日本代表の西野朗新監督が視察に訪れたことで、ひさしぶりに新聞の紙面を飾った井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ)。だが、ホームで行なわれたそのコルドバ戦も、井手口がベンチ入りすることはなかった。初の海外移籍としてリーガエスパニョーラ2部…
日本代表の西野朗新監督が視察に訪れたことで、ひさしぶりに新聞の紙面を飾った井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ)。だが、ホームで行なわれたそのコルドバ戦も、井手口がベンチ入りすることはなかった。初の海外移籍としてリーガエスパニョーラ2部で積み重ねている日々は、思い描いていた予想図とは違うものとなっている。
クルトゥラル・レオネサで出場機会を失っている井手口陽介
デビュー戦となったアウェーでのオサスナ戦で見せたプレーは、スペインでも十分に通用すると感じさせるものだった。臆することなく相手選手と競り合う姿は、スペインでも戦える選手として今後の活躍に期待を抱かせてくれた。
だが、井手口にも、これまでの日本人選手を苦しめてきた日本とスペインの戦術の違いが重くのしかかる。
これまでスペインでチャレンジしてきた、主として攻撃的な日本の選手たちの多くも、加入直後は恐れることなく勢いのあるプレーを見せていた。だが、徐々にチームのことを理解するようになると、頭の中をいくつもの選択肢がかけめぐり、答えを出すことができなくなっていった。自然とプレーが小さくなってしまい、監督の信頼を勝ち取れず、やがて使われることがなくなる、というのがパターンだった。
さらに井手口を厳しい状況に追い込んだのは、そのポジションとチーム状況だ。
複数のシステムを使用するルベン・デ・ラ・バレラ監督のサッカーでは、井手口のポジションはチームの根幹となる。チームの中で誰よりも戦術を理解していないといけないポジションなのだ。そしてチームは、リーガ37節終了時点で降格圏と勝ち点差4の16位と低迷している。とても新たな戦力を試す余裕はない。そんなチーム状況も、井手口にチャンスが回ってこない理由だと言える。
イングランドのリーズ経由でガンバ大阪からクルトゥラル・レオネサに加入した井手口。戦術理解に関していえば、一番の特効薬は通訳をつけることであるのは間違いない。だが、ここでも混乱が生じてしまった。シーズン終了後にはチームにいるかどうかわからない選手に対して、無理をしてまで通訳をつけようという意思がクルトゥラル側に希薄だったこともあり、通訳選びは二転三転し、必要以上に時間がかかってしまった。
現役時代には日本人選手とプレーをした経験のあるバレラ監督自身は、井手口の力を評価していないわけではない。3月に話を聞いたときには、日本人MFの力を買っているし、「特に攻撃のセンスはすばらしい」と話してくれた。ただ一方では、守備時のポジショニングや、ボールを奪いにいくときのタイミングをもっと修正しないといけないと、課題も指摘していた。
井手口の置かれた現状を正直にいえば、このまま飼い殺しのような状態で、試合に出ることができないままシーズンを終える可能性は否定できない。
だが、西野監督が試合翌日の練習にまで足を運び、しっかりと視察をしたということの裏を読むとしたら、井手口が試合に出ていなくても、コンディションがよければ代表に招集するということだろう。
スタートダッシュでつまずいたスペインでの挑戦。だが、これで井手口の海外での戦いが終わったわけではない。得るものは少なかったかもしれないが、この4カ月で血肉となったものもきっとあるはずだ。なによりもこれほど厳しい状況にあって、井手口自身が腐っていないことは大きな収穫といえる。
来シーズン、おそらく井手口がスペインにいることはないだろう。ただ、クルトゥラル・レオネサでの失敗もまた、次なるステージで間違いなく力になるものと信じている。