フェンシング女子フルーレで日本人最高位(2018年3月時点)に位置し、2020年の東京オリンピックでも活躍が期待される…
フェンシング女子フルーレで日本人最高位(2018年3月時点)に位置し、2020年の東京オリンピックでも活躍が期待される狩野愛巳選手。前回はこれまでの競技経験、そしてご自身の考えるフェンシングの魅力などについてお伝えしました。
来年から迎えるオリンピックシーズンを前に、どんな取り組みをしているのか。そして目指す目標はどこにあるのか、引き続き狩野選手にお話を伺っていきます。
▶前編:身体能力の高さじゃない。“駆け引き”の中におもしろさがある。現役早稲田大生アスリートのフェンシング・狩野愛巳(前編)
怪我に悩まされつつ、しかし目標はブレさせない
よくスポーツに怪我はつきものと言われますが、もちろん、怪我をしないで済むに越したことはありません。怪我すれば完治するまで競技はお休み。身体が鈍ってしまったり、精神的につらさを抱えてしまうことでしょう。実のところ狩野選手は怪我が多く、現在も手首を痛めていると言います。
「フェンシングは特殊な競技で、いろいろな部位を怪我してしまいます。実は先日、手首を手術したので、1年間くらい競技を休むことになるんです。そうすればランキングも再びゼロからのスタート。来年からのオリンピックシーズンで同じような怪我を起こさないため、今は治療を優先しつつ患部以外のトレーニングを行っています」
瞬発力や手足のコンビネーションなど、さまざまな能力が求められるフェンシング。そのため、怪我している期間も“できること”は多いようです。しかしトレーニングではフェンシングほど強度が得られず、物足りなさがあるとのこと。少しでも早く完治させ、競技復帰できることを願います。
目指すは東京オリンピックでの金メダル!

競技するうえで狩野選手が現在目指しているのは、やはり東京オリンピックでの金メダル。そのとき持ちうる自分のベストを尽くし、結果を残すこと。そのために課題として取り組んでいるものが、“自己管理能力”です。
「私は突発的にいろいろやってみてしまう部分があって、これはいいところでも悪いところでもあります。気になったり興味を持ったことは、とりあえずやってみてしまうんですよね。でも自分の軸を持って判断・コントロールしないといけない場面は多いので、もっと自分を客観的に見ていく必要があると思っています。ですから今は、自分の弱い部分としっかり向き合い、埋めていくことに取り組んでいるんです。自分の生活管理を行うことは、フェンシングの技術以上に大切なこと。アスリートとしての本質をしっかり持てればこそ、どのような場面でも動揺せず、堂々と戦えるのだと思います」
狩野選手によれば、フェンシングは選手の人間性が見えるスポーツなのだとか。だからこそ試合は見てもらう価値があり、人に与える影響も大きいと語ります。
「観た人が力をもらえる、そんな競技がしたい」。東京オリンピックの金メダルとはまた異なるこの目標は、狩野選手が思い描く選手としてのあり方なのでしょう。その背景には、フェンシングという競技への純粋な愛情を感じます。
宮脇花綸選手は、共に高め合える大切なライバル
狩野選手と同年代のフェンシング選手として、筆頭に挙げられる1人が宮脇花綸選手。慶應義塾大学在籍の同年齢で、やはり世界を舞台に結果を残しています。この2人、小学生の頃から毎年のように全国大会で対戦してきたとのこと。過去には団体戦で共に戦ったこともあるそうです。
「小学生の頃からずっと一緒で、もしかしたら家族より共有している時間は長いかもしれません。同い年なので、遠征などでは相部屋になることが多いんですよ。部屋で話すことこそあまりないですが、本を交換したり、その感想を言い合ったり。私は直感型なんですが、宮脇さんは論理的な戦略家。頭の回転が早くてスタイルは真逆なので、だからこそ話しているとおもしろいですね。アドバイスし合うと、とても多くの気づきが得られます」

手強いライバルではあるものの、“敵”ではないという狩野選手。しかしいわゆる友達とも違い、お互いに高め合える大切な相手なのでしょう。
「ライバルとはいっても、比較することはありません。1人の選手として尊敬しています。もちろん勝ちたいと思っていますし、お互い練習中から駆け引きがありますね。練習では手の内を見せず、試合本番で明かすとか。私も相手のプレイは研究しているので、その結果、勝ったときの爽快感ったらないですよ。そうやって切磋琢磨できる相手がいることは貴重だし、ありがたいことだと思います」
宮脇選手に限らず、フェンシングにおいて他選手は比較する相手ではないとのこと。各選手のいいところは真似するのではなく、自分なりにアレンジして一部分ずつ組み合わせるのだとか。
「どんなにすばらしい選手でも、その人のいいところは、まねたところでその人以上になることはありません。それよりは、自分の長所をしっかり伸ばすことの方が大切です。宮脇さんはもちろん、いろいろな試合を見るとたくさんのヒントが得られます。成長に限界はなく、努力して掘り進めるほど金が出てくるような感覚ですね」
ライバルを含めた他選手は、自分に成長を与えてくれる相手。そして成長に限界はないと話す狩野選手の表情は、とても輝いていきいきとしていました。
フェンシングは自分の世界を広げてくれる
2020年に金メダルという目標を掲げ、怪我と戦いながらひたむきに努力を続ける狩野選手。最後に、フェンシングに興味を持たれている方々に向けて、メッセージをいただきました。
「フェンシングという競技に、向き不向きはありません。誰がやってもできるようになります。まだまだ競技人口が少ないものの、だからこそ大きな舞台で活躍できるチャンスもあるのではないでしょうか。競技を通じていろいろな人と触れ合い、友だちの幅も広がります。自分の世界、価値観も広がっていくはずです。まずはチャンバラ用のやわらかい剣でも構わないので、手に持って突いてみてください。最初は遊びでいいんです。遊んでみて楽しければ続けたらいい。まずは“フェンシングっぽいもの“にでも、少しでも多くの方が触れてくれたらうれしいです」
狩野選手自身も、最初は遊ぶような感覚からフェンシングという競技に触れ、次第に本気で取り組むほどハマっていきました。なにが興味を引き立て、将来に繋がるかなど誰にも分かりません。フェンシングに少しでも興味を持たれた方は、おもちゃの剣を手に取るところからでも始めてみてはいかがでしょうか。もしかしたらその1歩がキッカケで、狩野選手のように世界で活躍するアスリートが誕生するかもしれません。
[プロフィール]
狩野愛巳(かの・みなみ)
1996年11月生まれ、宮城県利府町出身。早稲田大学スポーツ科学部在籍。平成28年度、日本オリンピック委員会オリンピック強化指定のフェンシング選手。小学1年生からフェンシングを始め、世界選手権など世界を舞台に活躍する。現在、女子フルーレで日本人最高位。
【HP】http://www.kanomina.jp/
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com
<Text & Photo:三河賢文>