東海大・駅伝戦記  第24回



東海大陸上競技部中・長距離ブロック新主将となった湊谷春紀

 東海大学の新チームが動き出した。

 新1年生の入寮は3月上旬にあったが、4月から正式に新しいシーズンになる。主将に湊谷春紀、副将には三上嵩斗(しゅうと)が就任した。

 東海大の主将はシーズン終了後に3年生が集まって選考するのではなく、”主将にあるべき振る舞いや仕事を事前に学ぶべし”という両角速(もろずみ・はやし)監督の考えから、すでに3年の時には湊谷が次期主将になることが既定路線となっていた。本人も「次は自分が」という意識で上級生たちを支えてきたのだ。

 そうして主将となった湊谷だが、改めてどうチームを引っ張っていく覚悟なのか。

「自分は、なかなか言葉でガツッと言えないぶん、走りで引っ張っていくしかないかなって思っています」

 湊谷の性格はおとなしくてまじめ、また粘り強く物事に対応できる選手だ。ただ、リーダーシップを発揮して、グイグイとチームを引っ張っていくタイプではない。そこは前任者の春日千速(ちはや)に少し似ている。

 両角監督は新主将に期待しているが、要求は厳しい。

「今、彼は自分が走ることでいっぱいいっぱいだと思うんですけど、これから客観的に自分をキャプテンとして見た時、キャプテンとしてやれているのかどうかを常に考えて、しっかりとチームの舵取りをしてほしい」

 両角監督が期待するのは、湊谷が主将としてチームを牽引するのはもちろん、彼自身が主将というポジションを経験して成長、進化してほしいということだ。それが監督の育成理念のひとつである「社会でリーダーシップを執(と)れる人材の育成」につながる。

「箱根の優勝を目指している青学や東洋のキャプテンは熱く意気込みを語っているけど、うちのキャプテンはどうなんだとなった時、発信力がないと周囲の人もチームの選手たちも物足りなさを感じてしまう。口下手なので、背中を見てくださいって言うんじゃ、今までの彼と変わらないんでね。

 私はリーダーというのは自分の思っていることをきちんと伝えられないといけないと思っています。彼にはそういう部分で激変……、うーん進化してもらわないといけない」

 そんな両角監督の言葉を伝えると湊谷は、「自分がやれることをやるだけですね」と、冷静に受け止めていた。だが、主将として自分が考えていることをきちんと伝えるのは、チームをまとめていくためには不可欠なことだ。言うべきことを言うべきタイミングで伝えていかないと、誰も耳を傾けなくなってしまう。

 もちろん、個性派揃いの選手たちをひとつにまとめるのは容易ではない。前主将の春日が全員で仕事を分担したり、新たなルール作りをしたりとチーム改革を推し進めるなかで、チームメイトから反発を喰らい、苦しむ姿を湊谷は間近で見てきていた。

「いろんなことを変えていこうとして、春日さんが率先してやっていたのは、すごいなって思っていました。でも、反発があって、何かを変えていくことはそういうことなんだなって思いましたね。

 変えていく場合、みんなが『いいよ』って協力してくれればいいけど、簡単にはいかないのは昨年見てきてわかっています。僕はすべてを変えることがいいとは思わないので、例えば昨年始めた4年生全員に役職をつけて、全学年で仕事を分担するのはやめました。仕事によっては、ほとんど機能しないところもあったので。今年は大きく何かを変えることはしないですね」

 では、”新しく”何かをやろうと考えているのだろうか。

「僕は、チームの強さは人間的な部分だと思うんです。人として当たり前のこと、挨拶とか、体操の時の声かけとか、そういうところをしっかりすることが練習に対する意欲とかに直結してくると思うんです。だから、基本的なことを徹底していこうと思っています」

 今年のチームも昨年から引き続き關颯人(せき・はやと)、鬼塚翔太、館澤亨次、阪口竜平ら新3年生が中心になる。

 一方、湊谷ら4年生は存在感がもうひとつだ。昨シーズン、15名いる湊谷たちの代はなかなか結果を出せずにいた。出雲駅伝は出走者がゼロ、全日本大学駅伝は三上がひとりだけ。箱根駅伝は湊谷と三上の2人が走ったが、主力は2年生で5名の選手が出走した。そこで輝いた中島怜利(れいり)と館澤は、ふたりとも2年生だった。チーム内のヒエラルキーは学年と競技力で形成されるが、新3年生はチーム内で大きな存在になり、発言力もより増していくだろう。その3年生ら主力選手をどうまとめていくのか、その舵取りも大きなテーマになる。

