「お台場でしっかり優勝することができて、とってもうれしいです!」

 坂口佳穂(22歳/マイナビ)の笑顔がはじけた。

 マイナビ・ジャパンビーチバレーボールツアー2018 第2戦・東京大会(5月3日~5日/お台場海浜公園)において、坂口と鈴木悠佳子(30歳)のペアはこれまで打ち破れなかった”壁”を突破してベスト4入りを決めると、その勢いのまま駆け上がっていって表彰台のてっぺんに立った。



ツアー第2戦の東京大会で優勝を飾った鈴木悠佳子&坂口佳穂ペア

 坂口にとっては「絶対に負けたくない」大会だった。

 過去最高の成績は5位タイ。ホステスプロとして3年目を迎える今年は、それ以上の結果を残したいと思っていたし、同時にツアー初の4強入りを果たして、今シーズンへの弾みもつけたかった。

 ただ、それ以上に大きかったのは、国内の有力チームが同時期に行なわれたワールドツアーへ軒並み参戦したため、第1シードを与えられたこと。4強入りどころか、ツアー初優勝の期待まで膨らんで、そんな周囲の期待に応えたい、応えなければいけない、という気持ちが何より強かった。ホステスプロであれば、なおさらである。

 初日、2日目と大きな重圧を感じながらも、坂口&鈴木ペアは予選プール戦2試合を完勝。プールA1位で決勝トーナメントに駒を進めて、準々決勝も難なく勝ち上がった。

 最終日、準決勝は石坪聖野(さとの/22歳)&柴麻美(22歳)ペアと対戦。坂口と同い年のチームは、攻守にバランスの取れた侮れない相手だ。

 第1セットは序盤からミスが続いて、相手にリードを許してしまう。なかなか点差を詰められず、「悪い癖が出たら、ズルズルいきそうだった」(鈴木)という。しかし終盤、坂口のスパイクが冴えて追いつくと、デュースの末に24-22で競り勝って第1セットをモノにした。

 第2セットは常に先行したものの、逆に終盤、勝ちを意識してリズムを崩した。その隙を相手に突かれて、猛追されてしまったが、21-18で何とか逃げ切り勝ち。セットカウント2-0とストレート勝ちで、決勝進出を決めた。

 リードされても焦らず、最後まで諦めずに追いつくあたりは、チーム力の高さを感じさせた。一方で、ゲームの立ち上がりと終盤において、精神面での課題が浮き彫りになったことは、決勝に向けての不安材料となった。

 決勝の相手は、浦田景子(40歳)&田中麻衣(34歳)ペア。こちらも有力チームが不在のなか、「(この大会は)優勝しなくてはならない」と繰り返していた強豪だ。

 浦田は、強打を武器とした攻撃力の高いベテラン選手。片や田中は、全日空の現役客室乗務員という異色プレーヤー。ビーチバレーボール選手とキャビンアテンダントの”二刀流”ながら、メキメキと力をつけてきている実力者だ。

 浦田&田中ペアのふたりはこのオフシーズンに、ビーチバレーが盛んなブラジルで長期トレーニングを行なって、フィジカル的にも、技術的にもレベルアップ。大きな手応えを得て、今シーズンに臨んできている。

 坂口&鈴木ペア、そして浦田&田中ペア、双方に大きな期待とプレッシャーがかかった決勝は、意外な展開で進んでいく。

 ふたりでプレーするビーチバレーボールでは、当然レシーブした選手がスパイクを打つことになる。そのため、坂口&鈴木ペアと対戦するチームは、おおよそ鈴木よりも身長が低くて、経験の少ない坂口をサーブで狙う。

 しかし第1セット、相手の浦田&田中ペアは「(鈴木)悠佳子の状態がよくない」(浦田)と見て、サーブを鈴木に集中させた。これが功を奏した。

「(相手の狙いに対する)準備はできていたが、(スパイクを)どこへ打てばいいのかわからなくなった」という鈴木がミスを連発。前日好調だったスパイクは、田中のブロックに肝心なところで止められて、サイドアウトが切れなくなった。

