<世界卓球選手権(団体)2018年4月29日〜5月6日・ハルムスタッド>世界卓球の熱戦をラリーズ独自の視点で振り返る、シリーズ・徹底分析。今回は女子団体決勝伊藤美誠(5月度世界ランク5位スターツSC)と劉詩雯(同10位)の一戦に迫る。いよい…

<世界卓球選手権(団体)2018年4月29日〜5月6日・ハルムスタッド>

世界卓球の熱戦をラリーズ独自の視点で振り返る、シリーズ・徹底分析。
今回は女子団体決勝伊藤美誠(5月度世界ランク5位スターツSC)と劉詩雯(同10位)の一戦に迫る。

いよいよ迎えた中国との最終決戦、重要な第一試合を任された伊藤がどのようにして最強中国の大黒柱、劉詩雯に勝つことができたのか、そこには伊藤の”成長”と、土壇場で繰り出した作戦があった。

世界卓球2018女子決勝第1試合:伊藤美誠(スターツSC) 3-2 劉詩雯



中国の劉詩雯。丁寧とともに長年中国を引っ張ってきた。
写真:新華社/アフロ

<スコア>
11-9/8-11/5-11/11-8/12-10

「動ける伊藤」への進化

中国との運命の一戦、1番手は伊藤。
劉詩雯の回転量が多いバックハンドに伊藤が合わせることができず失点が重なったことを見て、劉詩雯はロングサーブを伊藤のバックサイドやミドル(懐付近)に集める。

しかし伊藤の反撃が始まる。サーブから劉詩雯に甘くつなぎををさせて、「動ける」伊藤が回り込んで強打。フォアストレートへの鋭いスマッシュが決まる。

伊藤はこの的確なコース配分で大事な1ゲーム目を制した。

劉詩雯の策:伊藤のバックにロングサーブを出すことでバック対バックの対決に持ち込む



劉詩雯の徹底した伊藤のバックへのロングサーブ。ここから劉詩雯はラリーに持ち込んだ。
図:ラリーズ編集部

劉詩雯も簡単に流れを渡すことはできない。伊藤のバックにロングサーブを集め、バック対バックの展開に持ち込もうとする。
劉詩雯のバックハンドの方が伊藤よりも回転量が豊富で勝ち目があるからだ。

ここから劉詩雯はフォアハンドを使った攻撃を増やし、広角に打ち分けることで伊藤を翻弄。
劉詩雯はバックへのロングサーブを徹底。加えてフォアハンドで回り込み、台からやや距離をとって伊藤のテンポの早い球に対応しようとする。

続く3ゲーム目も、劉詩雯のバックへのスマッシュを返してくる。伊藤は慌ててフォアへコース変更するがそれすら読まれている。
伊藤はどこに打っても返してくる劉詩雯への焦りからかミスが連続してしまい、あっさり第2.3ゲームを落としてしまう。

4ゲーム目、劉詩雯はロングサーブを中心にしつつ、的を絞らせないためにフォアサイド手前(フォア前)にもサーブを時折出して来る。結果、劉詩雯の有利なラリー戦に持ち込み、得点を重ね、1-3になったところで日本側がタイムアウト。

タイムアウト後は伊藤が得意としている伸びるロングサーブを使い始め、3−3に並ぶと、伊藤はその後も劉詩雯のバックに上回転サーブを中心に集める。

伊藤、最後は劉詩雯のバックへのロングサーブを読んで、素早く回り込んでスマッシュ。
これで劉詩雯はやや伊藤のバックにロングサーブを出しにくくなってしまった。

伊藤の策:劉詩雯のフォアサイド手前(フォア前)にサーブを出し、強く打たせない



伊藤が最後に中心にした戦術。バックへのロングサーを減らし、劉詩雯が強くレシーブをできないようにした。
図:ラリーズ編集部

迎えた最終ゲーム、伊藤はいきなり1-5と劉詩雯に大量リードを許し、コートチェンジ。(卓球では最終ゲームのみ、どちらかが5点を取ったらコートチェンジを行う)だが、ここでミラクルプレー。

劉詩雯のネットインを広い、劉詩雯のスマッシュを”みまパンチ”でカウンターして得点。ここから流れが変わり始める。

そのミラクルプレーがこちら

ここから伊藤が戦術を変え、フォア前へのサーブを中心に展開し、劉詩雯にレシーブを強く打たせない。
劉詩雯が繋いで来たレシーブを回り込んで強打する展開で劉詩雯を追い詰める。

しかし8-9の場面で伊藤は劉詩雯のサーブをロングサーブと予測したが思ったより短いサーブで、レシーブがチャンスボールになり、劉詩雯のマッチポイントになる。

そこで諦めなかった伊藤は驚異の集中力で10-10と追いつくと、最後はネットインとなったが勝利の女神が伊藤に微笑んだ。

試合後、日本ベンチに戻った伊藤はチームメイトと握手をしながら、目に涙を浮かべており、「まだ試合は終わってない」と溢れ出てくるものを懸命に我慢しているようだった。

試合中には一切自分の感情を見せない伊藤だが、今回の試合でわずか17歳にのしかかった重圧は想像を絶するものだったと思われる。

このプレッシャーをはねのけ、見事中国に土をつけた伊藤。これからの活躍に期待がかかる。

世界卓球2018女子決勝第1試合の動画はこちらから

文:ラリーズ編集部