「昨年も2年生が中心になっていたし、今年も3年生が主力になるのは当然で、そうあってほしいと思います。僕らは昨年、力がある学年ではなかった。今年も力のある選手が少ないし、思うような結果を出せていないんですけど、下のチームで頑張ってくれている選手がいる。僕は彼らを含めた選手に対して、競技への姿勢や背中で引っ張っていくしかないかなって思います」

 前主将の春日は、今年のチームが大きな結果を残せるか否かは、湊谷が3年生をまとめるというよりも、3年生がいかに湊谷をサポートしていけるかに懸かっているという。

「新チームは、みんなタイムがあるので強いし、層も厚くなっている。競技面では心配していないですけど、3年生が4年生をサポートする姿を見せてほしいなって思いますね。3年生が好き勝手やっていたら、湊谷の胃にストレスで穴が開くと思うんで(苦笑)。ほんと、そこだけですね。3年生が協力してくれれば、今年のチームは湊谷を中心にひとつにまとまると思います」

 春日は「湊谷は主将としては自分と似たタイプ」とみているが、それゆえに心配なとこがあるという。我が強い3年生とうまくかみ合わない場合、いろいろと考えすぎてしまい、競技に影響してしまうのではないか、ということだ。

「そこがちょっと心配かな。そういう時、あいつの精神面が心配ですけど、基本的にみんなの信頼が厚い選手。あいつが言えば、みんないうことを聞くでしょ」

 春日は、最後は湊谷の人間性が信頼を得るとみている。だが、湊谷自身は春日が言うほどチームをまとめることを楽観的にとらえていない。

「なんかミーティングで僕の言っていることとか、みんな聞いているのかなって思う時があるんですよ。高校の時とかは主将が話をするとビシッとして聞いていたと思うんですけど、大学生になると違いますね(苦笑)。たぶん聞き流されてます。これからチームをまとめていくのは大変ですけど、それも経験かなって思ってやるしかないですね」

 今年のチーム目標は「長距離5冠達成」になった。関東インカレ、全日本インカレ、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝を制するということだ。テーマは、「速さを強さに」と決めた。前回の箱根で5位に終わった時、両角監督が「うちは、速さはあるけど強さがない」と漏らしたことが、そのままチームのテーマになっている。

「長距離5冠は、昨シーズンの結果を見るとインカレ2つと出雲は獲れているんで、残りは全日本と箱根だけ。全日本は最後負けたけど十分戦えていたし、箱根はなんで負けたのかなって考えると、ミスが多かったと思うし、ほとんど自滅だった。

 今年の選手の持ちタイムを見ていくと、チームとして勝てる力はあるし、その力をしっかりと出し切ることができれば、結果はついてくると思うんです。だから、5冠は決して無理な目標じゃない。そのために今年もスピードを強化しつつ、その磨いた力を出せるか。それを活かせないのは人間的な強さ、粘り強さ、我慢強さ(の不足)だと思うので、人間力を強くしてスピードを強さに結びつけていきたいと思っています」

 昨年は出雲駅伝で10年ぶりに優勝し、全日本駅伝は最後のアンカー勝負で負けたが準優勝だった。その勢いで箱根を獲るかと大きな期待が寄せられたが、甘くなかった。しかし、だからこそ今年の東海大に対する期待は大きい。実力があり、選手層も厚い。5連覇を目指す青学や強敵・東洋大を倒せるチームは、今季も東海大が最有力候補であることは間違いない。

「箱根への期待は感じます。逆に恐さも昨シーズン」経験しました。出雲に勝って、全日本でも戦えていた。でも、箱根があーなってしまうと、すべてダメみたいになってしまう。それだけ注目度が高いので、今季は箱根で結果を残さないといけない。個人的には往路復路どちらでもいいですが、走る以上、区間賞を獲らないといけないと思っています」

 湊谷自身は、秋に向けてハーフマラソンなどロードの練習を中心にしていく。トラックでは1万mで日本選手権の標準記録突破を目指している。

「7月のホクレン(・ディスタンスチャレンジ)、もしくは夏明けの大会で結果を出したいですね。最低でも自己ベストを更新して、秋の駅伝シーズンに備えたい。今季は箱根で勝ちたいんで」

 主将として最上級生として選手として、箱根への強い意欲を見せた。湊谷の言葉にはビッグマウスもリップサービスもない。話す内容や姿勢からも実直な人柄が見えてくる。1年間、いろんなことで鍛えられて湊谷がどうチームをまとめ、チームとしてどんな結果を出していくのか。

 5冠制覇に向けて望星丸(東海大の海洋調査研修船)の大航海の成否は、湊谷の舵取りにかかっている。

(つづく)

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