 また、立場が逆転した坂口も、「いつも悠佳子さんに助けてもらっているのに、なかなか助けられなかった」と、鈴木のミスをうまくカバーできなかった。結局、坂口&鈴木ペアは中盤から一気に置いていかれて、15-21の大差で第1セットを失った。

 それでも第2セットに入ると、鈴木も立て直して本来の力を発揮。坂口のクロスへの強打、ストレートへのショット(軟打)も決まり出して、次第にチームとしてのリズムを取り戻す。そのまま、優勢にゲームを進めて20-17とセットポイントを握った。

 ところが、簡単にセットは奪えなかった。田中のミラクルレシーブや、浦田のサービスエースに屈して連続4ポイントを失い、20-21と反対に王手をかけられてしまう。その直後こそ、鈴木が強打を決めてデュースに持ち込んだが、相手の勢いのほうが完全に上回っていた。




勝負どころで決まった坂口のサーブ

 ここで、サービスの順番は坂口に回ってきた。サーブについては、以前よりも自信を深め、練習を重ねて精度を上げてきた。

「絶対に決める」

 悪い流れにあっても、坂口は怯(ひる)まなかった。意を決して放ったジャンプフローターサーブは、ライト側に構える田中のさらに右側、サイドラインぎりぎりに逃げながら落ちていく。田中は懸命にレシーブするも、ボールはネットにかかってサービスエースとなった。

 22-21。再びセットポイントを奪い返すと、坂口の気合いは一層増した。続けて放ったサーブも、まったく同じ軌道を描いて同じ場所に飛んでいった。

 今度は田中もボールに触れるのが精一杯。ボールは真横に弾み、坂口&鈴木ペアが第2セットを奪って、セットカウント1-1のタイとした。

 最終セットもお互いに譲らぬ白熱した展開となったが、「悠佳子さんが『(スパイクを)どうやって決めればいいのかわかった』と言っていたので、大丈夫だと思っていた」と坂口。一時は相手にリードを許す場面もあったものの、落ち着いたプレーで相手に食らいつき、鈴木の”名誉挽回”を期すクロスへの強打で同点、圧巻のブロックで逆転した。

 そして最後は、相手の田中のスパイクがサイドラインを割って、坂口&鈴木ペアの初優勝が決まった。第1シードとしての意地があり、ホステスプロとしての責任もあった坂口が言う。

「(最後まで)絶対に諦めない、という気持ちを持っていた」

 その言葉を裏付けるように、敗れた浦田はこう語っている。

「あそこは(坂口)佳穂が引っ張るチーム。佳穂が当たってきたときにどうするのか、対応し切れなかった。最後は佳穂の気持ちの強さに負けた」




負傷を抱えながらも、懸命にボールを追いかけた坂口

 今シーズンは、すでにワールドツアーでも奮闘している坂口&鈴木ペア。アジアの強豪であるタイやオーストラリアのチームに勝って、バヌアツのチームとも接戦を演じてきた。国内の有力チームにも、徐々に競り勝てるようになっていた。

 まさに順調な仕上がりで、坂口にとっては4年越しの目標であるベスト4入りも時間の問題と思われていた。それが今回、見事目標をクリアし、それ以上の成績を残した。国内ランキング上位チームが出場しなかったとはいえ、ツアー優勝という結果に変わりなく、その戦いぶりは十分に称えられるものだ。

 実は、前週に行なわれたJVAカップにおいて、坂口はゲーム中に頭からコンクリートの壁に突っ込んで負傷していた。額にテニスボール大のこぶができて、今大会の出場も危ぶまれたほどだ。精密検査の結果、大事には至らなかったものの、左目の周りにアザが残ったままプレーする姿は痛々しかった。

 負傷をものともせずに手にした栄冠。満面の笑みを浮かべる坂口の目はまだ腫れが残っていた。だが、かつてない輝きを見せるその目は、勝利の余韻に浸ることなく、早くも先を見据えている。

「課題も出ましたが、このいいパフォーマンスを高いレベルで続けていきたい。これからも、(国内の)主力チームにも勝てるようにがんばっていく」

 坂口&鈴木ペアが2勝目を挙げるのも、それほど時間はかからないかもしれない。