NPB通算403本塁打を放ち、セ・パ両リーグで本塁打王を獲得した山﨑武司氏。そんな名スラッガーが、今春センバツ大会に出場した高校生強打者10名の打撃を徹底診断した。 パワーだけでなく、飛距離を出すためのメカニズムを重視する山﨑氏の眼鏡…

 NPB通算403本塁打を放ち、セ・パ両リーグで本塁打王を獲得した山﨑武司氏。そんな名スラッガーが、今春センバツ大会に出場した高校生強打者10名の打撃を徹底診断した。

 パワーだけでなく、飛距離を出すためのメカニズムを重視する山﨑氏の眼鏡にかなう強打者はいたのか? 約半年後のドラフト会議に向けて、好素材のスイングをチェックしていこう。



センバツで18打数9安打の好成績を残した大阪桐蔭・根尾昂

根尾昂(あきら/大阪桐蔭/177cm・78kg/右投左打/投手・遊撃手・外野手)

彼の2年時から言っていることですが、上位指名は間違いありません。個人的には投手ではなく、野手としてやってほしいですね。ただ力があるだけでなく器用さもありますし、間違いなく野手に向いています。中学時代にアルペンスキーで日本一になったそうですが、体のバランスがいいから強くスイングできます。ただ、高い次元で見ると、上半身と下半身の連動という部分に今後の課題を感じます。腰の動き方に対して上半身が合わないときがありますからね。上と下の動きがうまくかみ合うようになれば、すぐにプロでも活躍できますよ。



足のケガもあり万全ではなかったが、大阪桐蔭の4番としてセンバツ連覇に貢献した藤原恭大

藤原恭大(きょうた/大阪桐蔭/181cm・78kg/左投左打/外野手)

大阪桐蔭らしく大きくフォロースルーが取れますし、上半身の使い方がとてもうまいですね。下半身をどっしりと構えて、あまり体重移動をせずに、どちらかと言うと上半身で捉える。足も速いですし、とても素晴らしい素材だと感じます。今後に向けてのポイントは、「遊び」。下半身をどしっと固めて、手もあまり動かさない打ち方なので、柔らかさがあまりないのが気になります。どこかで動きに遊びを作ってあげることで柔らかく打てるようになり、変化球に対しても強く対応できるようになるはずです。



昨年からレギュラーとして活躍し、右の強打者として注目を集める山田健太

山田健太(大阪桐蔭/183cm・83kg/右投右打/二塁手)

右の強打者らしく、パワーを感じる打者です。右中間方向に強い打球を飛ばせる打ち方をしています。少し気になるのは、ややクロスステップするので、投球と衝突するような打ち方になることですね。構えからピッチャー方向に背番号が見えるのですが、左肩が入り過ぎた状態のまま、真っすぐに戻らずにステップしてしまう。上のレベルではインコースが狭く感じてしまうはずです。このステップと、藤原くんと同様に上体の遊びを作ってあげること。それができれば、さまざまな攻め方にも対応できる打者になるはずです。



逆方向にも長打が打てるパワフルなバッティングが魅力の智弁和歌山・林晃汰

林晃汰(智辯和歌山/181cm・88kg/右投左打/三塁手)

強く振ること、遠くに飛ばすことに関して、天性の力を持った打者だなと感じます。インパクトで左手首を返して逆方向(レフト方向)にもホームランを打ってみせるように、腕を上手に使える選手ですね。ただ、体全部を大きく使ってタイミングを取るタイプですが、上の世界ではここまで大きなアクションでタイミングを取らせてもらえません。足も腰も腕も、全部の動きが大きいので、レベルの高いクイックモーションやキレのある速球に対応できなくなる恐れがあります。どこかの部位でタイミングのポイントを絞れるようになるといいですね。



攻守でチームをけん引する明秀日立の主将・増田陸

増田陸(明秀学園日立/178cm・80kg/右投右打/遊撃手)

この選手を初めて見ましたが、非常に面白いですね! 体は細身に見えるのに、バットを強く振れますし、長打も打てる。新庄剛志(元日本ハムほか)とイメージが重なります。この選手のポイントは、タイミングを合わせるのが上手ということ。足を高く上げて、フォロースルーの大きなスイングができますが、下半身と上半身をバランスよく連動させるのがとてもうまい。安定してボールを見られますから、選球眼もいい。決してホームランバッターではありませんが、走攻守そろった選手として僕のイチオシですね。



