4月29日から、スウェーデン・ハルムスタッドで開催される世界卓球2018。テレビ東京でスポーツ番組のキャスターを担当し、ワールドカップ、アジアカップなど、卓球の取材を重ねるテレビ東京の福田典子アナウンサーが、注目しているポイントを語っ…

 4月29日から、スウェーデン・ハルムスタッドで開催される世界卓球2018。テレビ東京でスポーツ番組のキャスターを担当し、ワールドカップ、アジアカップなど、卓球の取材を重ねるテレビ東京の福田典子アナウンサーが、注目しているポイントを語ってくれた。

 5つのメダルを獲得した2017年の世界卓球・個人戦。個人戦と団体戦を毎年交互に行なっているため、今年は日本が史上最強メンバーで団体世界一に挑みます。


4月20日の記者会見と壮行会に出席した、世界卓球に出場する日本代表メンバー

 photo by Tamura Sho/AFLO SPORT

 まず、世界卓球2016マレーシアで39年ぶりに銀メダルを獲得した日本男子代表チーム。世界の頂点を目指すうえで、”打倒中国”の期待を大きく膨らませてくれたのが、14歳の張本智和選手です。

 4月上旬に横浜で行なわれたアジアカップの予選リーグで、張本選手は中国の世界ランク1位の樊振東(ハン・シントウ)選手を相手に、互角以上の戦いを披露します。第3ゲームを奪って2-1と先手を取ると観客席が「まさか……」とザワつきはじめ、第4ゲームも制して勝利を決めた瞬間には会場が大歓声に包まれました。

 中学3年生になったばかりの張本選手が成し遂げた偉業に、取材に訪れていた私も大きな感動を覚え、思わず立ち上がって拍手を送っていました。年々体が大きくなり、得意としていたバックハンドだけでなく、フォアハンドやフットワークの強化に取り組んできた成果が実を結んだと思います。

 体力・技術面はこれからさらに伸びていくと思いますが、その試合後の様子からは精神面の成長も感じることができました。

 今年1月の全日本選手権で優勝後、テレビ東京の『追跡LIVE!SPORTSウォッチャー』という番組でMCのビビる大木さんと一緒にインタビューをしました。その時には、まだ優勝が信じられないといった様子で質問に答えていましたが、質問によっては照れて答える場面もあり、中学生らしい一面が見え隠れしていました。



photo by Noto Sunao

 それが、アジアカップでの受け答えは今まで以上に堂々としていたのです。東京五輪についての質問には「金メダルを獲ります」と断言。先日、ナショナルトレーニングセンター(NTC)で世界卓球への意気込みを聞いた時も、「今年はこの大会に合わせて準備してきたので大丈夫です」と口にしていました。

 全日本王者になってからはマークがより厳しくなり、思うような成績が残せない大会もあるなか、アジアカップの時の張本選手は、技術面も精神面も一層磨きがかかっていると感じました。

 NTCでの取材では、対戦が予想される選手たちのプレーの特徴や、それに対して自分がどういった卓球をすれば勝てるかという細かな分析も教えてくれました。

 選手のなかには、試合中に集中の”ゾーン”に入って試合内容をあまり覚えていない方もいますが、多くの選手は0コンマ何秒という世界で繰り広げられた過去のプレーを一つひとつ記憶しています。

 張本選手は、その記憶を即座に、より具体的に伝えてくれました。ジュニア時代に対戦した選手や、映像で見た選手の特徴も含めた分析をあまりに細かく話してくれるので、「そんなに手の内を明かしてしまっていいのかな」と、こちらが心配になったくらいです(笑)。

 自信あふれるプレーや力強い意気込みの裏に隠された、自信の根拠を垣間見たような気がしました。

より強さを増していく張本選手が「今も憧れ。日本の卓球といったらこの人という存在」と話すのが、エース・水谷隼選手です。

 2016年のリオデジャネイロ五輪で、日本人初となるシングルスのメダル(銅メダル)を獲得した水谷選手は、今や誰もが知る日本男子卓球界のエースです。その水谷選手の全日本10度目の優勝を阻んだのが張本選手でした。

 昨年の世界卓球に続く連敗となり、大会後の「今日の張本がいつも通りの100%の力だとしたら、何回やっても勝てないと思う」というコメントも印象的でした。水谷選手が今年で29歳になることもあり、”世代交代”が頭をよぎったファンもいらっしゃったかと思います。

