それは、もう二度と見ることができないかもしれないシーンだった。 ジローナの本拠地、エスタディ・モンティリビで行なわれたリーガエスパニョーラ第36節、ジローナ対エイバル。UEFAヨーロッパリーグの出場権を争っている直接のライバルである両…
それは、もう二度と見ることができないかもしれないシーンだった。
ジローナの本拠地、エスタディ・モンティリビで行なわれたリーガエスパニョーラ第36節、ジローナ対エイバル。UEFAヨーロッパリーグの出場権を争っている直接のライバルである両チームの対戦は、1-4でエイバルが大勝した。
後半のロスタイム、乾貴士が豪快な右足のシュートを放つと、ボールはジローナGKヤシン・ボノの手を弾き飛ばし、ポストに当たりながらチーム4点目のゴールとなった。その直後、ピッチ上にはキャプテンのダニ・ガルシアと笑顔で”お辞儀パフォーマンス”をする乾の姿があった。
ジローナ戦にフル出場、1ゴール1アシストの活躍を見せた乾貴士
エイバルのプリメーラ(1部)昇格に力を尽くしたダニ・ガルシアは、エイバルから約30km離れたスマラガの出身。ほぼ地元が生んだ選手といっていい。だが、来季は同じバスク地方のライバル、アスレチック・ビルバオへ移籍すると言われている。
乾はこれまでもインタビューの中で、何度となく仲がいい選手としてダニ・ガルシアの名前を挙げてきた。仲がいいからこそ、信頼し合っているからこそ、2人は普段から「カブロン(クソ野郎)!」などと、侮辱的な暴言スレスレの言葉を、親愛の表現として投げつけ合っていた。だが、どちらも来シーズンはエイバルのユニホームを身にまとって戦うことはない。プロ選手としての宿命だろう。
ミックスゾーンで乾は、次節のラス・パルマス戦がエイバルでのホームラストゲームであることについて質問されると、ひと呼吸を置いてから、この3年間を思い出すように言葉を発していった。
「かなり感慨深いものがありますね。やっぱりすごくこの3年間は自分にとって充実していたし、エイバルは選手として成長させてくれたチーム。監督、チームメイト、ファンを含め、全部が自分にとってプラスしかなかった。
スペインで最初にエイバルでやれたのは自分にとってよかったと思います。また、機会があれば、チャンスがあれば、いつかここでやってみたいという思いもある。まあ、それはエイバルが断ると思うけど(笑)。でも、自分の中にはそういう思いもあるのは伝えておきたい」
乾はこう言って、このバスク地方の小さな街のクラブで現役を引退することも考えたという話を打ち明けてくれた。そして30代に突入するサッカー小僧は、選手として成長していくため、そして長くサッカーをプレーするために、移籍という道を選択したことをあらためて口にした。
「30歳になっても成長していく選手を今まで何人も見てきている。自分もそういう選手になりたいし、30代に入って落ちていくというのは嫌だ。まだまだ伸びたいし、いろいろなサッカー、知識を増やしたい」
「長いことサッカーをやりたいし、それは日本で2部、3部でも全然いい。年を取ってからはそういうところでもやりたいし、とにかく長くサッカーを続けたい。そのためには、ここ(スペイン)でまだまだうまくなって、いろいろな知識を得ていきたいなと思います」
1日でも長くスペインでプレーすることを望む乾。その願いが実現したら、再び彼とダニ・ガルシアが同じ道を歩むようになることも、ないとは言えないはずだ。
いずれによせよ、泣いても笑っても2人がエイバルのチームメイトとして戦えるのは残り2試合となった。できることなら2人のお辞儀パフォーマンスを今シーズンのうちにもう一度見てみたいものだ。それはエイバルの背番号8番がゴールを決め、キャプテンが祝福する幸せな瞬間を意味する。それはなによりエイバルの人々が楽しみに待っているものだからだ。