1年夏から名門・東海大相模の4番を打つなど、抜群のセンスを見せる森下翔太

森下翔太(東海大相模/180cm・77kg/右投右打/外野手)

高打率を残せそうな打撃をする選手ですね。投手に向かって真っすぐステップできるから外のボールをしっかり見逃せるし、上半身のブレが少なくて、腰を早く開くこともありません。ただ、気になるのは右手の使い方。やや左手にかぶせるような握り方で、スイングにしなりが出にくいんです。最近は「後ろ手で押し込む」という打撃理論をよく聞くようになりましたが、「押す」より「返す」ほうがバットがよく走るんです。左手主導の打撃ができるようになれば、上の世界でも通用するでしょう。



シュアなバッティングだけでなく、強肩攻守の遊撃手として注目を集める延岡学園・小幡竜平

小幡竜平(延岡学園/180cm・73kg/右投左打/遊撃手)

長打力というよりは、バットコントロールのうまいアベレージヒッタータイプですね。ハンドリングが上手で、ヒジを畳んでうまく捉えられる。高校生にはないうまさを持っています。ただ、より上の世界を見据えるなら、スイングに「強さ」がほしいところですね。うまさはあるだけに応用力で結果が残せてしまいますが、高校生の時点で身につけたいのは、しっかりと振れるようになること。強く、飛ばすスイングを磨いておけば、上の世界で高い応用力がさらに生きてくるはずです。



昨年秋の中国大会で1試合4本塁打を放った瀬戸内の主砲・門叶直己

門叶直己(とがの・なおき/瀬戸内/183cm・90kg/右投右打/外野手)

昨秋の中国大会で1試合4本塁打を放った右のスラッガーと聞きましたが、たしかに体に力があることを感じます。とくに甘いインコースにツボがある打者なんでしょうね。気になったのは、タイミングの取り方です。テークバックでグリップを捕手側に一度引いて、そのまま打ちにいくならいいのですが、そこから再び引く「二度引き」をするのでミスショットが多くなる。また、右手が強いからボールを引きつけて待てる長所があるものの、右手が出るタイミングで左腰が折れてしまうので外のボールをさばくことが難しいでしょう。体の使い方にこだわってみてほしいですね。



パワーと柔らかさを兼ねたバッティングが魅力の日本航空石川・上田優弥

上田優弥(日本航空石川/186cm・97kg/左投左打/外野手)

体は大きいですが、バットコントロールもいいし、バッティングの形も悪くありません。彼に求めたいのは「体のキレ」ですね。体にキレがない分、腕力に頼ったスイングをしているのでスイングが思いのほか走っていません。力任せのスイングをする打者は好不調の波が激しくなってしまいます。プロの強打者には、バットに当たる瞬間のスピードがあります。このスピードを出せるように、上の舞台では動きの質を追求してもらいたいです。



センバツ初戦の中央学院戦でサヨナラ3ランを放った明徳義塾の4番・谷合悠斗

谷合悠斗(たにあい・ゆうと/明徳義塾/178cm・85kg/右投右打/外野手)

センバツでは、初戦の中央学院戦で逆転サヨナラホームランを打った右打者ですね。体に厚みはあるし、強打者としての雰囲気を持っています。ただ、そのわりにスイングに力感を感じないのが引っかかります。打ちにいく際に重心がホームベースに寄って、前さばきでスイングする。サヨナラホームランもこの形でした。この打ち方だとインコースに詰まってしまいます。体に力はあるので、そのパワーをもっとバットに伝えられる使い方を学んでほしいですね。

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 清宮幸太郎選手(早稲田実→日本ハム)、安田尚憲選手(履正社→ロッテ)がいた昨春と比べると、どうしても小粒感はありましたが、それでも魅力的な打者も多く発見できました。

 特に増田くんの強く振れる姿は印象に残りました。明秀学園日立からは細川成也選手(DeNA)も育っていますし、金沢成奉監督の打撃指導の素晴らしさが際立ちますね。

 外国人打者は下半身をピタッと止めて、上半身のパワーを生かして飛ばすことができますが、日本人打者は全身をフルに使ったほうが飛距離を出せると僕は考えています。下半身の強さと上半身の器用さ、その両方を兼ね備えないとプロの世界で活躍することは難しいでしょう。

 高校生は、たった数カ月で別人のように変わります。夏の甲子園でも、1人でも多くの高校生離れしたスイングを見せてほしいと思います。

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山﨑武司がセンバツ10人の強打者を評価。特に「ベタ惚れ」なのは?