9秒台には届かなかったが、手応えはつかんだ山縣亮太

 4月29日に行なわれた織田記念男子100m。決勝前の山縣亮太(セイコー)のスタート練習を見ていると、スタートしてからの加速で上半身の力を使っているように見えた。

 予選前のスタート練習の動きはもう少し力感を抑えたものだったが、昼の予選では、「スタートが遅れた印象が強かったので、それが中盤以降の走りの伸びにつながってこない感じがした」と言うように、追い風1.7mでも10秒24にとどまった。

 山縣の今季最初のレースは、3月のオーストラリア。10秒15で走ったが「スタートで少し重心が後ろに乗ってしまうような印象があった」と振り返る。その修正を課題として取り組んできたものの、織田記念の予選では、まだ不安が残った。

 そのため決勝へ向けては、スタートからしっかり力を出していく走りをイメージしたという。

「中盤以降に力を残しておくか、スタートからいって逃げ切るレースをするか、悩んだところではありました。だけど、やっぱり予選と同じような走りをしていたら、ある程度結果が見えていたので、自分の中で今後につなげるという意味で、スタートからいったらどうなるだろうな、と考えた。中盤以降の伸びは少し足りなかったかもしれないけど、大体のタイム感覚と手応えはつかめたので、次のレースのイメージが沸きやすくなったと思っています」

 決勝では序盤でしっかり抜け出すと、しっかりとケンブリッジ飛鳥(ナイキ)などの追撃を振り切り、追い風1.3mの条件の中、10秒17で優勝した。

 山縣は昨シーズン、得意なスタートから序盤だけではなく、中盤から後半の走りにも磨きをかけようとパワーアップを意識。3月11日のオーストラリアでは10秒08、10秒06で走る好発進をしたが、足首を痛めて春の国内シーズンは欠場が続いた。ぶっつけ本番で6月23日からの日本選手権に出場したものの、決勝で10秒39の6位という結果に終わった。

 その後、7月の実業団・学生対抗競技会や8月の中国5県対抗選手権を走ってスタートの感覚を取り戻すと、9月24日の全日本実業団対抗選手権では目指していた中盤以降の走りと、得意なスタートが結びついてくると追い風0.2mの条件で10秒00を出した。

 だが、9秒台が見えてくる位置まで状態を上げたところで、再びケガをしてしまう。

 冬季トレーニングでは、10秒00の感覚を忘れないようにと練習をしてきたが、今季に入っても、まだ感覚は戻りきっていない。山縣は「感覚的に言えば、10秒00を出した17年のレースよりも、もっと前の16年の走りに近いなと感じています。ただ、それを17年の感覚に戻すという発想ではなく、今の自分がさらにタイムを縮めていくためには何が必要なのかというのを、しっかり見極めていく必要がある」と話す。

 よかったことと言えば、昨年と違ってオーストラリアの初戦から織田記念までをケガなくつなげられたということだ。

「仮に今日の走りを日本選手権でやったとしたら、勝てないと思いますね。今は日本でも本当に強いライバルがいるので、目標にしているアジア大会の(代表)選考を勝ち抜くこと自体が非常に厳しくなっている。だから1戦1戦、修正をしていく必要がある。その中でどこまで記録を縮められるかわかりませんが、10秒00を出したという事実があるので、そこに自信を持ってやっていきたいと思います」

 今大会へ向けての仕上がりもよく、予選も全力に近い走りをしたにもかかわらず10秒24だったという結果は、ある意味予想外だったと山縣は振り返る。しかし、これまでも決勝に向けてしっかり修正を加えていくと、0秒2ほどタイムが上がることもあった。

 決勝も条件次第では、10秒0台が狙えるのではないかと思っていた。

「ゴールした時は『やったー、1番でゴールした!』と思って、期待をして掲示板を見たら、10秒17だったので『思ったより出ていない』というのが正直な気持ちでした。自分の中では、もっと出ていると感じていました」

 ただ、この日は女子の100mや100mハードル、男子の110mハードルも含めて表示された風の条件の割に記録が出ていなかった。

 山縣も「吹き流しのある位置ではビュービュー風が吹いているのに、僕らが立っているレーンのところではあまり風を感じなかったり、逆に強い追い風を感じているのに実際の数値は低かったときもあった」という。その意味では数字に現れない難しさがあったレースだった。

「決勝のスタートは悪くなかったと思うし、手応えもある。ただ速い動きがやり切れていなかったことが中盤の硬さになったと思うけれど、今回はスタートの刺激も入った。こうやって練習を積み重ねていけば、スタートと中盤がつながってくると思う」と手応えを口にした。

 試合後、そう語った山縣の次のレースは5月20日のゴールデングランプリ大阪で、今回は出場しなかった桐生祥秀(日本生命)や多田修平(関西学院大)のほか、ジャスティン・ガトリンやアイザック・ヤング(ともにアメリカ)という9秒台選手との対戦になる。そこでどんな走りができるか。

 10秒26で2位になったケンブリッジとともに、どこまで走りを修正できるかが次のポイントになる。