日本代表の西野朗監督がワールドカップ予備登録メンバー提出締め切り前の「最後の視察先」に選んだのは、浦和レッズとサガン鳥栖の一戦だった。 お目当ては浦和の選手だろう。ハリルホジッチ体制下でレギュラーに定着していたDF槙野智章をはじめ、G…

 日本代表の西野朗監督がワールドカップ予備登録メンバー提出締め切り前の「最後の視察先」に選んだのは、浦和レッズとサガン鳥栖の一戦だった。

 お目当ては浦和の選手だろう。ハリルホジッチ体制下でレギュラーに定着していたDF槙野智章をはじめ、GK西川周作、DF遠藤航と候補メンバーが数多く揃う。招集経験のあるMF柏木陽介、DF宇賀神友弥、MF長澤和輝も西野監督が描く大枠のなかに入っているだろうか。



イバルボを抑え込んで西野監督に存在感を示した槙野智章

 もちろん、この試合だけですべてが決するわけではないものの、ロシア行きを目指す候補メンバーとすれば、意識せざるを得ないシチュエーションである。緊急登板でいまだ選考に悩む新監督の”御前試合”で、アピールの気持ちは少なからずあっただろう。

 しかし試合後、西野監督は「両チームともに疲れているように感じた」と語り、大した成果を見出せなかった様子だった。それも致し方ない。「疲れていた」という以前に、この試合は点を獲り合うというサッカーの本質から大きくかけ離れたものだったからだ。

「一方が点を獲ろうとして、もう一方は失点しないようにするという試合でした」

 浦和のオズワルド・オリヴェイラ監督がそう振り返ったように、ピッチ上では極端な構図が描かれた。浦和が一方的に攻め立て、鳥栖は自陣に閉じこもり、守りを固める戦いに徹する。お互いにゴールを目指すシチュエーションでこそ生まれるデュエルや攻守の切り替えの速さといった要素に欠けた、つまりは見せ場の少ない、言い換えれば判断材料に乏しい一戦だったのだ。

 アピールを目論んだ選手にとっても、もどかしい試合となったに違いない。

 なかでも肩透かしを食らったのは西川だろう。打たれたシュートはわずかに2本で、うち枠内シュートはひとつのみ。コーナーキックの場面も一度しかなく、ゴールキックも1本だけ。セービングも、持ち前のフィード力も示す機会は訪れなかった。オリヴェイラ監督は「我々のGKは、試合を観戦するというような内容でした」と、守備的な相手を皮肉った。

 もちろん、西川はただ黙って後ろから試合を眺めていたわけではない。ピンチになる前に声で味方を動かし、ラインの裏に流れてきたボールに対しては果敢に飛び出し、ヘディングでクリアするなど守備範囲の広さも見せた。

「前半からいい守備はできていたと思います。守備陣は疲れてきたなかでもしっかりとリスクマネジメントを怠らず、自分も背後を意識しながら集中を切らさずにプレーできた。得点を獲れればよかったですけど、負けないという最低限の仕事はできた」

 ハリルホジッチ監督のもとで一時は守護神の座を掴んでいたが、後にその立場を奪われ、メンバー落ちする屈辱も味わった。しばらく代表から遠ざかっているものの、今季は安定感を取り戻しつつある。この日はアピールこそならなかったが、実績十分のこのGKの名前を西野監督がリストに加えてくる可能性は決して低くないだろう。

 3バックとしてスタメン出場した遠藤にとっても、物足りない一戦だったに違いない。それでも限られた守備機会を無難にこなし、正確なフィードで攻撃の起点にもなった。試合途中からはボランチに移り、ポリバレントな能力も示している。

「攻撃でどういうボールを出せるかという点では悪くなかったと思う。裏を使うところと、足もとに入れるところをうまく使い分けながらやれていた」

 守備の機会が少ないなかで、出し手としての役割をこなせたと自負する。代表について問われると、「僕自身は代表に入れるかどうかという立場にいると思う」と、自分の立ち位置を把握したうえで、「大事なのはしっかりと毎試合自分のよさを出すこと。まずは次のルヴァンカップとリーグ戦をしっかり戦って、その結果、選ばれればいいと思います」と、5月31日に発表される本大会メンバー入りに向け、残り2試合でのアピールを誓った。

 槙野のプレーからは、ある種の余裕が感じられた。

 遠藤と同様に守備機会は少なかったものの、後半から鳥栖のFWビクトル・イバルボがピッチに立つと、その存在感は強まっていった。高さと強さを備えた強靭なコロンビア人ストライカーに対し、槙野は臆することなく立ち向かっていく。ロングボールの競り合いではすべて勝利し、カウンターを浴びた場面では身体を弾き飛ばされながらも、突破を阻止した。

「イバルボが後半から出てくるのは想定していましたし、彼のプレーは頭に入れていました。空中戦、地上戦といろんな局面でマッチアップがあったけど、楽しみながらやれました」

 日本の初戦の相手であるコロンビア出身の元代表選手を完璧に抑え込んだ手応えは小さくないだろう。しかし、槙野は満足した様子も見せず、さらなる高みを見つめる。

「イバルボはもちろんいい選手だけど、(世界では)もっともっと力のある選手がいると思います。そういう相手に対してどれだけできるか、というところを意識して残り2試合をやっていかないといけない」

 西野監督が「これまでの選手がベースになる」と語っている以上、槙野の立場は揺るがないだろう。焦点は、ロシアでどれだけ活躍できるかだ。31歳にして初めて迎えるワールドカップの舞台で、かつて「調子乗り」と呼ばれた男が日本のカギを握る存在となるかもしれない。