 しかし水谷選手は、今年3月の卓球ジャパン・トップ12の決勝で雪辱を果たします。その試合では”張本対策”が見事にハマりました。本来は少し台から離れて戦うところを、前に出てのカウンターで張本選手のフォアハンド側を攻め、バックハンドを封じました。そこに、豊富な経験で培った引き出しの多さ、戦略を確実に実行する力、2度負けた相手に3度は負けられないというエースとしてのプライドを感じました。

 NTCで水谷選手は「今回の世界卓球は、東京五輪に向けての何かとは考えていない。今が中国を倒すチャンス。張本は樊振東選手に勝って、個人で中国に勝つことを経験した。丹羽(孝希)もだんだん調子も上がってきて、僕自身も団体戦はすごく強いと思っている。それが噛み合っていけば奇跡を起こせる」と話していました。さらに、国際大会で実績のある松平健太選手・大島祐哉選手も顔を揃えています。このメンバーで起こす”奇跡”が楽しみでなりません!

 一方の日本女子は、団体世界一に向けて石川佳純選手がキャプテンを務め、高校3年生トリオの平野美宇選手、伊藤美誠選手、早田ひな選手、そして15歳の長崎美柚(みゆう)選手と、ジュニア時代を含めて全日本女王に輝いたメンバーで戦います。

 その中でも、日本卓球界の中国選手への苦手意識を払拭するひとつのきっかけを作ったのは、やはり平野美宇選手だと思います。

 リオ五輪では試合に出られませんでしたが、その悔しさが平野選手を強くしました。昨年の全日本を制すと、同年4月のアジア選手権のシングルスで、中国の3選手を破って頂点に立ち世界を驚かせます。

 その大会後には、もともと中国選手は雲の上の存在だったとしながらも、「同じ人間だから勝てないはずはない」と頼もしい言葉を残しています。”かなわない相手”ではなく、”倒しにいくライバル”として中国との戦いに臨んでいく。その姿が周囲の選手にもいい影響を与えていきます。



photo by Noto Sunao

 そんな平野選手の活躍が刺激になって、伊藤選手もさらに進化します。団体戦で銅メダルを獲得したリオ五輪以降は調子が上がりきらず悩んでいる時期もありましたが、それまであまり力を入れていなかった体幹トレーニングをしっかりやるようになったそうです。

 伊藤選手は、今年の全日本を圧倒的な強さで勝ち上がり、シングルスとダブルス、ミックスダブルスで優勝。見事、三冠を果たしました。体幹が強化され、課題にしていたフットワークがよくなり、パワーのある中国勢と勝負できるスピードを手にした伊藤選手が世界とどう戦うのか注目です。

 そして、平野選手、伊藤選手と同学年の早田選手。高校3年生トリオの中でも、この1、2年で急成長を見せています。世界卓球2017ドイツでも、伊藤選手と組んだ女子ダブルスで銅メダルに輝きました。自らの特徴について「フォアドライブのパワーは世界でもトップレベルかな」と自信を見せるほどのパワーを使って、中国とのダイナミックな卓球に期待したいです。

 さらに、最年少であり、”サプライズ選出”となった長崎選手。世界ランクこそ128位ですが、昨年の世界ジュニアで前年の女王である中国選手を破っています。早田選手と同じく、日本人の女子選手としては160センチを超える大型の選手。初めての世界卓球だからこその”サプライズ”な結果を見せてくれるかが楽しみです。

 そして、今回世界卓球で初めて日本女子のキャプテンを務める石川選手も進化を続けています。去年、平野選手に日本女王の座を奪われ、「久しぶりに全日本で負けたので、プレッシャーからは少し解放されたかなと思います。来年は挑戦者としてまた頑張ります」と話した石川選手。その後、バックハンドやカット打ちをより強化し、今年のアジアカップでは日本勢で唯一、表彰台に上がりました。

 準決勝では中国の陳夢(チン・ム)選手に敗れるも、「自分のペースになるプレーも増えてきた」と、自身の卓球の成長と、中国との差が縮まっている実感を口にし、進化を見せ続けてくれています。

 前回の団体戦が行なわれた世界卓球2016マレーシアでは、銀メダルを獲得したものの、決勝で中国に完敗。「一番悔しい銀メダルだった」と話すキャプテン福原愛さんの姿を間近で見ていた石川選手は、「前回の世界選手権のリベンジの分もありますし、この前のチームワールドカップの悔しい気持ちもすべてぶつけたいと思っているので、まずは世界卓球を全力で戦いたい」と熱く話していました。

 オリンピックと違い、真の世界最強国決定戦である世界卓球。日本が優勝を飾れば、約半世紀ぶりの快挙になります。それが夢ではないと思わせてくれる”日本史上最強のメンバー”の、8日間にわたる戦いをお見逃しなく!