンチで作戦面を支えている。

ロッテの選手は普通のことができる選手が揃っていると語る鳥越コーチ(写真左)
開幕前、「そんなにうまくいかないでしょう。まあ、よく負けると思います。でも、思わぬ連勝したりすると思いますよ」と言っていた鳥越だが、あらためて、チームをどう変えていこうとしているのか。
「まず大前提として、みんなプロなんで。選ばれて入ってきているんだ、っていうことを常に自覚してプレーしてほしい。その点、僕が最初にこのチームを見て感じたのは、選手たちが練習のときから失敗しないように、当たり障りのないようにやっているな、ということでした。これは要するに、今の若い世代独特の姿勢なんでしょう。なんでも怒られないようにやる、みたいな。『でも、それは違うだろ?』って」
若い選手たちが変に優等生になっている――。そのように感じた鳥越は、プロとしてパフォーマンスを上げるためにどうすべきなのか、選手たちに説いた。
技術を高めるためには、いかにたくさん成功するかが大事になる。その途上では失敗するリスクもあるけれど、失敗から学ぶこともたくさんある。だから、どんどん失敗して経験値を上げなければいけない。例として盗塁を挙げ、こう言った。
「スチールひとつ、失敗しないためには走らないのがいちばんいいんですよ。でも、走らないとセーフかアウトかもわからんし、そこの経験値がないと技術は絶対に上がらない。確かに、スチールするなかではけん制でアウトになることもある。でも、そういうミスも乗り越えていかないと、本当のプレッシャーがかかったゲームでスタート切れないでしょ? だから、今のうちにどんどん行きましょう」
井口監督が「走塁改革」を掲げた今季のロッテ。盗塁数が増えたのみならず、俊足ではない選手もスキあらば次の塁を狙い、足をからめて1点を取りにいく攻撃を実行している。コーチ陣の再編以前は走塁担当でもあった鳥越は、選手のプレーに対する姿勢を変えないことには監督の目指す野球はできない、と見ていたのだ。
「必要なのは、勇気と覚悟を持ってどんどん行くことです。これはスチールだけじゃない、ピッチャーにしてもそう。僕は勇気のない奴はいらんと思っています。マウンドに上がったピッチャーはチームの代表なんだから、勇気を持って腕を振ってくれと。
逆に、勇気と覚悟を持ってプレーする姿がある限り、あんまり僕から言うことはないんです。ゲームで、やるか、やられるか、というなかでがんばれって思うだけで。同じ失敗を何度も繰り返しちゃダメですけど『相手もプロなんでやられることはあるし、相手も同じ人間、そこでへこたれるな』って言うだけで」
10年以上のコーチ経験がある鳥越でも、現役時代にそうだった通りに「自分で腹をくくるほうが簡単」と思うときが今もあるという。当然ながら、パフォーマンスを出すのが選手である以上、コーチは人に任せないといけない立場だからだ。
そこで、任せられるどうかは選手の姿で判断するようにしている。姿が弱ければ任せられないので、「勇気と覚悟を持った姿をぜひ見せてくれ」と願っている。ただ、弱いか強いかはあくまでも見た目の印象であり、内面の表れ方も選手個々で違いがありそうだ。そのあたりはどう受け止めているのだろう。
「やはり、僕らが選手ひとりひとりをしっかり見ておかなきゃいけない、ということですよ。そのためにまず選手の性格を把握しておいて、どういう失敗なのか、どういう成功なのか、そのときにどういう気持ちだったのか、というところをちゃんと見てあげる。でないと選手に対して失礼ですから。
もちろん、いかなる理由があっても、理不尽なことなんか絶対に言ってはいけないですし。その上で僕らができることは、前提として、勇気と覚悟を持ってプレーしないとダメだ、という雰囲気をどんどん作ることですね」
チームの守備力向上を目指す上でも有効だった雰囲気作りは、鳥越がコーチとして特に重視しているものだ。すなわちこの場合の雰囲気とは、誰かが指示しなくても、そのとき、その瞬間、最良の結果を得るためになにをすべきか、選手個々がおのずと理解し、実行する状態にさせるもの。
むろん、結果がよければ雰囲気は一段とよくなるわけだが、反対に悪いとき、いい雰囲気を保てるかどうかが大事になる。そんなときにカギを握るのは「野球の技術が高い人間じゃなくて、普通のことができる人間です」と鳥越は言う。
「シーズン中はもう毎日、野球、野球、野球、野球って言うんですけど、結局、どういう人間になるかだと思うんです。僕自身も大した人間じゃないので、技術を高められたら、あとは立派な人間になりましょう、と思うだけで。『あんた、そこにゴミが落ちてんのに気づかないの? 気づかないんなら、どれだけホームラン打ってもつまらんよ』って。『困ってるおばあちゃん、そこの階段でうずくまっているのを見て、あんた、素通りするの?』って。どんなに野球がうまくても、そういう普通のことができなきゃダメなんじゃないって、僕は思います」
ホークスのコーチ時代、鳥越は「普通のこと」ができない選手に対して練習時以上に厳しく指導した。あいさつの声が小さければやり直させるのはもとより、グラウンド外、たとえば風呂場の脱衣所でスリッパが揃っていなかったら、主力選手であってもキツく叱った。日常生活を大事にしている選手こそが逆境に強い、ということか。
「いや、日常生活が大事じゃなくて、普通なんじゃないですか。僕は『プロ野球選手、偉いの?』って思う。『お金持っているだけでしょ? お金持っている人は他にいっぱいいるし、お金があるの今だけでしょ?』って。そのことを自覚して、普通に普通のことができる選手であってほしい。僕はずっとホークスでコーチをしてきて、それがいちばん大事だと教えてもらったんですけど、マリーンズは普通のことができる選手が多いと感じています。ホークスとは比べてないとはいえ、『お前ら、こういうとこは勝ってるで。それは全然、ええよ』って言ったことありますから」
つづく
(=敬称略)