試合終了のホイッスルが鳴ると、吉田麻也は思わずピッチに倒れ込んだ。 仰向けになってピッチに寝転ぶと、両手を顔に当てたまま動けない。しばらく経って上半身だけ起き上がると、最後はチームメイトのMFジェームズ・ウォード=プラウズに持ち上げら…

 試合終了のホイッスルが鳴ると、吉田麻也は思わずピッチに倒れ込んだ。

 仰向けになってピッチに寝転ぶと、両手を顔に当てたまま動けない。しばらく経って上半身だけ起き上がると、最後はチームメイトのMFジェームズ・ウォード=プラウズに持ち上げられ、ようやく立ち上がることができた。



守備陣のリーダーとして勝利に貢献した吉田麻也

「疲れ果てた(笑)。ここで負けると本当にまずかったので、とりあえずひとつ勝ててよかった」と吉田。疲労困憊の様子は、シーソーゲームの接戦となったサウサンプトン対ボーンマス戦の激闘を何よりも物語っていた。

 降格圏18位のサウサンプトンと、残留圏17位のスウォンジー・シティの勝ち点差は「4」。残り試合が「4」となった今、ここからの1試合、1試合が生死を分ける大事な一戦となる。特にリーグ戦で8試合勝利のないサウサンプトンにとって、ホームでのボーンマス戦は「勝ち点3」が絶対に必要な試合だった。

 満員に膨れ上がったホームサポーターの声援に後押しされるように、立ち上がりからサウサンプトンは気迫のこもったプレーを見せる。3−4−2−1のセンターバック中央に入った吉田も、落ち着いた守備で最終ラインを引き締めた。

 重圧のせいか、10分には22歳のCBヤン・ベドナレクがクロスボールへの対処で判断を躊躇(ちゅうちょ)。周りには敵がいないのに、ボールをコーナーキックへ逃してしまう。思わず下を向くベドナレクを、吉田は手を叩いて励ました。

 そんなサウサンプトンに待望の先制点が生まれる。敵のクロスボールを吉田がヘッドでクリア。カウンターアタックにつなげ、最後はセルビア代表MFのドゥシャン・タディッチがネットを揺らした。ゴールに沸く選手たち。吉田も両腕を広げて喜んだが、すぐに気持ちを切り替え、オランダ代表DFのヴェスレイ・フートとポルトガル代表DFのセドリック・ソアレスの守備陣に指示を出した。

 これで勢いに乗ったと思いきや、しかし前半のアディショナルタイムにマークのズレから失点――。極端なゴール欠乏症に悩むサウサンプトンに嫌なムードが立ち込める。

 普段ならこのままズルズルと引き分けてしまうサウサンプトンだが、2部降格の危機に瀕(ひん)しているこの日は違った。後半開始から9分後にタディッチが加点し、ふたたびリードを奪うことに成功したのだ。

 すると吉田は、両手を胸に当てたまま、下を向いてしばらく動かなかった。神様に祈りを捧げているようにも見えたその仕草から、この試合にかける強い思いが伝わってきた。

 ここから日本代表DFは、ボーンマスの猛攻を跳ね返し続けた。76分には元イングランド代表FWジャーメイン・デフォーに入ったパスを身体を張ってブロック。相手のロングボールも渾身のヘッドでクリアし続けた。DFラインの上げ下げを指示しながら、時に味方を大声で鼓舞して最終ラインをひとつに束ねた。

 そして、試合終了――。激闘の末にサウサンプトンは勝ち点3を掴み、同日にチェルシーに敗れた17位スウォンジーとの勝ち点差を「1」に縮めた。試合後、吉田は語る。

「しんどかった(苦笑)。でもまあ、残留争いってそういうものだから。とりあえずここで勝ち点(3)を取れたのは大きい。スウォンジーは負けているし、次のエバートンで勝ち点が取れたらさらにいい。(5月8日の)スウォンジー戦では必ず勝ち点3を取らなければいけない。(記者:勝利でチームの雰囲気は好転する?)変わると思います。スタジアムの雰囲気も変わったし、この流れでいきたいなと思います」

 吉田の奮闘は、この試合の視察に訪れた日本代表の西野朗監督にとっても心強かったに違いない。

 左ひざ内側側副じん帯損傷のケガから実戦復帰し、ボーンマス戦で公式戦5試合目。「映像では確認していますけど、実際どういう状態でやっているのかを確認したい」と試合前に語っていた西野監督は、吉田のプレーを「ずっとフォーカスして見ていました」と言う。

「復帰してだいぶ体調が戻っているし、ゲーム勘も戻っている。さらにトップパフォーマンスが出るようになると思います。『だいぶ身体も動く』と言っていたので、安心しました」

 また、吉田が3月に行なわれた日本代表の強化試合をケガで欠場したため、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任した経緯についても説明したという。

「選手からいろいろ聞いているようですけど、自分の口から『こういうことでこうなった』と。『混乱しているとは思うが、理解してやってほしい』と話した。

(プレミアリーグは5月)13日で終わる。全体よりも1週間早く終わるんで、そのへんのキャンプまでのもっていき方だとか(を話した)。代表のことはあまり要求せずに、クラブでパフォーマンスを出せるように。1週1週、あと3週、がんばれってことです」

 吉田にとって、プレミアリーグでの残り試合は「3」となった。今後のスケジュールは、エバートン戦(アウェー)、スウォンジー戦(アウェー)、マンチェスター・シティ戦(ホーム)の3試合。

 最低限のノルマは、残留争いのライバルである17位スウォンジーを下したうえでの「2勝」だろう。2勝1分けで乗り切れば、ほぼ間違いなく来季残留を果たせるはずだ。サウサンプトン、そして日本代表の守備の要人として、まだまだ気の抜けない試合が続く。