桐生祥秀(日本生命)にとって100mの今季国内初戦となった5月20日のゴールデングランプリ大阪。山縣亮太(セイコー)やケンブリッジ飛鳥(ナイキ)、多田修平(関西学院大)など国内の主力選手が勢ぞろいしたレースは、それぞれが手応えを得るものになった。



ガトリンに続いてゴールした2位の山縣亮太(左)と4位の桐生祥秀

 レースは、リアクションタイム0秒135で飛び出した4レーンの桐生がスタートでわずかにリード。

 しかし、隣の5レーンを走った山縣が、冷静な走りで30mを過ぎたあたりから桐生の前に出た。

「スタートで(桐生に)前に出られたので接戦になるなと思いましたが、そこで硬くならないように、テーマのひとつである中盤や後半の走りをしっかりやろうと思っていました」

 結果は、山縣と同じようなタイミングで抜け出した3レーンのジャスティン・ガトリン(アメリカ)が、体ひとつリードして10秒06で優勝。山縣は、アイザイア・ヤング(アメリカ)から逃げ切り、10秒13で2位となった。向かい風0.7mという条件を考えれば、10秒0台を感じさせる走りだった。

 試合後、山縣はレースをこう振り返った。

「自分の手応えとしては、練習の時の力を100%出せたかというと、ちょっと課題が残ったというのが正直なところ。全体的に重心が後ろに残ってしまった走りだったので、『もう少しスタートでキレをよくして最初の30mを走れば』とビデオを見て思った。そこの殻をひとつ破れれば、いいスタートを切れて、中盤以降の走りももっとよくなると思います。今年は記録というより、(課題を)勝負のメンタルに持っているので、それがうまくいって混戦から抜け出せたのかなと思います」

 一方、中盤から競り負けて10秒17の4位に終わった桐生も表情は明るい。

「まだ100mは2レース目で、自分の100mの走り方もよくわからないところもありますが、先週の上海ではスタートがまあまあできて40mくらいまでよかった。今回は、加速でギアを3速から急に5速に上げてはいけないというのがテーマで、60~70mくらいまでを意識しましたが、そこがうまく走れれば後半もいけると思いました。

 ただ、今はまだ60mまでの練習しかしていないので、『ここからどうするんだ』という感じなんです。もちろん1番じゃなかったのは悔しいけれど、この1週間でスピードの感じがやっとわかってきたので、また次に生かせるんじゃないかと思います」

 桐生は、土江裕寛コーチとギアを1段ずつ上げながら加速していくという取り組みをやっている段階だ。

「でも今は、自分の中でもまだまだ動きにキレがない感じなので……。これからの練習や試合でキレが出てくれば、今やっていることも1段階も2段階もよくなると思うし、同じことをやっていてもタイムが出てくるんじゃないかと思います」

 これまでのように3月や4月からトップギアに上げるのではなく、夏へ向けて徐々に上げていきたいという。桐生は「やっぱりイライラする部分もありますよ。もっとトップスピードを出したいとか。まあそれも大事にしたいのもあるけど、落ち込むほどの結果ではないので。体重もまだベストの時より1kgくらい多いし、これからキレを出していけばいいかなと思っています」と、現状を受け止めていた。

 さらに、4月の織田記念では10秒26で2位と不安を見せていたケンブリッジ飛鳥も、「最近はスタートを意識してやっていましたが、今回はそこを捨てて、自分の持ち味である後半の部分を意識した」というように後半で追い込み、10秒19で5位に入った。

「スタートは元々苦手にしているし、トップスピードに入るまでの区間が僕の弱いところ。そこをこれから上げて、完成度を高めていきたい」とケンブリッジは話す。彼もまた、織田記念で見えた課題を修正し、向かい風0.7mの中でレベルの高いレースをした山縣や桐生を追いかけている。

 そんな100mのレースに加え、3人はその1時間半後に行なわれた4×100mリレーで驚異的な走りを見せてくれた。

「100mではまだ前半からしっかりいけていなかったので、リレーではいこうと思った」という山縣は、招集所に行って同じ1走にガトリンと、9秒99の記録を持ち、1週間前のダイヤモンドリーグ上海でも序盤からの鋭い走りで2位になっている蘇炳添(そ・へいてん/中国)が一緒に走ることを知ったという。

「メンバーを見て『なんで、みんな1走にくるんだよ』と思ったけど、そこはやっぱり自分の力の見せどころと意気込んだ」

 こう話す山縣は、ガトリンや蘇を突き放す、1走のスペシャリストらしい素晴らしい走りをした。そして、200mでは「長い距離の練習ができていなかったのが出てしまった」と8位に沈んだ2走の飯塚翔太(ミズノ)も、リレーでは相手を突き放す走りを見せた。

 そのバトンを3走の桐生、4走のケンブリッジがしっかりとつないで1位でゴール。タイムはリオ五輪の決勝と予選で出した37秒60と37秒68に次ぐ、日本歴代3位の37秒85だった。

 桐生は「100mが終わって時間がなかったのでバトンパスの練習もできなかったですが、その中でしっかりつなげたのは大きい。レース後、ケンブリッジさんとも、これなら日本記録も超えられるなと話しました」と笑顔。

 バトン練習もしっかりやっていない上に、まだシーズン序盤で調子を上げきれていない状態ながらも記録を出したリレーについて、土江コーチはこう言う。

「これで37秒台前半も見えましたね。今日走った4人もフラットレースでは100%ではないので、それが研ぎ澄まされて100%に近くなればもっと走力も上がるし、バトンパスももっと(タイムが)削れてくるので、目標に近づけると思う。

 19年世界選手権までの長い目で見ていますが、世界選手権の出場権は来年の世界リレーで10チームが決まり、あとの6チームはランキング順になる。その点では、もし世界リレーで出場権を取れなくても、ここで37秒85を出せたことで『ランキングで大丈夫だ』といえるくらいの状態にできた。それが大きいでしょう」

 4×100mリレーの世界記録はジャマイカが持つ36秒84だが、ウサイン・ボルトが引退したことで、そのタイムが出る可能性は低くなっている。それに続くのはアメリカの37秒38、イギリスが昨年出した37秒47だ。

 そんな世界の状況を考えれば、37秒台前半は金メダルが見える記録と言っていい。そこまで見通せるような好結果を残したことで、ゴールデングランプリ大阪は男子短距離にとって、大きな収穫を得る大会になった。

◆日本人2人目の「100m9秒台」は山縣亮太…となりそうなのか?

◆桐生祥秀が自分でもビックリ。今季初戦の「大失速5位」は良い兆候?