シーズンごとにルールのマイナーチェンジがあるフィギュアスケート。なかでも五輪の次のシーズン前には大幅なルールの改正が行なわれる。平昌五輪から早くも3カ月。正式には6月にスペインで開催される国際スケート連盟(ISU)の総会で決まるが、主…

 シーズンごとにルールのマイナーチェンジがあるフィギュアスケート。なかでも五輪の次のシーズン前には大幅なルールの改正が行なわれる。平昌五輪から早くも3カ月。正式には6月にスペインで開催される国際スケート連盟(ISU)の総会で決まるが、主な変更は以下のようになると言われている。

(1) ジャンプの基礎点がこれまでよりも下がる。
(2)出来栄え点(GOE)の加減点が、プラスマイナス3の7段階から、プラスマイナス5の11段階に拡大される。
(3)男子とペアのフリー演技の時間が現行の4分30秒から4分に短縮される。
(4)男子フリーでジャンプの数が8個から7個に減る。
(5)プログラム後半にすべてのジャンプを跳ぶことに何らかの制限を加える。

 ここでは(1)と(2)を中心に、変更の意味するところは何か、それによって演技の何が変わるかを考えてみたい。



羽生結弦が平昌五輪で跳んだ4回転ジャンプはSPで2本、フリーで4本だった

 日本スケート連盟の強化部長を務めた経験があり、国際ジャッジの資格を持つ吉岡伸彦氏は、「ISUの技術委員会が一番重要だと考えているのは、フィギュアスケートのプログラムをひとつの作品として完成度の高いものにしてもらいたいということです。基本的にはその方向性でルール改正も動いています」と語る。

 まず、ジャンプの基礎点だが、従来の基礎点から0.1点~2点強の見直しが検討されているようで、特に4回転ジャンプの下げ幅が大きくなる可能性がある。これは4回転のトーループとサルコウがジャンプに組み込まれてきた近年の男子の戦いを踏まえての変更だろう。それにともない、ここ数シーズンは8.5点だったトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の基礎点も下がる見通しだという。

 吉岡氏は言う。

「基本的にここ2シーズン、4回転ジャンプを跳んだ数で勝負が決まってしまうという傾向がなきにしもあらず、でした。実際はそうでもないんですよ。例えば平昌五輪の羽生選手の得点の内容を見ると、結果的にコンポーネンツの高さで勝っており、4回転の数が少なくても勝ったのですから。

 ただ、やはり『4回転を跳んだ者勝ち』という感覚はあって、4回転ジャンプだけの勝負ではつまらないということで、技術と芸術の点数の差をちょっと縮めていこうという動きです。ジャンプの数を増やす方向ではなく、完成度を上げる方向に持っていこうということです。

 トリプルアクセルの基礎点を下げることになったのは、昔はすごく難しいジャンプでしたが、いまはもう男子はほとんどの選手が跳ぶようになり、価値を上げる必要性はないということでしょう。それに、トリプルアクセルの点数を落とさないと4回転ジャンプの点数が落とせないからという理由もあります」

 では、GOEの幅を広げることではどのような変化が起きるだろうか。まず、出来栄えのいい選手には高得点がつき、そうでない選手の減点幅が大きくなる。GOEの差で勝負が決まるケースが多くなることも考えられる。また、7段階を11段階にするのは、出来栄えをより細かく見ていこうという動きだろう。

「より質的なものを問うようにするという方向での改正です。実際にふたを開けてみないとわからないところもありますが、ジャッジがGOEをどうやって判定しているのかというと、そのためのガイドラインがこれまでは8項目ありましたが、これを6項目に集約しようと動いています。

 いままでは8項目中、2項目に該当すればプラス1を、4項目に該当すればプラス2をつけ、6項目に当てはまったらプラス3にしていました。改正しようとしているGOE加点ではそれを6項目に変更したうえ、おそらくそのうちの3項目を必須項目にして、必須項目がなければ4点や5点はつけられないようにしていくのではないでしょうか。フィギュアスケートにとって大事な項目を網羅していないエレメンツには、プラス3点以上は出さないというようなことを考えているようです」(吉岡氏)

 いずれにせよGOEの採点幅が広がることで、上質のエレメンツにはしっかりと点数を出し、そうでないものにはさほど点数が出ないという判定がなされるようになれば、勝負の妙が際立ってくるに違いない。

 それでは、このようなルールの変更は選手たちの演技にどういう影響を与えるのだろうか。

「大きなルール改正となりますが、選手がやることはこれまでと変わらないと思います。難易度の高いジャンプを跳ぶのをやめることもないと思います。ただ、プログラムの完成度を上げるために、新しいものを増やすよりは、ひとつひとつの要素の完成度を上げることに力を入れる可能性はあります。それによって、今までよりも出来、不出来の差がつきやすくなるかもしれません」(吉岡氏)

 来季に向けたルール改正は、言ってみれば「フィギュアスケートの本質とは何か」をしっかりと見据えた形で行なわれることになりそうだ。そうなれば、五輪シーズン以上にエキサイティングな戦いが繰り広げられるに違いない。