10トライを奪われ0-60。大敗しても得たものがある。
 スクラムも押されまくった。
 それでも気持ちは折れていない。
 学びの機会に感謝だ。

 成蹊大学のPR鈴木瑛敬(すずき・あきひろ)は5月5日、ホームの成蹊大けやきグラウンドでおこなわれた関東大学春季大会の拓大戦で80分ピッチに立ち続けた。
 人工芝のグラウンドは、照りつける日差しに30度を超えていただろう。その中で185センチ、110キロの4年生は最後まで声を出し続けた。

 4年生の背番号3はスクラムの要だ。この日はセットプレーで劣勢に回ったが、理由はあった。
 HOに入った山本京太郎は、バックローから転向してまだ日が浅い。主将のPR古市龍馬を怪我で欠いいた。留学生2人を含む、大柄な相手パックの圧力をまともに受けてしまった。
 この日の6人のフロントローで唯一の最上級生だった鈴木は言った。
「ゴールデンウイークは校内で合宿をやってきました。FWはスクラム、モールを中心に取り組んできたのですが、パワーがあって重い相手にはまだまだと、あらためて分かりました。スクラムはHOの経験も浅く、コントロールできませんでしたが、のびしろがあると考えます」

 ただ、モールには手応えを感じたところもあった。
「形は作れた。いい方向に進んでいます」
 前日に試合直後のスクラム練習を拓大にお願いしていたから、フルタイムの笛を聞いた後もピッチに残り、何度もぶつかり合った。
 そのセッションが終わっても、鈴木はフロントロー仲間と組み方についてあれこれ話し続けていた。

 昨年度、一昨年度と、関東大学対抗戦Aで戦った成蹊大。鈴木は、チームが2季連続でA残留にとどまる力になった。
 途中出場が多かった2、3年生の頃。
 それは、勝負所に投入されることを意味していた。

 この人の存在価値が特に高まったのが入替戦だ。昨年も一昨年も接戦で制した80分。背番号18は両試合で終盤に出場し、スクラムを安定させ、押し、勝利をたぐり寄せた。
「この2年、途中出場時にやることは明確でした。スクラムとモールで前に出る。そこに集中しました」
 それがチームに求められるものだったからだ。

 今季は違う。4年生としてチーム全体に影響力を与え、FWをまとめないといけない。先発で長い時間プレーすることも必要だ。
「やらなきゃいけないことがたくさんあります。80分プレーするのはキツいけど、楽しいことも多い」
 周囲を引っ張りながら、個を高める意欲にあふれる。

 千葉経済大学附属高校出身。野球をやりたかったが、丸佳浩(広島東洋カープ)らを輩出する強豪クラブへの入部は難しく、先輩たちが楽しそうに活動していたラグビー部に入部し、楕円球を追い始めた。
 最初から3番で、以後ひと筋。もともと背は高く、体重が20キロほど増える中で力もついていった。
 スクラムに自信が出てきたのは大学2年時あたりからだ。入学後、志村太基や近鉄ライナーズに入った石井智亮など、1学年上の強力PRに練習でボコボコにされるうちに強くなった。

 辛い日々の中で自分のスタイルをつかんだ。「絶対に折れないこと。それが大事」と話す。
「どんな圧力を受けようと、自分の体がゴールラインに対して垂直になる姿勢を保つように体を使うんです」
 低さも徹底する。
「そこは、このチームの伝統です」
 拓大戦の味方1番、2番は、それぞれ168センチ、170センチと小柄だったが、構えるときには3人が揃って相手より低く構えていた。
 ひとり暮らしも、部全体で取り組む食トレ、筋トレで体を作る。大盛りスパゲティーを10皿食べられると笑う男は、今季のチームが掲げる「打倒・日体大」の目標実現に向けて、もっともっと強くなりたい。

 理工学部で、より良いモノ作りにつながる勉強をしている。
 将来は学んだことを活かせるところで働きたい。そして、できるだけ高いレベルでラグビーを続けられたら。その両方に全力で取り組める将来を頭に描く。
 そのためにも、ピッチでもっと動きまわる。「自分から、スクラムとモールでチーム全体を引っ張れるように頑張ります」と、存在感をもっとアピールするつもりだ。
 ラグビーにとことん取り組める世界に進んだ石井先輩は憧れの人だが、自分が途中出場する時には、その人が1番に移ることも少なくなかった。
 そんなときに感じた自信と信頼をパワーに、高みを目指す。